健一
なんで俺が捕まらなきゃならねぇんだ。俺は娘を殺したやつを殺しただけじゃないか。なんで俺が⋯⋯
「健一さん⋯⋯私はね、思うんですよ」
なぜか目の前には袈裟を着たハゲ頭のジジイがいて、なにやら説教くさいことを延々と話してやがる。カウンセリングってやつなのか?
「こんなことをして、娘さんは喜ぶのでしょうか。お父様が殺人犯になってしまって、喜ぶのでしょうか」
こいつらに俺の気持ちなんか分かりっこねぇし、こんな奴らに分かってほしいとも思わねぇ。
「だからですね、もう人を殺してはいけませんよ。2人目を殺してしまう前で良かったです。仏様がそうしてくださったのでしょう」
「娘を殺されたんだ。なんでその相手を殺しちゃいけねぇんだよ⋯⋯」
「彼らは殺してないでしょうが!」
「殺したも同然だ!」
「復讐は何も生まないんです! 娘さんはそんなこと望んでいないんです!」
「あんたが娘のなにを知ってるっていうんだ! 声すら知らねぇくせに!」
「うるせーバーカ!」
「なんだと!」
「あ? やんのか!? あぁん!?」
「坊主がそんな態度でいいのか!」
「いいのだ!」
「殺してやる!」
「上等だコラ!」
「死ねぇ!」
「お前が死ねバーカ!」
坊主と取っ組み合いの喧嘩をしていると、部屋の扉が開いた。
「2人ともおやめなさい」
変なババアが入ってきた。
「林健一さん、座ってください。私は霊能力者のユメコと申します」
「霊能力者がなんの用だ」
「娘さんの霊を降ろしました」
「はぁ?」
なんのつもりだ? 何を言うつもりだ? こいつ。
「私はもう大丈夫だから、もう人を傷つけないで、と言っています」
「大丈夫なわけねぇだろうが!」
ババアに掴みかかると、後ろから警官に棒で殴られた。頭が割れそうに痛い。俺が悪者なのかよ。
「こんな自制の効かない暴力マシン、救いようがありませんわ!」
霊能力者はそう言って俺に唾を吐き、部屋を出ていった。
「バーカバーカ! あっかんべー!」
坊主も続いて出ていった。
なんでどいつもこいつもガキの味方をするんだ。どう考えたってかわいそうなのはこっちじゃねぇかよ⋯⋯
こうなったら、法廷で洗い浚いぶちまけてやる。絶対に許さねぇ。寿樹も道連れだ。地獄の果まで追いかけてやる。
自殺じゃねぇんだよ。あいつらに殺されたんだよ。
自殺じゃねぇんだよ。
どいつもこいつも法律法律。人の心なんか残っちゃいねぇ。
誰がなんと言おうが自殺じゃねぇんだよ。なんで分かんねぇんだよ。