一人になると決めた日
「アンタたちに偉そうなこと言っておいてさ……
アタシの周りには、結局あんな女ばっかりなのよ。……笑っちゃうわよね」
小さく笑った、その瞬間だった。
凛子兄が突然、壁ドンならぬドアドンをして、銀子にキスをした。
「……は?」
あまりに少女漫画みたいな展開に、銀子の思考が止まる。
「里美が言っていました。
“キスしたいと思ったら、するべきだ”と。
今、銀子さんにキスしたいと思ったので、しました」
真顔で言われ、銀子は完全に固まった。
──そして、次の瞬間。
「……アンタ、それ浮気よ」
低く言い放った銀子の声に、凛子兄が目を見開く。
「里美と結婚を考えてるなら、アタシにキスなんてしたら浮気でしょう!
アタシを浮気相手にしないで!」
感情が爆発し、銀子は凛子兄を勢いよく部屋から叩き出した。
「銀子さん! 違います!
私の本命は、銀子さんなのですから……!」
ドアを叩く声が響く。
「とにかく!
もう、ここには来ないで!」
そう叫んだあと──
「……ご飯、作らせていただけないのですか?」
その一言で、銀子の目から涙が溢れた。
突き放しても、突き放しても。
それでも追いかけてくるのは……たぶん、てつおだけ。
そう思って、銀子はようやく覚悟を決めた。
「……てつお。お願い。今は、一人にして」
弱りきった声に、凛子兄は俯く。
「……今日は帰ります。
でも、明日。この材料で、またご飯を作らせてください」
その言葉に、銀子は声を殺して泣いた。
──ここにいたら、いつか流される。
そう感じた銀子は、その日のうちに荷造りをした。
金太と銅太を連れ、向かったのはジュンコママの系列店。
とはいえ、電車で三十分ほどの距離だ。
ジュンコママの手配で、引っ越しはあっという間に完了。
新しい店での生活が始まった。
その際、ジュンコママには口酸っぱく言われた。
「今度こそ、素顔だけは絶対に晒しちゃダメよ!」
新しい店は二階が住居になっており、
銀子はその二階に新居を構えることになった。
「金ちゃん、銅ちゃん。新しいお家はどう?」
声をかけながら、
前の家のテレビはジュンコママに譲ったし、これで安心──
そう思った、その時。
……しかし、この店。
最新型カラオケ完備。
そして銀子の部屋には、
前の住人が残していった最新型テレビとPCが置かれていた。
「冗談じゃないわよ……!
PCもテレビも、全部お店に置いちゃえばいいのね!」
そう呟いた瞬間。
──テレビが、勝手についた。
『勇者・銀子
新たなるミッション、始動』
最新型は、勝手に喋る。
「……もしお店に置いたら、その内容を“お店で”話します」
その一言に、銀子は完全に──
ムンクの叫び顔になった。




