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05 理解して頂けますか?

「おい!待て!」


 通路で(うしろ)から、殿下の声が聞こえます。

 振り返ると、私に呼び掛けている模様です。


「何か御用でしょうか?」

「婚約破棄とはどう言う事だ!」

「どう言うと仰いましても・・・」


 どうしましょう?


「王妃陛下にお尋ね下さい」


 お任せしましょう。丸投げではありません。然るべき方への問い合わせ依頼です。


「婚約破棄されたら困るのはお前だぞ!」

「いいえ。困る事はございません」


 我が家が破棄した側ですけれど、たとえ破棄されたとしても困らないのは本当です。

 破棄される理由は困りますけれど。私が誰かと恋仲になるとか、純潔を散らすとか、大問題になります。

 けれどそれに比べたら、婚約破棄される事自体なんて、大した問題ではありません。


「嫁ぎ先がないだろう?悪い事は言わないから、俺と結婚しとけ。お前を助けてやる」


 え?結婚?さきほどは自分から婚約破棄を口にしていたのに?

 ・・・理解出来ない・・・

 もしかして、その事を既に忘れているのでしょうか?


「婚約破棄自体は、国王陛下と王妃陛下と父で既に合意が取れております。殿下がいらっしゃるのを待っておりましたのは、国王陛下がもう一度最後に、どうしても殿下に会って欲しいと仰ったからです」


 多分、殿下と私の会話を聞く事で、国王が気持ちを整理して、諦める為だったのでしょう。まさか私と殿下の関係が修復出来るなどとは、間違っても万に一つも思っていなかった筈です。


「お前はこのまま、結婚しない積もりか?」

「それに付いては、殿下のお心を煩わす事ではございません」

「それなら俺と結婚した方が良いだろう?結婚してやる」


 面倒臭くなって来ました。

 チラリと護衛のフラリオラを見ると、態度には出していませんけれど、怒っています。私の視線に気付いたのか、こちらを見ました。目が合うと、フラリオラが小さく肯きました。


「父は今頃、わたくしの縁談を調えていると思います」

「縁談?お前、婚約するのか?」

「はい」

「相手はどこのハゲジジイだ?」


 なんでハゲジジイ限定なんですか?


「いや、お前の家は金があったよな?なんでわざわざハゲジジイに嫁ぐんだ?」


 だからなんで?

 なんではこちらのセリフですよ。


「わたくしには殿下との縁談の前から、婚約話が進んでおりました。そのお相手の家は、わたくしと殿下の婚約はやがて破談になるから、それまで待つと仰って下さいました。そして今日、殿下との婚約を破棄いたしましたので、父が早速、婚約を調えに向かったのです」

「は?なんだと?」

「ちなみに母は、先に先方に出向いて準備をしております。わたくしも今から向かうところでございます」

「ふざけるな!そんなのは許さん!」

「殿下に許して頂く必要はございません」

「なんだと?!」

「わたくしの縁談に、殿下のご意向は無関係でございます」

「ふざけるな!お前は俺の臣下だろう!主の命令が聞けないと言うのか!」

「父は国王陛下の臣下でございますが、わたくしは陛下の臣下ではございませんし、ましてや殿下の臣下の筈がございません」

「お前!俺が王になった時に後悔しても、絶対に許さんぞ!」


 はあ。


「殿下は結局、婚約の契約書類を読み直さなかったのですね?」


 殿下は記憶力も衰えている様なので、読み直してもまた忘れたのでしょうか?あるいは、読み直す事自体を忘れたのかも?


「わたくしとの婚約は破棄となりましたので、殿下の王位継承権は消滅致しました」

「バカな!俺が継がずに誰が王位を継ぐと言うんだ!」

「本日より継承権第一位は、第二王子殿下でございますね」


 王妃に男の子が出来たので、私と殿下との婚約の意義も薄れてはいたのですよね。


「第二王子だと?あいつはまだほんの子供じゃないか!今、国王に何かあったらどうするんだ!」

「それも決まっております」

「え?」

「継承権第二位の王子が暫定的に即位なさり、第二王子殿下が成人なさったら譲位なさる事になっております」

「そんなの・・・俺は聞いていない」

「左様でございますか。殿下にはもう関係のない事でございますので、どなたも伝えなかったのでしょうか?」


 王妃が第二王子を産んで直ぐには決まっていた事ですけれど。

 もちろんその時点ではまだ殿下にも継承権がありましたから、国王と殿下の二人共に何かあった場合の想定でしたけれど。

 あるいは聞いたけれど、殿下が忘れたとか?でも、そんな大切な事まで忘れるかしら?


