炊飯器じゃないわよ! アタシは人間です!!
「どうも、初めまして。凛子の兄です」
──それは、あのギャルに「男を紹介しなさいよ」と営業トークをかました、ちょうど二日後のことだった。
名刺を手渡され、ギャルのひとり・芦田凛子が兄を連れて現れたのだ。
「……はぁ?」
思わず素っ頓狂な声を出すと、
「ほら、あ〜し約束したじゃん? 男紹介するって。
で、兄貴連れて来たっしょ」
とヘラヘラ笑う凛子。
名刺には
《国家公務員・芦田哲央》
と記されていた。
「……てつお?」
「てつおみです」
銀縁眼鏡を人差し指で押し上げながら答えるその男を、銀子はまじまじと見つめた。
「やだ! 銀子の好みのエリートメガネじゃない!」
ジュリアンの声が飛ぶ。
「お黙り!!」
銀子は一喝し、改めて凛子の兄と向き合った。
「で?」
「はい。凛子から、人柄は申し分ない素敵な方がいると伺いまして……」
そう言うや、哲央は銀子の手を取り、
「もしよろしければ、結婚を前提にお付き合いを……」
と、真顔で言い放った。
銀子が慌てて凛子を見ると、
「あ〜し、銀子っちがお姉ちゃんなら最高だし〜」
とのたまっている。
銀子は頭を抱えた。
「えっと……芦田さん?」
「はい?」×2
「違う違う。てつお?」
「てつおみです」
「もうどっちでもいいわよ! アタシがオカマって分かってるわけ?」
銀子が真剣な顔で尋ねると、凛子の兄は凛子に向き直り、
「凛子……この方は人間ではないのか?」
真顔でそう言った。
「ちょっと!! いくらアタシがバケモノみたいに美しいからって、人間じゃないは失礼よ!!」
銀子が怒鳴ると、哲央はさらに真面目な顔で続ける。
「ですが……今 “お釜だ” と。
お釜は炊飯器の中にあるものでは?」
「兄貴!! 違うから!!」
凛子が慌ててツッコむが、哲央の首はますます傾く。
「いい? アタシらは性別が男なのよ」
銀子が呆れ気味に言うと、
「ああ……そのことですが」
哲央はポンと手を叩き、
「存じ上げております」
と微笑んだ。
(やだ……笑った顔が可愛いじゃない!)
思わず胸を押さえる銀子だったが、
「アンタ、見るからにノンケでしょう?
遊び半分で手を出されたらたまったもんじゃないのよ」
心を鬼にして言い放つ。
すると凛子が口を挟んだ。
「違うよ銀子ちゃん! 兄貴、恋愛で失敗ばっかしてんの。
だから銀子ちゃんなら大丈夫だって、あ〜しが連れて来たんだよ」
銀子はため息をつきながら凛子を見る。
「凛子……あんたのお兄さんの恋愛対象って女性でしょう?
アタシたちを相手にできるわけないでしょ?」
すると凛子は、しょんぼりしながら言った。
「だって兄貴、この前 “これからはAIと恋愛する” とか言い出したんだもん……」
銀子は一瞬凍りついた。
「……今、なんつった?」
「え? 兄貴が AI と恋愛するって……」
銀子は自分の姉の顔を思い浮かべながら、哲央の肩を掴んだ。
「ダメ! てつお!!」
「……てつおみです」
「どっちでもいい!!
AIと恋愛なんて絶対ダメよ!!
恋愛は! 人間としなさーーい!!」
店内に銀子の絶叫が響き渡った。




