あるマンガ家の話
第一話「独自説の男」
第二話「レッドマーキュリー」
に続く感じの緩いバー話です。
「チバリョウタロウって知ってます?」
不意にAIさんがたずねてきた。聞き覚えのある響きだったが、誰だったか思い出せない。
「マンガ家、でしたっけ?」
「そうそう。『マンガリ君』の作者ですよ」
そういえばそういう作品を見た記憶がある。かなり昔のギャグマンガだ。
「最初は千葉遼太郎ってペンネームを使っていたんですけどね、編集者から『その名前は堅すぎる』ってひらがなに変えさせられたんですよ」
AI氏は漢字表記を説明してくれる。
「はあ」
「まあ、司馬遼太郎に似すぎてた、てのが本当のところらしいんですけどね」
「ごもっとも」
「元々、彼は沖縄県の出身でしてね。家族から『ちばりよー』って送り出されたんですよ。そこからペンネームをつけたそうです」
「はあ」
「琉球の言葉で『頑張れよ!』って意味なんですよ」
「あ、本土で言う『気張れよ!』ってやつですか」
「それそれ。で、千葉遼太郎。で、そこそこ売れた。けど、絵が時代についていかなくなったんですね。仕事もなくなって、しばらくは昔の印税で暮らしていたそうです。それもだんだん先細りになりました」
「そりゃまた大変ですね」
「でも、マンガ描く以外に能がない。アルバイトもすぐに馘になる。そこで一念発起して絵柄をガラッと変えたそうです」
「それはすごい!」
「で、今は全く別のペンネームでネットのマンガ家をやってるそうですよ」
「それはすごいなあ。本当に『ちばりよー』の人ですね!」
「本当に凄い人です」
AI氏は、少し飲みすぎたと言いながら、マスターにチェックを頼んだ。
千鳥足のAI氏が出て行くとマスターがたずねた。
「チバリョウタロウって誰なんです?」
「だから『マンガリ君』の作者だよ。知らない?」
「いやー、それがね、どんなに検索してもそんなマンガ、出てこないんですよ」
マスターはスマホの画面を見せてくれた。
「そんなバカな!」
けど、『マンガリ君』というマンガはこの世のどこにも見当らないのだった。




