第13章 「酒神再臨──グラッパの真意と、最後の契約」
静かな夜。
誰もいないギルドのベンチに、俺は座っていた。
酒精掌の力は、以前と違っていた。
もはや、加護体に頼らずとも“自分の感情”から酒が出せる。
だが、その一杯一杯が、重たかった。
「よう、考え込んでるねぇ、先生」
──聞き覚えのある軽い声。
マントを翻し、サングラスを外しながら現れたのは、
“あの神様”──天酔神グラッパだった。
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「お前……今さら何の用だ」
「んー? そろそろラストスパートでしょ。
だからちょいと“収穫”に来たのさ」
「収穫……?」
グラッパは珍しく、真面目な顔をした。
「キミの魂の中にある、“痛みと喜びの酒”──それが欲しいんだよ」
「……なんだと?」
「最初に言っただろ? 酒精掌ってのは、魂を液化する能力。
でもね、それは“人間に返す”ためじゃない。
“神が飲む”ためのものなんだ」
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グラッパは静かに語り始めた。
「俺は、酒の神──酔いと癒やしと破滅の象徴」
「でも、最近の人間ってば、心底酔うことを忘れた。
何でも効率化、理性第一。酒も心も“軽く”なっちまった」
「そこで俺は──“一番壊れた魂”を拾ったのさ」
「三島敬一、お前のことだよ」
「酒に溺れて死んだくせに、まだ酒を妄信していた。
だから、お前に“本物の酔い”を作らせてたんだよ、ずっとな」
「……つまり、俺は、お前のために酒を造らされてたってのか」
「その通り。でも、まさか“自分で自分の酒を出せる”まで行くとは思わなかった」
「だからさ──ここからは、”選択”だ」
【天酔神からの最終契約】
> ① このまま“魂の酒”を造り続け、
> 永遠に“癒やしの存在”として生きる。
> だが、記憶も人格も、少しずつ“酒”に溶けていく。
> ② 酒精掌を手放し、“ただの人間”に戻る。
> 酒も癒やしも出せないが、自分の人生を生き直せる。
「どっちを選ぶ?」
グラッパは、にやりと笑った。
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その時、
背後から声がした。
「先生」
──リースだった。
彼女は、小さなカップを差し出した。
それは、敬一が最初に出した《白桃の酒》の最後のひとしずく。
「私は、あの酒で救われた。
でも、あなたに“戻ってほしい”とも思ってる」
「だから、“あなたがあなたである”選択をしてほしい」
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敬一は、静かに目を閉じた。
思い出すのは、
笑ったガマータ。怒鳴ったエイスト。涙ぐんだアールティ。
そして、
誰かの涙を、グラス一杯で癒やせたあの日々。
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「決めたよ」
「俺は──“人間として、酒を振る舞い続ける”」
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グラッパは苦笑した。
「なるほど。“契約拒否”か。やれやれ、ほんっと頑固だねぇ」
「でもまあ──気に入った」
「いいよ。お前の“魂の酒”は、もう俺の器では扱えない」
「……だから、壊れる前に、”この世界に返してやるよ”」
グラッパが指を鳴らすと、
光が溢れ、ギルドの床から“消えたはずの3人”が姿を現した。
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「……先生!」
「へへっ、なんか……スッキリした感じっス!」
「戻ってこれたのか……」
3人の“加護体”は、もう加護ではなかった。
今や彼らは、”魂を取り戻した本物の命”だった。




