元カノ、現る──童貞を巡る三角関係、開幕
とんだ朝を迎え、気分が優れないまま店へ向かうと──
店の前をウロウロする女がひとり見えた。
無視して通り過ぎようとした銀子に、
「あなた!」
鋭い声が飛んだ。
舌打ちしたい気分を飲み込み、銀子はゆっくり振り返る。
「なに? アタシに用?」
細身で華奢。だが、“自分の女らしさを武器にしてきた”と一目で分かる、強かさが漂っていた。
そして──
「哲央さんと別れてください!」
銀子は目を丸くした。
「はぁ?」
「彼、真面目なんです。あなたと一晩過ごした責任を取るなんて言い出して……!
そのせいで私とは、やり直せないって……!」
銀子は思わず固まった。
「……え? てつおが、そう言ったの?」
「はい。一夜の過ちで、彼を縛るなんて酷すぎます!」
銀子は頭を抱える。
(てつお……どんな脳内変換してんのよ……)
「とりあえず、お店の前でやる話じゃないわ。営業前だけど入んなさい」
店に通し、事情をジュンコママへ伝える。本郷里美を奥の席に座らせた。
銀子は腕を組み、低い声で言う。
「で? アタシとてつおを別れさせて、アンタが元サヤに戻る?
ずいぶん都合のいい話ね」
本郷里美は唇を噛み──
「私のお腹には、彼の赤ちゃんがいるんです!」
銀子は──
ぶふっ! と盛大に吹いた。
「ちょっと! 何がおかしいのよ!」
怒る里美に、銀子は涙を拭いながら呟く。
「笑うしかないでしょうが。あいつ童貞なのよ?
どうやってアンタを抱くのよ。
“抱き方”すら知らないのに」
そしてテーブルをドンッと叩いた。
「さっきから調子に乗りやがって!
ふざけたことばっか言ってんじゃないわよ!」
本郷里美は鼻で笑った。
「ほら、本性出た。
それがあなたの正体でしょ?
野蛮で下品なおかまのくせに」
その瞬間──
「何をしているんだ!」
店のドアが勢いよく開いた。
「てつお!」
「哲央さん!」
本郷里美が豹変し、涙を浮かべながら凛子兄へ走り寄る。
銀子は呆気にとられる。
しかし凛子兄は本郷里美を受け止めつつ、苦笑いを浮かべ──
「銀子さん……てつおみです」
こんな状況でも“訂正ネタ”を忘れない凛子兄に、銀子の胸が痛んだ。
銀子は背を向けて叫ぶ。
「ケリつけるまで出禁って言ったわよね!」
凛子兄は静かに微笑む。
「はい。ですので、ケリはつけたのですが……
ところで君、なぜここにいる?」
冷ややかに問われ、本郷里美は震える声で呟いた。
「だって……哲央さんが騙されているから……」
銀子は、その光景をただ黙って見つめていた。




