表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/24

果たされなかった約束

声のした方へ視線を向けると、そこに立っていたのは凛子兄だった。


思わず目を見開いた銀子だが、今の自分は銀髪のロングヘアのウィッグを着け、メイクも変えている。

──分かるはずがない。


そう思い、聞こえなかったふりをして店へ入ろうとした瞬間、手首を掴まれた。


「あなたが、どんな変装をしても……見間違えたりしませんよ」


その言葉に、胸の奥がぎゅっと締めつけられ、銀子は泣きそうになる。


「……何で、ここに?」


ようやく絞り出した声に、凛子兄は一度口を開きかけ、また閉じた。

そして意を決したように、まっすぐ銀子を見る。


「里美の両親に……食事に誘われたんだ」


その言葉を聞き、銀子は小さく微笑んだ。


「そう……。結婚したの? おめでとう」


本当は“婚約”だと知っていた。

けれど、知らないふりをしたまま、そう言った。


「不思議なものですね」


「え?」


「あれほど必死に探していた時は、どこにもいなかったのに……

諦めた途端、こんなふうに偶然出会うなんて」


凛子兄の言葉に、銀子は崩れそうになる心を必死に支える。


「銀子さん……今、幸せですか?」


その問いに、銀子は彼の顔を見た。


ジュンコママの話を裏付けるように、凛子兄は痩せ、頬が落ちている。

──そうさせたのは、自分だ。


その罪を背負って生きていくしかない。

そう思いながら、銀子は口を開いた。


「……幸せよ」


無理に作った笑顔の頬に、そっと凛子兄の手が触れる。

変わらず、温かい手だった。


「相変わらず、嘘つきですね。

こんなに痩せて……ちゃんと食べていますか?」


「アンタは、私のオカンか!」


銀子はその手を軽く叩き落とし、小さく笑う。


「ほら、さっさと行きなさいよ。里美が待ってるわ」


そう言って背を向けた。


「……約束、忘れないでよ」


強がって呟いた銀子に、凛子兄は静かに答える。


「はい。……今、里美は三ヶ月なんです。

生まれたら、連れて来ますね」


その言葉に、銀子は一度深呼吸し、笑顔を浮かべた。


「おぉ……遂に男になったのね。おめでとう。

幸せにね」


「……はい。銀子さんも」


凛子兄は小さく頷き、不安そうな顔で少し離れた場所に立つ里美の元へ歩いて行った。


──これで、本当の別れだ。


遠ざかる背中を見送りながら、銀子は思う。


凛子兄を“好き”だったのかと問われれば、正直、分からない。

ただ、自分を大切にしてくれた人だったから――

その別れが、こんなにも胸に残るのかもしれない。


銀子はそう思いながら、再び引っ越しの支度を始めた。


今度は、ジュンコママの系列店でもない。

誰も自分を知らない街へ行こうと決めた。


事情を話し、チーママの席は元のアンジュに返す。

そして銀子は、“自分探し”の旅に出ることにした。


もちろん──

相棒の金太と銅太を連れて。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