三十歳で童貞だからって、腐女子の漫画で学ぶんじゃないわよ!
「よろしくお願いいたします」
──いま銀子は、自分のマンションで凛子の兄と二人(正確には猫二匹とAIもいる)。
なぜか ベッドの上で正座して向き合い、凛子兄が三つ指をついて頭を下げている
というカオスな状況に置かれていた。
事の発端は、ジュリアンのひと言だ。
「ねぇお兄さん。あんた、そんなに銀子目当てで毎日通ってるけど……銀子とヤれんの?」
その瞬間、銀子は飲んでいたウイスキーを盛大にジュリアンへ吹きかけた。
「ちょっと! なにすんのよ!」
濡れた顔を拭きながら怒るジュリアンへ、
「あんたが変なこと言い出すからでしょう!」
と反撃すると、ギャル軍団は大爆笑。
そんな中、ただ一人凛子兄だけが真顔で首を傾げた。
「……やる、とは? 何を“やる”のですか?」
「マジ!?」
「きゃはは! ごめんね〜。あ〜しの兄貴、本当に世間知らずで〜!」
ギャル達は完全に楽しんでいる。
凛子が兄に耳打ちすると──
「そ、そ、そ、そんな! 破廉恥な!!」
ズザァッ!
椅子ごと倒れた。
それを見たジュンコママが叫ぶ。
「え? あんた……まさか童貞?」
その場の空気が凍った。
「マジで!?」
「ヤッバ! 童貞と処女って怪我する未来しか見えないんだけど〜(笑)」
「アンタ、年齢いくつ?」
質問が矢継ぎ早に飛んでくる中、
銀子に手を引かれて起き上がった凛子兄は、真面目に答えた。
「三十歳です」
「え? 凛子、あんたはいくつよ」
「あ〜し? 二十二歳」
「ずいぶん歳が離れてるのね……」
銀子が凛子と話している間も、周囲は凛子兄で遊んでいた。
「ねぇねぇアンタ、もしかして今流行りの魔法使い?」
「魔法? この世に存在しませんが?」
「実は触った相手の心が読めるんじゃない?」
「は? 読めませんが?」
完全に弄ばれている。
「ちょっとアンタたち! てつおをからかうんじゃないわよ!」
「てつおみです」
鉄板の訂正が入った瞬間、普通なら話は終わるはずだった。
だが──凛子が止めを刺した。
「あ、大丈夫! あ〜し、銀子ちゃんを怪我させないように、
腐女子友達から漫画借りて兄貴に学習させといた!」
Vサインと満面の笑み。
(違う違う違う!! 腐女子の漫画はファンタジー!!
あれを “実技書” だと思ったら死人出るのよ!!)
銀子の心の叫びが響く中、
凛子兄はグラスを掴み──
バーボンを三杯、いっきに煽った。
そして決意した顔で銀子の手を握った。
「銀子さんを傷つけないように……きちんと勉強してきました」
「てつお……」
「てつおみです」
──こうして凛子兄の暴走は加速し、
普段なら銀子は安いラブホで済ますところを、
この非常識男は ホテルのスイートルームを予約しようとし、
銀子が必死に止めた結果、
なぜか本人を自分の部屋へ連れてくる羽目になった──というわけである。




