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初出勤、ラーメン地獄!

「磐城ケンくん、厨房入ったらまず、麺ケースの在庫確認してね〜」


そう言ったのは、ラーメン店『どんと来い』の先輩アルバイト、大学生風の男子・根岸だった。

朝7時。日差しはすでに強く、厨房の熱気はさらにその上を行く。


「おはようございます……あの、麺ケースってどれですか……?」


「それ。冷蔵の横。あとこれエプロン。汗かくから、予備もポケットに入れとくといいよ」


「え、予備って……そんなに汗かくんすか?」


「昼になれば分かる。覚悟しとけ、ここは南洋学園の“ラーメン戦線”だからな」


ラーメン戦線。

なんだそれ、と思いながらも、ケンは内心ちょっとワクワクしていた。

厨房に立つなんて、生まれて初めてだ。働くのも初めて。

履歴書に「特技:ゲーム(FPS)」って書いた自分が、まさかラーメン屋で一日を始めるとは。



開店は10時。だが準備は7時から始まる。


スープを温め、チャーシューを切り、麺の量を計り、カウンターを拭く。

厨房の動きは想像以上にせわしなく、根岸先輩は休む間もなく指示を出していた。


「おいケン! 麺ゆでる時間、何秒だっけ!」


「えっ、えっと……90秒!」


「そう、それ! タイマー見て、いいタイミングで揚げてくれよ!」


「りょ、了解です!!」


湯気にまみれ、汗だくになりながらも、ケンは真剣だった。

ラーメンを作る、という一点に集中するのは、どこかゲームに似ている気がした。


そして――開店の鐘が鳴った。


「いらっしゃいませー!!」


客がどんどん入ってくる。制服姿の高校生たち、スーツ風の大学生たち、農作業帰りらしき小学生まで。

皆一様に空腹そうで、口々に言う。


「味玉のせラーメン、学円で!」

「大盛りでお願いしますー!」

「暑いから冷やしラーメンないの?」


厨房は戦場と化した。


「ケン、茹で時間カウント忘れるな! 麺が死ぬぞ!」


「はいっ! タイマー……って、あれ? どれのタイマーだ!? 全部鳴ってるー!!」


「焦るな、声出せ! 順番でいくぞ!」


汗が目に入る。腕が熱い。

なのに、どこか楽しい。なんでだよ、とケンは思った。

たぶん、「誰かのために何かを作る」って、そういうことなのかもしれなかった。



午後3時。

ようやくランチの波が引き、店は一時休憩に入った。


「お疲れー。ほら、まかない」


出されたのは、湯気の立つ醤油ラーメン。チャーシュー増し、煮卵付き。

ケンは一口すすって、思わず涙ぐんだ。


「うまっ……うまっ……」


「だろ? ただし給料から食費引かれるから、味わって食えよ」


「うっ……現実……」


箸を止めかけたケンの肩を、誰かが後ろからドンと叩いた。


「ラーメン食って泣いてるとか、ウケるんですけど〜!」


「……くるみ!?」


制服のままくるみが立っていた。隣に、怪しげな配達用バッグを抱えた少女を連れて。


「ウチ、今バイト探し中なの。で、この子が精油課にコネあるって言うから、案内してもらってたんだよねー」


「精油課って、まさか……」


「そ。植物からアルコール抽出する工程あるって。まぁ、合法ギリギリのラインでやってるみたいだけど」


「完全にアウトの匂いしかしないんですけど!!」


「だいじょーぶ、捕まったらケンが助けに来て?」


「お前、働く気あんのかよ……」


くるみはニカッと笑った。


「ま、ケンは真面目にラーメン道、がんばりたまえ〜。そのうち私の酒とコラボできるかもね」


「コラボってなんだよ……てか、捕まる前提で話すな!」


そうこうしているうちに、またサイレンが鳴った。


《住宅街エリアCにて騒音トラブル発生。治安課は現場に向かってください》


ケンはため息をつく。


「ほんとに……ここって、島ごと“社会”なんだな」


「でしょ? だからこそ、面白いと思わない?」


くるみの目は、いつになく真剣だった。

彼女がなぜこんな島に来たのか、その答えはまだ全部わからない。

けれど――ケンは思う。


ラーメンの湯気の向こうにあるこの世界で、

自分は少しずつ、何かを掴んでいくのかもしれない。

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