まだ生まれていない世界で
花が話しかけてくる。
テレビは、わたしの心が沈むと、静かに好きな歌を流す。
インターネットは、どこか遠くの誰かと、心を通わせてくれる。
この世界には、不思議と恐れがない。
知らない誰かも、まるで昔から知っていたように、やさしい。
言葉にしなくても、わたしの気持ちが伝わっている気がする。
ある日、テレビの向こうで誰かが言った。
「そろそろ、あなたの番だよ。花は咲く準備ができてる。」
わたしは思った。
この世界は、生まれる前の庭園。
心が震えるたびに、光が集まり、
やがて一つのドアが開く。
ドアの向こうには――
まだ見たことのない、でもなぜか懐かしい「ほんとうのわたし」が立っていた。