「継承権第二位?つまり俺か?」

「殿下の王位継承権は消滅致しましたので、紹介した方がよろしいでしょうか?」

「え?消滅?紹介?誰を?誰に?」

「王位継承権第二位の王子を殿下にでございます」

「いや、俺以外にいないだろう?」


 第一位ではなくなる事自体には、文句がないのかしら?


「では、ご紹介させて頂きます」


 私が振り向くと、フラリオラが私の横に立ちました。


「先代国王陛下の末王子、フラリオラ殿下でございます」

「え?先王の?こいつが?こいつは護衛じゃないか!」

「殿下。フラリオラ殿下は国王陛下の弟君でいらっしゃいます。殿下の叔父上に当たりますので、こいつ呼ばわりをしてはなりません」

「はあ?何を言ってる!先王の子は、国王以外はみんな妾腹だ!」

「フラリオラ殿下の母君は愛妾ではなく、先代国王陛下の側妃殿下でいらっしゃいます」


 殿下と同じ立場だと、知らないのでしょうか?

 フラリオラのお母様が側妃ではなく愛妾だったとしても、フラリオラが今日から王位継承権第二位なのは変わりませんけれど。


 先王は何人もの愛人を作っていましたが、先代王妃が片っ端から片付けたそうです。

 ですがフラリオラのお母様は、今の王妃の従妹なので、先代王妃も手が出せなかったと聞きました。


 先王がフラリオラのお母様に手を出した時は、国を割るかと言うほどの大騒ぎになったそうです。

 当時王太子妃だった今の王妃も、王太子だった今の国王と、離婚に向けて話を進めました。今の王妃も周囲の方達も激怒していて、今の国王の執り成しも抵抗も虚しく、あと少しで離婚となる所でした。

 その離婚が中止になったのは、フラリオラのお母様が妊娠した事が分かったからです。その為、フラリオラのお母様は先王の側妃として迎えられ、子供が産まれたら王族として育てられる事になりました。

 しかしその後、フラリオラのお母様は王宮に一度も戻る事はなく、実家でフラリオラを産んで育てました。


「ふざけるな!王となる為の教養は、一朝一夕で身に付くものではない!」


 殿下が言うと説得力があります。身に付いていませんもの。


「フラリオラ殿下は王宮で、王子教育を受けていらっしゃいます」

「ウソだ!」


 フラリオラの教育の事は王妃が側妃側に隠していましたので、殿下も知らなかったのかも知れません。


「いいえ。わたくしの護衛として共に王宮に通い、わたくしが王子妃教育を受けている間に、フラリオラ殿下は王子教育を受けていらっしゃったのです」

「それがなんだ!だからって護衛風情に、国政が担えるものか!」


 その発言、殿下もさすがにフラリオラの存在自体はご存知ですよね?それとも忘れてしまっています?


「殿下。先程、王妃陛下が国王陛下の執務を手伝う様に、わたくしに命じられました。それにはお気付きになりましたでしょうか?」

「ああ。なんか言ってたな。だからどうした?」

「フラリオラ殿下とわたくしは、普段も執務のお手伝いをさせて頂いております」

「なんだと?執務には手出しするなと言ってあっただろうが!」

「はい。殿下の執務には手出ししておりません。執務が殿下に割り振られる前に、わたくし達に割り当てられる様になっておりました。それから殿下に回されていたのでございます」

「なんだその言い方は?それだと、俺が残り物を担当してるみたいじゃないか!」


 残り物ではなくて、最近は失敗しても良いものを選んで、殿下に回されていました。


「仕事量で言いますと、殿下の10倍の執務をフラリオラ殿下は熟していらっしゃいます」


 私は5倍くらいですね。


「ウソを()くな!俺が一日に何時間執務をしていると思ってるんだ!10倍なんて、一日じゃ足りないじゃないか!」


 時間じゃなくて、量が10倍なのですけれど。


 だんだん、説明するのが辛くなって来ました。何を言っても納得して貰えそうにありません。

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