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ウルトラマンになりたかった君に  作者: 伊丹剛志
【第5章】〝熱い魂(ソウル)〟の交差点
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◆第3節 ブルースパワーに魅せられて

 イケシンとのセッションは大学に入っても続けていた。隙間風が吹きながらもお互いに音楽仲間としては認め合えていたのだろう。光輝が帰省する夏休みなどの長い休みに合わせて、2人は集まった。場所は高校時代と同じ、光輝の実家だ。イケシンも家から通える関西の大学に進み、軽音楽部に入って精力的に活動していた。イケイケぶりに拍車がかかり、自分がリーダーとなってバンドを率いていた。

 「ミツキ、遊びに行ってもええか?」

 「おお、かめへんで」

 3年生の夏休み、マサさんとの一件で傷心のまま帰省した光輝の前に、バイトで貯めたお金で買ったという自慢のヤマハのセミアコを背負ってイケシンがやってきた。その手には1枚のLPが握られていた。

 「ミツキ、これ知ってるか?」

 「いや、知らんけど……」

 いかつそうな男5人がこちらを睨みつけているようなモノクロのジャケット。これが光輝と「関西ブルース」「浪速ソウル」との出会いだった。ウエスト・ロード・ブルース・バンドのデビューアルバム『Blues Power(ブルースパワー)』。世に出たのは1975年、昭和50年のことだ。

 「聞いてみ、ごっつエエから」

 「わかった、ほな借りるわ」

 そう言ったものの、光輝はあまり興味をそそられていなかった。ロック系の音楽とは距離を置いていたからだ。事実、当時は音楽ファンもプレイヤーもロック派とフォーク派に分かれて喧嘩していた。それは、「サウンド」と「歌詞」のどちらが大事か、という議論も呼んでいた。光輝にとって歌詞は大切だった。

 光輝が高校生の頃、どこの高校の学園祭に行っても、軽音楽部のロック好きな連中はディープパープルの「スモーク・オン・ザ・ウォーター」を演奏していた。ギタリストがうまいバンドは「ハイウェイ・スター」だ。しかし、わめくように歌うボーカルとその声さえ聞こえない大音量のサウンドは、光輝にとって「騒音」でしかなかった。

 「ディープパープルのどこがええねん。うるさいだけやんけ!」

 光輝のいけないところは、そのことをもって本家本元まで聞かずに否定してしまうところだった。「食わず嫌い」というやつだ。後年、ジャコ・パストリアスに対しても同じ過ちを繰り返す。ジャコ好きなベーシストの大半は音数が多く、自分が前に出たがるタイプで好きになれなかった。だから、ジャコ本人も聞こうとしなかったのだ。その後、ディープパープルもジャコも自らの耳で体験し、「本物」と「偽物」の間には雲泥の差があると知って後悔する羽目になった。

 今回も食わず嫌いになりそうだったが、さすがに悪い気がして光輝はイケシンが次に来る前の日に聞いてみることにした。レコードに針を落とし1曲目の「Tramp(トランプ)」のイントロが始まった途端、そのうねるようなリズムに圧倒された。

 「なんや、コレ?」

 同じブルースでも、シバで聞いていたブルースとはどこか違う。それまで耳にしたことがなかった音楽にいつしか光輝は引き込まれ、45分という時間があっという間に過ぎ去った。B面2曲目の「First Time I Met The Blues」というスローブルースは緊張感に満ちており、そこでのギターソロは、まるで人がもがき、うめき、感情をストレートにぶつけてくるような生々しさがリアルだった。

 全9曲の中でも、光輝が一番心惹かれたのはB面の1曲目「Ain't Nobody's Business, If I Do」だ。フォークのようでフォークでない、ロックのようでロックでない、「ブルース」としか言いようがないナンバー。オシャレなのに泥臭く、静かなのに強い思いが伝わってくるこの曲に、ボーカリスト・ホトケの無骨で素朴な声がよく似合っていた。一晩にして光輝はブルースに取りつかれていた。


 翌日、イケシンがやってきた。

 「どうやった、ウエストロード?」

 「メッチャ良かった! エイント・ノーバディーズ 、ああいうのやりたいよな」

 「せやろ、ミツキ、ブルースバンドやろや」

 「やろやろ!」

 それからの大阪でのセッションは、イケシンの知り合いのドラマーやベーシストを巻き込んで、スタジオを借りてバンドスタイルで行うものへと変貌していった。

 上田正樹とサウス・トゥ・サウス、ソー・バッド・レビュー 、憂歌団、ブレイクダウン……光輝はこの日を境に「関西ブルース」「浪速ソウル」の沼に深くはまっていった。

 東京に戻ると、ブルースバンド結成に向けメンバーを集めようと決心していた。


「【第5章】〝熱い魂(ソウル)〟の交差点◆第4節 たかだか予選のベストボーカル」は、明日2月16日(日)19時投稿予定です

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