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06 平和に暮らしませんか?

 そもそも私は既に殿下の婚約者ではありません。殿下が納得するまで、お付き合いする義理もありません。

 要はつまり、もう面倒臭いです。


「待て!お前達、出来てるのか?」

「はい。フラリオラ殿下もわたくしも、割り振られた執務はしっかりと熟しております」

「違う!お前の不義の相手はコイツなんだな!」


 そちらの出来てるですか。


「わたくしは、誰とも不義を働いておりません」

「ウソを吐くな!ホントに王子なら、なんで護衛の真似事をしてるんだ!」

「わたくしを守って下さる為に、護衛を買って出て下さったのです」

「ウソ吐け!お前達が所構わず、密通する為だろう!」


 人を評価する時って、どうしても自分を基準にするしかありません。だから殿下が私達をそう言う目で見てしまうのは、仕方のない事なのでしょう。

 でも、所構わずなら密通とはなりません。秘めてこそ、密通なのです。

 もちろんフラリオラとは、そんな事はしておりませんよ?


「その様な事をわたくしがしていない事に付いては、いつもわたくしに付いている侍女達が証言致します」


 振り向くとメミリンが控え目に肯きます。


「お前の侍女など信じられるか!その女もグルなんだろうが!」

「殿下。やはり婚約の契約書類をお読みになっていらっしゃらないのですね?」

「何を言う!ちゃんと読んだぞ!俺が婚約を破棄すれば3倍!離婚なら5倍だ!」


 賠償金の所だけ、確認したのかも知れません。

 そうか。殿下が今、私に結婚してやると言っているのも、5倍の賠償金を狙っての事なのですね。


「このメミリンは王家から派遣された侍女の一人でございます。王家から派遣された侍女達が、わたくしを一日中、当然夜間の寝室内も含めて、監視しております。わたくしが不義を働いていない事は、彼女達から国王陛下に報告されております」

「そんな事、あてになるか!」

「同様に、殿下の傍にいる侍従の一部は、我が家から派遣しておりました」

「はあ?なんだと?」


 もう殿下の元から引き上げる支度を始めているでしょう。

 ちなみにメミリン達の仕事は継続です。私は引き続き、王子の婚約者ですので。


「ですので、殿下のなさった企みは、全て筒抜けでございました」

「なんだと!スパイさせてたのか!卑怯だぞ!」

「この事は、契約書類に明記されております」

「そんな、バカな事を言うな!」

「今後、殿下とわたくしとの婚約と破棄に付いてのお問い合わせは、まず契約書類を良く確認なさっていただいてからその上で、わたくしではなく、王家を通して我が家にお尋ね下さい」

「なんだと!お前は答えないと言うのか?」

「わたくしはもう、殿下とお目に掛かる事も滅多にございませんので」


 今までも殿下の顔を直接見るのは、年に数える程もありませんでしたけれど。


「いや、待て。もし俺がタバコを止めたら、お前は俺と結婚するのか?」


 そんな訳、絶対にありません。


「殿下の吸っていらっしゃるタバコは、依存性がとても強いそうでございます。殿下にはタバコを止めることは出来ないでしょう」

「ふざけるな!絶対に止めてみせる!いいか!俺がタバコを止めたら、俺と結婚だからな!」

「お断り致します」

「なぜだ!侍女が証言するなら、お前はまだソイツと寝てないんだろう!それなら結婚してやる!」

「お断り致します」

「はあ?俺が結婚してやると言ってるんだぞ!」

「いいえ、結構でございます」

「お前が俺と結婚すれば、お前は王妃になれるんだぞ!」

「いいえ、結構でございます」

「贅沢な暮らしをさせてやると言ってるんだぞ!」

「契約書類をご確認下さい」

「第二王子への繋ぎの短い期間だけではなく、ずっと長く王妃でいられるんだぞ!」

「まずは、契約書類をご確認下さい」

「なにを言ってる!俺と一緒に国を盛り上げると言ったのは、ウソだったのか?」


 その様な約束はありません。盛り上げるって、お祭りですか?

