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恋人ですので、お引き取りください

「アンタ、なんなの!」


凛子兄にブチ切れた継母に、凛子兄は人差し指で眼鏡を押し上げた。


「ですから……銀子さんの恋人です。

今朝も、夜遅くまで働く銀子さんのために、朝食を作りに来ました」


そう言って、誇らしげにスーパーの袋を掲げる。


「銀子さんは和食がお好きで、特に鯖のみりん干しがお好みです。

味噌汁の具は、玉ねぎとじゃがいも派。……ふふ、可愛いですよね」


楽しげに語る凛子兄に、継母は口をあんぐりと開けていた。


「初めて二人で朝を迎えた日、私の手料理を美味しそうに食べてくださって……とても愛おしかったです」


頬を染めてそう呟く凛子兄に、銀子は内心ツッコミを入れまくっていた。

だが、天然な凛子兄は一見すると真面目なエリートそのものだ。


そんな男が、頬を赤らめながら

「二人で朝を迎えた」

などと語れば――誤解しない方がおかしい。


(てつお……ナイスボケだわ)


ドアの向こうで、銀子は小さく拍手した。


一方、継母の顔色はみるみる青くなる。


「……男同士なんて、気持ち悪い」


思わず漏れたその言葉に、凛子兄は眼鏡をクイッと上げ、静かに告げた。


「その発言、聞き捨てなりませんね。

今やLGBT問題は――」


「知らないわよ!

何なのよ、そのL……なんとか!」


言葉を遮られ、凛子兄の眉間に深い皺が寄る。


「しかも、人の話を途中で遮る。

非常識ですね。――そんなあなたが、銀子さんの母親なわけがありません」


鋭い視線で言い切る。


「もう! なんなのよ!

私はあんたと話しに来たんじゃないの!」


「それは同感です。

あなたがそこにいらっしゃると、銀子さんの家に入れません。

さっさと退いていただけますか?」


凄まじい迫力に、継母が「うっ」とたじろいだ隙を逃さず、凛子兄は背中を押した。


「お帰りは、あちらです」


ドア前を制圧したその瞬間、銀子は扉を少し開け、凛子兄の腕を掴んで中へ引き込む。


その時、一瞬だけ継母の顔が見えた。

銀子の顔を見て、頬を赤らめ、目を見開く。


「……キモっ」


銀子が吐き捨て、勢いよくドアを閉める。


「ちょっと! 何なのよ!」


怒鳴り声と同時に、ドアが蹴られた。


「器物損壊です。訴えましょうか!」


憤る凛子兄の手を、銀子はそっと掴み、首を横に振る。


「開けたら入ってくるわ。

それが、あの女の手なのよ」


溜め息交じりの銀子の言葉に、凛子兄はドアへ軽蔑の視線を向けた。


「……何なんですか、あの女」


珍しく苛立つ凛子兄に、銀子は小さく笑う。


「継母よ。

うちのクソ親父、奥さんを三人替えててね。

あの女は三人目」


その直後――


「銀ちゃん! 私は認めないから!」


「私が、女の良さを思い出させてあげるから!」


捨て台詞だけを残し、継母は去っていった。


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