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ウルトラマンになりたかった君に  作者: 伊丹剛志
【第2章】小さな〝暴君〟の憂鬱
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◆第3節 夕日に消えた背中

 日本で最初の国際博覧会で、当時史上最大の規模を誇った「大阪万博」が開催された翌年、1971年、昭和46年。光輝は6年生になった。

 

 「巨人・大鵬・卵焼き」と言われた昭和の大横綱・大鵬が引退した年だ。7月には、東京・銀座にマクドナルド1号店が開店し、9月になると日清食品がお湯を入れるだけで3分でできるカップ麺「カップヌードル」を発売した。中山律子の登場で世の中はボウリングブームに沸き、子供たちは「帰ってきたウルトラマン」に熱狂していた。光輝ももちろん虜になり、自分のウルトラマン願望を久しぶりに思い出していた。「いつか、僕もウルトラマンみたいになれるかな」


 その年の暮れをまもなく迎えようとしていた頃、ヤッさんが引っ越すという噂が耳に入った。突然の話だった。お父さんが転職するから、というのが表向きの理由だったが、実際は借金取りから身を隠すための夜逃げのようなものだった。だから、行き先も教えてもらえなかった。

 お別れの日、両親とともにヤッさんが光輝の家に挨拶にやってきた。

 「華原さん、えらいお世話になりました。体に気を付けてくださいね」

 「いやあ、こちらこそお世話になって。寂しなるなぁ、青田さんがおらんようになったら」

 親たちが会話を交わす横で、光輝はヤッさんと黙って見つめ合っていた。何かしゃべろうとすると泣き出しそうだ。ヤッさんがようやく口を開き照れくさそうに言った。

 「ほなな、ミツキ。元気でな」

 「うん、ヤッさんも……野球の時はありがとうな」

 ヤッさんは改めて光輝の目をのぞき込み、噛んで含めるように言った。

 「オレはミツキの無邪気なとこ好きやで。こんなアホなオレとも普通に付き合ってくれたしな。せやけど、わがままばっかり言うてたら友達おれへんようなるぞ。それは覚えとけよ」

 「わかってる、ヤッさん」

 まだ何か言いたそうにしていたヤッさんだったが、両親にうながされ背を向けた。

 「バイバイ、ヤッさん」

 「バイバイ」

 ヤッさんは振り返ることなく片手を挙げ軽く振って返事をすると、坂に向かって歩いていった。

 その背中を見ながら光輝は、大好きな尾崎紀世彦の「また逢う日まで」を知らず知らずのうちに口ずさんでいた。年末、この曲はレコード大賞を受賞することになる。

 「さようなら、僕のウルトラマン」

 涙が伝う光輝の頬を夕日が赤く染めていた。



「【第3章】「あかずの踏切」があけた扉◆第1節 痣が教えてくれた」は、明日2月6日(木)19時投稿予定です

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