第12章「帰還──聖人、ギルドへ帰る。偽りと、加護体と、最後の杯」
ギルドの扉が、ゆっくりと開いた。
「……先生?」
受付にいた新人が、呆けた声を漏らす。
リースが静かに言った。
「ただいま。聖人、戻りました」
中に足を踏み入れた俺は──
あまりの変貌に言葉を失った。
装飾は白銀に統一され、
カウンターには「教会の清酒」が並び、
冒険者たちは皆、無表情に液体をすする。
そこには、もう“酔いどれ席”はなかった。
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「お戻りですか、“過去の人”」
教会の服を纏った男──**フェル・カルミナ**が立ち塞がる。
「ご安心を。あなたの代わりなど、既に用意されています」
「……随分と手際がいいな」
「本物は、不安定で危険なんです。
代替品の方が、安定供給できますから」
「──だが、あんたの酒には、”心がない”」
フェルの目が細まった。
「……では証明してみてください。
人の魂に、酒が何をもたらすか」
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俺はカウンターに立ち、
静かに手をかざす。
《酒精掌》
生まれたのは、一滴の光。
「よう……久しぶりだな、“俺の中の俺”」
グラスに注がれた酒は、
白く澄んだ《魂の純酒》だった。
その香りが、ギルド全体を包む。
「あっ……これ、懐かしい……」
「先生の匂い……だ」
「また、帰ってきてくれたんだな……」
冒険者たちが、ひとり、またひとりと立ち上がる。
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「あなたの行為は、異端です」
フェルが言い放つ。
「この力は神の摂理に反する!
人の魂を削るなど、正道にあらず!」
「──じゃあ聞くがな」
俺は睨み返す。
「人を救うってのは、誰かが“ちょっとだけ傷を引き受ける”ことじゃないのか」
「痛みを知らない癒しなんて、偽物なんだよ」
その言葉に、ギルド中が静まり返る。
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「先生!」
奥から、アルが駆け寄ってくる。
顔は蒼白で、足取りはふらついていた。
「もう、限界……です……でも……あなたに会えて、よかった……」
「おい、しっかりしろ!」
ガマータも、エイストも、それぞれの限界を迎えていた。
彼らの体は、もはや“器”としての寿命を迎えようとしていた。
「……俺たち、“消える存在”なんだよ、先生」
エイストがかすれた声で言う。
「でも、あなたが“自分で出した酒”を手に入れたなら、
もう、俺たちは必要ない。……それで、いい」
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「……ちくしょう」
「なんで、最後まで俺を支えようとするんだよ……!」
俺は3人を抱きしめた。
「お前らは──ただの補助なんかじゃない。
俺にとって、家族だったんだよ……!」
その瞬間、
3人の身体から、光がこぼれた。
温かく、やわらかい、
虹のような、優しい光だった。
「ありがとう、先生……」
3人の姿が、静かに消えていった。
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◆
翌朝、ギルドには
再び“酔いどれ席”が戻っていた。
《魂の酒》を手にした主人公は、
もう誰の命にも頼らずに、
“人の心に寄り添う”ことができるようになった。
──偽りの聖人・フェルは協会の判断で処分され、一時撤退した。
だが、戦いは終わったわけではない。




