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雇われました、中学生社長の店

「正式配属通知、来たー!」


朝の食堂で、くるみがトースト片手に端末を掲げた。画面にはでかでかと「職業配属通知」と表示されている。


「私、精油課! 香料とアルコールの製造担当! やっと合法で酒作れるってわけ!」


「いや、そっちがメインじゃないよな!?」


ケンも慌てて自分の端末を開いた。スクロールして、目に飛び込んできた配属先は――


配属先:ラーメン店「一番星軒」

所属形態:パートタイム従業員(学生企業)

店舗責任者:宗方ルカ(中学3年)


「……中三?」


目をこする。もう一度見ても、間違いなく中学三年生。

社会経験どころか、義務教育まっ只中じゃないか。


「ケン、配属どこだったん?」


「ラーメン屋……で、店長が中学生らしい」


「いいじゃん。若い才能ってやつだよ。見た目で判断すんなって」


「いやでも……一回り下のやつに“働け”って言われんの、地味にくる……」


「なら、お前も才能で殴り返せば?」


「俺の“才能”、インスタントラーメンを1分半で食べることしかないけど」


くるみは苦笑しながらも、ケンの背中をポンと叩いた。


「とりあえず行ってこい。人生、麺のように伸ばさず、熱いうちにすすれってね」



島の商業区にある「一番星軒」は、外観こそボロいが、看板には力強く“自家製熟成スープ”の文字が踊っていた。


「失礼します……今日から配属された磐城です」


ガラガラッと引き戸を開けると、厨房から小柄な男子生徒が顔を出した。


「やぁ、君がケンくん? 宗方ルカ、中三。店長だけど気軽に“ルカ”って呼んで」


制服は中学の青ライン入り。けれど、動きは完全にプロのそれだった。


「まさか本当に中学生だとは……」


「よく言われる。でも、もう2年やってるから安心して。ラーメンと経営、両方、命かけてるからさ」


店内は6席のカウンターと2つのテーブル席。厨房は狭く、寸胴鍋から湯気があがっていた。

そしてもう1人、調理補助らしき女子中学生が、無言でチャーシューを切っている。


「君、接客はイケそう?」


「いや、俺、人見知りで……」


「じゃあ最初は皿洗いと仕込みな。あと、麺ゆでのタイミングだけは絶対ミスらないで。スープより命かかってるから」


厨房の奥には、POS端末と手書きの帳簿があった。

売上、在庫、食材原価、学生向け仕入れルート――すべて、彼が一人で回しているという。


「中学生が、こんなに……」


「俺にはここしかないからね。高校に行く予定もないし、稼がなきゃ飯も家も維持できない」


「え、家も?」


「うん。この店の上、俺が買ったんだよ、学円で。住宅も土地も、学生でも所有できるのがこの島のルールだから」


その言葉に、ケンの脳に電撃が走った。


(“土地が買える”……?)


ここでは学生が不動産を持ち、企業を立ち上げ、社会を動かしている。

自分はただ配属を受け入れて流されているだけだ。


「なぁ、ルカ」


「ん?」


「俺、ここで本気で働いてみたい。正社員って、なれる?」


「へぇ、やる気出た?」


宗方ルカは、湯切りしながらニッと笑った。


「君が一人前になったら、考えてもいいよ。俺、年上は扱いづらいからさ」


「そっちが言う!?」



夕方。ケンは制服のまま寮に戻った。


入り口前で、くるみが何か液体をフラスコで振っていた。


「おかえりー、バイト戦士。今日の麺の硬さ、自己評価は?」


「評価不能。でも……面白かった。尊敬した。中学生に」


「ルカって店長だっけ?」


「あいつ、土地も買ってた。店の上、住居にしてるって」


「……それ、起業して家賃浮かせてるってことじゃん。賢いねぇ」


くるみはフラスコの蓋を開けて、ケンに嗅がせた。


「ラベンダー。香料の抽出に成功したの。合法の範囲でね」


「……お前も、着々と復活してんな」


「ふふん、“合法密造者”の名を目指してます」


2人で笑う。

空を見上げると、まさに“いちばん星”が浮かんでいた。


この島では、年齢も過去も関係ない。

やるか、やらないか。それだけだ。


そしてケンは、やっと「やってみたい」と思えた。

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