シャーリー・テンプルとムチャチャ
シャーリー・テンプルというカクテルがある。昭和の初めに米国で活躍した天才子役の名前を冠したカクテルだ。
これには二種類ある。
だから、普通、頼まれたバーテンダーは「アルコールありですかなしですか」と尋ねる。
元々は子役の名を冠してあるのでノンアルコールだ。国際的にもそうなっている。
コリンズグラスに氷をつめ、グレナデンシロップを注ぎ、レモンかライムをしぼる。ジンジャーエールを加えて完成だ。マラスキーノチェリーを加えたり、らせん状にむいたレモンを飾りとして加えたりもする。
さて、これには「京都版」と呼ばれるレシピがある。
カシスリキュールとオレンジジュースに、炭酸水を加えて完成だ。
これは、京都・大阪に広まっているレシピで、バーテンダーの中にはこちらが本物だと思い込んでいる人もいたりする。
さて、シャーリー・テンプルには今ひとつ、「マハラジャ版」と呼ばれるレシピが存在する。
カシスリキュールにグレープフルーツジュースを加え、トニックウォーターで割ったものだ。
大阪のディスコ「マハラジャ」のバーテンダーが考案したものだと言われている。
割物をジンジャーエールにした進化版も存在している。
とまあ、このあたりはバーテンダーの学校に通った者には基礎知識のうちだと思うのだが、お客さんの中には意外と知らない人がいたりする。
てな話をしていると、AI氏が面白いことを言い出した。
「女の子、というと日本では幅広い年齢層に使いますよね」
「ええ」
「スペイン語ではムチャチャという言葉かそれに近いんですが、こちらは十代後半から二十代前半にかけて使うんです」
「ええ」
「では、ムチャチャというカクテルはノンアルでしょうかアルコール入りでしょうか」
AI氏はニヤリとする。
マスターと私は顔を見合わせる。私はそもそもムチャチャというカクテルを知らなかった。
「ひょっとして、両方ある?」
「正解です。普通のムチャチャは、ラムチャタとマリブを一対一、ライム果汁を少し加えてシェイクして完成。ノンアル版はココナッツミルクとアーモンドミルクを一対一、バニラエッセンスを一振り、ライム果汁を少し加えて混ぜます。ソーダで割ったりします」
「へーえ」と私。
「ちなみに、ソルティームチャチャというのもありますが、これがまた全く別のレシピでしてね。グレープフルーツとライムをつぶしてテキーラと蜂蜜と塩を加え、ソーダかトニックウォーターを加えます。こちらは透明なカクテルです」
次のカクテルが決まった。
「じゃあその普通のムチャチャをお願いします」
「僕も同じ物を」
マスターがすまなそうに言った。
「ラムチャタはうちには置いてないんですよ」




