恋ひ尽くし
母の生
86の積み重ね
遠くに生まれ父に逢い
静かな海と
もこもこの山に抱かれ
子どもも愛したけどやはり
焦がれたのは父のこと
好きで好きで
ダメなところも好きで
恋し続けて
父に支えられて手洗いに向かい
歩けずうずくまり
立てないかと聞く父に
「ごめんね」と言って黙した
虫の知らせか仲のよい
看護師さんが来てくれて
救急車が呼ばれた
父と手を繋いで
きちんと心臓マッサージをしてもらい
それで拍動が止まったのなら
母は生き尽くしたのだろう
そして
恋ひ尽くしたのだろう