 確かに殿下と一緒になら、私も頑張ったかも知れません。でもあのまま殿下と結婚したなら、私一人で国を盛り立てる事になりました。

 そんなの、ごめんこうむります。


「契約書類をご確認下さい」

「お前が答えろ!なんで答えないんだ!俺を慕っていると言ったのはウソだったのか!」


 恋人のどなたかの言葉なのでしょうか?恋人達なら殿下を慕っているくらいは口にするはずです。


「何故わたくしが答えないのかに付きましても、契約書類をご確認下さい」

「なんだと!」


 私は話を打ち切る為に殿下に礼を取り、フラリオラにエスコートして貰ってその場を後にしました。


 フラリオラが私に腕を貸したら、護衛の仕事に支障が出ますけれど、話し掛けて来る殿下を無視する為には、同じく王子の地位を持ち、殿下の叔父にあたるフラリオラに私を導いて貰う事で、後から揉める事を避けられます。

 実際には私に腕を貸していても、追い掛けて来て私に手を伸ばした殿下に剣をスムーズに向けていましたので、もしかしたらフラリオラに取っては、大した制限にはなっていないのかも知れません。

 剣を向けられただけで尻餅を搗く様な殿下が相手では、フラリオラの技量に対しての正しい評価は出来ないのかも知れませんけれど。



 その後、その日にそのまま婚約が調い、私はフラリオラの婚約者となりました。

 国王の執務の手伝いも、それほどの量の追加にはならず、私とフラリオラで充分に捌けました。


 国王は本当にあれから禁煙をして、しばらくは気持ちも不安定で辛そうでしたけれど、今はなんとか禁断症状が出なくなりました。

 ただ、また吸えば直ぐに元に戻ってしまうので、王宮はもちろん、国王の向かうところ全ての場所が、禁煙とされています。


 側妃は実家に返されました。立場は側妃のままです。

 タバコは吸い続けているそうです。


 殿下もタバコは止められずにいるそうです。

 王宮では吸えないので、殿下も側妃の実家で暮らしているとの事。

 恋人達も殿下に付いて行ったとか。


 婚約破棄の賠償金は王家から我が家へ支払われましたけれど、殿下の借金として殿下の生活予算から補填して行くそうです。ただし、殿下は公務を行わなくなったので予算も減額されましたから、殿下が王家に借金を完済するには長い年月が掛かりそうです。

 それと、賠償金は私の持参金と同額と言う事でしたが、殿下は持参金をそのまま返せば賠償金になると思っていた模様です。それはそれ、これはこれ。持参金返却と賠償金支払いは別なので、持参金の方も利子を合わせて、王家に立て替えて返して頂きました。殿下の王家へ借金は、持参金プラス利子プラス賠償金の金額となります。


 殿下から我が家に直接、王家を通さずに、借金の申込みがあったそうですけれど、断ったとの事。

 どうやらまた、詐欺のターゲットにされている模様です。お金がなくても狙われるものなのですね。

 我が家から王家に連絡をしたので、適切に対応して頂いているでしょう。


 私を襲った盗賊の件は、()の令嬢が依頼主でした。私の純潔を奪う事で婚約を破棄して手に入れられる三倍の賠償金と、身代金の両方を狙ったみたいです。私が死んだら婚約は解消されるだけで、賠償金は入らないし、それでも持参金は返さなければならなかったので、殺そうとしたのはやり過ぎでしたけれどね。

 未遂ではありましたがその罪で、彼の令嬢はそれなりの罰を受けたそうです。興味はないので、詳しくは聞いていません。殿下との関係がどうなったのかも知りません。

 ただ、僅かな収入を工面して、タバコを吸い続けているとの噂は耳にしました。



 こうして私の周りは静かになり、暇ではないものの、これまでの様な穏やかな時間を送る事が出来ています。

 恋の刺客も盗賊も寄り付かなくなりましたので、これまで以上とも言えますね。

 なお、充実度に付いては、明らかにこれまで以上です。段違いです。


 ただ一つ、気掛かりが・・・

 殿下にタバコを薦めた人間に対して、誰がタバコを教えたのかが分かっていません。

 それなので、どこからタバコが流行(はや)り始めたのか調べようとしたら、フラリオラに止められました。調べる事は止めて、殿下がいつからタバコを吸う様になったのかを考えてみろと言われます。


 王妃の妊娠中はまだ誰も、国王も側妃も殿下も、タバコを吸ってはいませんでした。

 三人の中では最初に殿下がタバコを吸い始め、それは確か、王妃が第二王子を産んでから・・・


 そうですね。

 このまま幸せに暮らす為には、どこからタバコが広まったのかなんて、要らない情報です。



 私もフラリオラも王位には、本当に全く興味がありません。

 ですから私は今、第二王子が成人するまでは国王の禁煙が続いて、国王にも王妃にも第二王子にも、なんとしてでも健康でいて欲しいと、心の底から願っています。


 私とフラリオラの事でしたら、健康面でも経済面でも野心面でも、全く一切心配いりませんので、どうぞお構いなく。

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