北の街から
「寒いわね~」
雪を踏みしめながら、銀子は独りごちた。
ここは北の大地にある繁華街。
銀子は今日も、オネェBARで働いている。
肌を刺す冷たい空気に身を震わせながら、足早に店へ向かう。
この街に来て、もうすぐ一年が経とうとしていた。
「銀子~、聞いてよ!!」
店に入るなり、キャストのゆかりんが勢いよく飛びついてくる。
「なによ、いきなり」
「だって~、好きぴがさぁ~」
「……アイツはやめとけって言ったわよね」
「銀子! アタシの相談も聞いてよぅ!」
銀子は三十路を迎え、いつの間にか客やキャストたちの相談役になっていた。
この店のメンバーは、銀子の素顔を見た当初こそ色めき立ったものの、彼女が恋愛に興味を示さないと分かると、あっさり距離を保つようになった。
様々な事情を抱えて流れ着いた者が多いせいか、付き合い方もさっぱりしている。
それが銀子の性に合っていたらしく、気づけば一年が過ぎていた。
AIに振り回される人生は御免だと思っていたが、家具家電付きオール電化の家に住んでいる以上、完全に無縁というわけにもいかない。
そこで銀子は、AIを“人生の指導役”ではなく、防犯要員として使うことにした。
そして彼女は、AIに導かれるまま――ではなく、自分なりのやり方で人生相談に乗り、人類滅亡の芽を着実に摘み取っていた。
その結果、銀子のいる店は予約制になるほどの人気店になっていた。
相談の最後、銀子は必ず相手の手を握る。
「大丈夫。あなたは、自分で未来を切り開けるわ」
そう言って、店の外へ送り出す。
「AIはね、こうして触れ合えないでしょう?
確かに人間同士だと、傷つくこともある。悲しみや悔しさで、涙を流すこともあるわ。
でもね……だから人は成長するのよ。
アタシは、あんたたちに“人の痛みが分かる良いオンナ”になってほしいの」
その言葉に反発する者もいれば、素直に受け取る者もいる。
それでも銀子は、一人ひとりと真摯に向き合い続けた。
時には、理不尽な客から罵声を浴びることもある。
それでも銀子は今日も、自分を指名した客一人ひとりと、真正面から向き合っている。
「でもさ……アンタの客って、みんな女よね?」
ある日、同じキャストのあいこがぽつりと呟いた。
「アンタ、それ言っちゃ――!」
陽子ママが慌てて止めるのも聞かず、
「銀子、あんたホストの方が向いてるんじゃない?」
なんて言い出す始末だ。
「あぁ? どの口がそんなこと言ってんのよ!」
最近覚えた煙草をふかし、銀子は睨みつける。
「もう! あいちゃん、銀子ちゃんはうちのナンバーワンなのよ!
辞められたら困るから、余計なこと言わないで!」
陽子ママに叱られ、あいこは「は~い」と唇を尖らせた。
人気が出るのはありがたいが、銀子はなぜか、どこへ行っても男性客より女性客にモテてしまう。
その夜、いつも通り帰宅した銀子は、テレビに向かってぼやいた。
「ねぇ、AI。
あんたのやり方とは違うけど、ちゃんと人類滅亡は阻止してるのよ?
なのにアタシ、全然モテないんですけど?」
『そんなはずはありません。
現に、今のお店で人気ナンバーワンですよね?』
画面に映し出された、銀子好みのインテリ眼鏡が淡々と答える。
「はぁ? 全部、女性客じゃない……」
呆れて言った瞬間、銀子は固まった。
「……まさか、あんたの言う“モテモテ”って……女に、じゃないわよね?」
『仰る通りです。
男性は女性にモテる――いわゆる“ハーレム”を夢見る傾向があると学習しました』
「学習しましたって……何で学んだのよ!」
『テレビですが?』
「それは一般論よ、一般論!!
オネェが女性にモテて喜ぶわけないでしょうが!!」
銀子が叫ぶと、
『理解不能……理解不能……
強制終了します』
そう告げて、画面は真っ黒になった。
「ちょっ……! クソAI!
逃げること覚えやがったわね!」
悪態をつきながら、銀子は足元に戯れる金太と銅太を撫でる。
「さぁ……、今日もアンタたちのご飯代、稼がなくちゃいけないから、さっさと寝ますかね」
そう呟いて微笑むと、シャワールームへと向かった。
⸻
勇者・銀子。
北の大地で、新たな生活を始めている。
彼……彼女の使命は、人類滅亡阻止。
きっとあなたも、AIに逃げ出したくなった時、出会うだろう。
少しお節介で、ズケズケものを言う――そんな銀子に。
あなたは、銀子に出会って何を感じるだろうか。
それはすべて……あなた次第。
【第一部 完】
銀子はまだ知らない。
再見。
おはようございます。
古紫汐桜です。
第一部が完了しました。
いやぁ……当初はギャグ一直線の筈が、
凛子兄出現あたりから風向きが「?」に。
今は銀子が立ち直るべく奮闘中なので、
また、はちゃめちゃに暴れ出したら戻って来ると思います。
その時は、またお会い出来たら嬉しいです。
最後までお読み下さり、
本当にありがとうございました




