遥美
遥香⋯⋯
ちゃんと天国には行けたかな?
今はもう苦しくないのかな。
そうだったらいいな。
遥香、辛かったよね。痛かったよね、苦しかったよね、気持ち悪かったよね。悲しかったよね。
パパがあなたの仇取ってくれたからね。
だから遥香、帰って来てよ⋯⋯
もうあいつらに襲われることはないから、帰って来てよ⋯⋯
私、怖いんだ。遥香の声をいつか忘れちゃうんじゃないかって。今でもほんの少しだけ、記憶が薄れてきてる。ごめんね遥香⋯⋯守ってあげられなくて、ごめんね⋯⋯
もっと話しておけばよかったなぁ。
もっといろいろ褒めてあげればよかった。愛してるって毎日言ってあげればよかった。なんでやらなかったんだろう⋯⋯
ピンポーン
⋯⋯またマスコミの人ね。
遥香、ちょっと待っててね。
「旦那さんのこと、どう思いますか! 娘さんのこと、どう思いますか! 今泣いてたんですか! 仏壇はもう買ったんですか! さっきなんか1人で喋ってましたよね! 今1番辛いことはなんですか!」
「いやそんないっぺんに聞かれても⋯⋯」
怒涛。嵐。流星群。
「では、今1番辛いことはなんですか? 出来るだけ悲しいこと言ってくださいね! 出来るだけ辛そうな表情でね! 世論に訴えかけるチャンスですからね!」
そうか、みんなテレビで見てるから⋯⋯
「いつか娘の肉声を忘れてしまう日が来るんじゃないかと思うと、怖くて怖くて⋯⋯」
「もっと動画とか撮っておけばよかったんじゃないですか?」
なにこの人? こういうこと言えって言われてるの? 心配してくれてるのかと思ったのに、なんなのよ⋯⋯
「私の血を分けた、世界でたった1人の娘の声を忘れる怖さはあなたには分からないわよ」
「あの、話が噛み合ってないんですが⋯⋯それに、『たった1人の娘〜』と仰るのなら、今から2人目を作ってみては?」
「あんた自分が何言ってるか分かってんの!?」
「分かってますよ」
なんなのよ、こいつ⋯⋯
「なんでそんなこと言うのよ」
「ははは、そんなの簡単ですよ。かわいそうな人に優しくしても面白くないからです。
世間はあなた達みたいな人をもっと見ていたいんです。立ち直ってもらっては困るんですよ。
だから早く。
早く。
もっと泣いてくださいよ。
ねぇ」