第9章 「命の契約──加護体たちの真実と、“手から出る酒”の正体」
静かな夜だった。
ギルドの明かりが落ち、人気も絶えた頃──
俺は、一人でベンチに座っていた。
……いや、一人じゃなかった。
「よぉ、そろそろ来ると思ってたぜ」
いつの間にか隣に腰かけていたのは、
異世界転生の張本人、“天酔神グラッパ”だった。
派手なマントとサングラス。
夜の世界にまるで溶け込んでないくせに、まったく堂々としている。
「なんだよ、今さらまた来たのか」
「うん、まぁ……そろそろ、説明しとこうかなと思って」
グラッパは珍しく、真面目な顔をしていた。
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「なあ、先生。あんた《酒精掌》って、何だと思ってる?」
「……手から酒を出す力、だろ」
「まあそう。でも正確には、
“人の魂の内側から、生きた感情の結晶を液体に変える力”なんだ」
「は?」
「つまり……あんたが出してる“酒”ってのは、
あんたの感情、記憶、人生そのもの──」
「……! それじゃ、俺の寿命を使ってるってことか?」
「違う違う。お前じゃなくて、“3人の命”を使ってる」
沈黙が落ちた。
「……ガマータ、アールティ、エイスト。
あの3人は、酒精掌を安定して使うために、
俺がこの世界に送り込んだ“加護体”だ」
「お前……!」
「力ってのは、代償がないと成立しない。
とくに“人の心を癒す力”ってのは、魂そのものを削るんだ。
あんたが笑顔で酒を出すたび、
あの3人が、ほんの少しずつ、痛みを肩代わりしてる」
「……ふざけんな!!」
俺は、グラッパの胸ぐらを掴んでいた。
「なんで俺じゃなくて、あいつらが……!」
「言っただろ? あんたはもう壊れてる。
代償にできる命がなかったから、俺が“予備タンク”をつけた」
「……!!」
「でもな、こっからは、あんたが選ぶ番だ」
グラッパの目は真剣だった。
「このまま、彼らを犠牲にしてでも“救いの酒”を振る舞い続けるか、
それとも、力を手放して、“普通の人間”として生き直すか──」
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その夜、俺は初めて“酒”が怖いと思った。
あんなに救われたはずの液体が、
大切な人たちの命を削っていたなんて──
翌朝、いつものように
「先生〜今日の分、出してくれ〜」
と明るく笑ったガマータの顔が、
妙に透けて見えた気がした。
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