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(ゆ)  作者: 七宝
2/6

遥香

 逃避する度に殴られて目覚める。

 あーあ、せっかく2人とも旅行でいないってのに、なんの用事もないなんて情けないなぁ⋯⋯

 ミキとかマキだったらこういう時、家に彼氏でも連れ込むんだろうけど、あたしにはそんなイイものいないからなぁ。そういやモキも最近彼氏出来たって言ってたなぁ。クソが。


 私も彼氏家に呼んでさ、「今日、パパとママ帰ってこないから⋯⋯」ってやりたいじゃんね。なのに私は朝から顔も洗わずに1人でスナックパン食べてさ。あー彼氏欲しい。


 彼氏⋯⋯


 久我(くが)くん、彼女とかいるのかなぁ。


 久我くん、エッチなこととか好きなのかなぁ。エッチってどんな感じなんだろ⋯⋯


 ピンポーン


 えっ、誰だろ。パパが楽天かアマゾンでなにか頼んでたのかな。自分が居なくてもどうせ私が暇で家にいるだろうからって、なにか頼んだのかな!!! 酷いパパンだぜまったくよぉ!!!!


 このババアみたいな服装は後で何とかするとして、とりあえずインターホンだけは出ないと!


 って焦って出たけど、近所のガキ2人組だったわ。


「どうしたのよ」


『遊びに来てあげたよ! 遥香姉ちゃんどうせ今年も1人なんでしょ?』


 私が()くと、インターホン越しに寿樹(としき)がそう答えた。


「こんな朝っぱらからダルいこと言いやがってクソガキどもが」


 私が悪態をつくと、また寿樹が口を開いた。


『朝っぱらって、もう11時だよ。もしかして今起きたの? 寝過ぎは良くないよ』


「うるせークソガキ!」


『とにかく早く家に入れてよ! ピザ買ってきたから!』


「まぢ!?」


 やるやんガキども。


 私は体重が4グラムになったような身軽なスキップで玄関へと舞い、ホテルマンのようにドアを開けた。


「お待ちしておりました。どうぞお上がりください」


「じゃじゃーん!」


「ウヒョー!」


 差し出された雄也(ゆうや)の左手には、Lサイズと思しき箱が2つ入った袋が提がっていた。素晴らしい。拍手してあげたい。


「お邪魔しまんちゅぬ宝」


「おジャ魔女ドレミファソラシド」


 2人とも死ぬほどつまらない挨拶をして靴を脱いだ。寿樹はサンダル、雄也は赤と黒の龍の模様のスニーカーだった。中二病って本当に中2でなるんだね。


 リビングに行って、さっそくピザの箱を開けた。雄也が1枚で、私と寿樹は半分こなんだって。私と寿樹の体重足しても雄也より軽いと思うし、妥当と言えば妥当なのかな。


「それじゃ、おじさんとおばさんの結婚記念日を祝って、乾杯(カンパイ)パーイ!」


 寿樹が音頭を取り、食事が始まった。久しぶりのピザはおいしいね。


「それにしても2人さ、去年は来てくんなかったじゃん。今年も来ないと思ってたよ」


 私がそう言うと、寿樹が笑って答えた。


「ごめんごめん、去年は彼女と遊ぶ約束しててさ」


 カノジョ!!!!!!!!!!!


「寿樹、彼女いんの!?」


 こいつら中2だから、私の3個下だよね!? しかも去年って言ったら中1じゃん!!!!


「当たり前じゃん。もしかして遥香姉ちゃん、彼氏いないの?」


 ファエッ!?


「えっ、そ、そんなのいるに決まってんじゃア〜ん!」


「だよね〜笑笑」


 グギィーーーーッ! クソーッ! 私、こんなガキに先越されてんの!? 悔しィ!! 歯茎から血が出そう!!!!


「雄也はいるの?」


 さっきからずっと食べてばっかで喋ってない雄也にも聞いてみた。いないよね? ね? 神よ⋯⋯どうか⋯⋯


「ガツガツムシャムシャ」


 食べるのに夢中で耳に入ってないっぽい。


「いやいや、いるに決まってんじゃん」


 代わりに寿樹が答えた。


「マジで?」


「当たり前じゃん。こないだ4人で一緒にデートしたよ」


「あ⋯⋯あ⋯⋯」


 痛い⋯⋯胸が痛い⋯⋯


 グサッてくる⋯⋯


 小さい頃からいつも一緒で双子みたいだった2人が、あの可愛かった2人が⋯⋯それぞれ彼女がいるだなんて⋯⋯


 いつまでも近所の子どもと遊んでないで、早く彼氏作んないと⋯⋯


「どうしたの遥香姉ちゃん?」


「なんでもないよ⋯⋯」


 もうピザ味しねぇよ⋯⋯


「ところで遥香姉ちゃん、昨日お風呂入った? 朝シャワー浴びた?」


「え? なんで?」


「いや、姉ちゃん臭いなって思って」


「ファイッ!?」


 確かに昨日はめんどくさくて寝ちゃったし、今日も1人だから昼からでいいやって思って入ってなかったけど、1日でそんなに!?


「そんなに臭い⋯⋯?」


「シャワー浴びてきたら?」


「うん⋯⋯」


 なんか泣けてきた。私、情けなさすぎるじゃん⋯⋯昔から弟みたいに思ってた2人にもう彼女がいて、しかも4人でデートしたって言ってるし、私臭いし⋯⋯


「ゲボルフ」


 ゲップまで出ちゃったよ。


「それにしても⋯⋯」


 洗面台の鏡に映る私は可愛かった。

 ぱっちりおめめに薄い眉、綺麗な鼻筋にややふっくらした頬、やわらかそうな唇。髪型だって別に変じゃないし、愛嬌もないわけじゃないと思う。


 なんで彼氏出来ないんだろう。他の人から見たらブスなのかな、私って。


 ていうか私、昨日着てた変なTシャツのままじゃん。だから臭いって言われたのかな。くんくん⋯⋯自分じゃ分かんないな。まぁいいや、早くシャワー浴びてさっぱりしよ。


 あ、そういやブラしてなかったんだった。1人だったからね。暑いし。こんな夏場に着けてられっかよ。


 シャワーが気持ちいい。

 やや低めの温度で全身の汗を流す。


「ふあぁ」


 食後だからか、あくびが出た。良い日だね。彼氏なんていなくても平和な日々が過ごせれば幸せだよあたしゃ。まるちゃんみたいになっちゃった。


 何度もあくびをしながらぼーっとシャワーを浴びていると、浴室のドアが開いた。


「お邪魔シマチョウ!」


「お邪魔マルチョウ!」


 裸になった2人が入ってきたので、私はとっさに

手で胸を隠した。


「なに入ってきてんのよ! バカタレが!」


「姉ちゃんが悪いんだよ、ブラもつけずに俺たちを誘惑するから。見てよこれ、もうビンビンだよ」


「僕も、ほら」


 2人ともどうしちゃったんだ!


「それは悪かったから、早く出てって! 私もすぐ出るから!」


「ダメ。ムリ。我慢出来ない。なぁ雄也、お前もそうだろ?」


「ああトシ、2人でヤッちまおうぜ」


 なんなのこいつら!!


「ヤらせるか! くらえ! 鷹爪三角脚ようそうさんかくきゃく!」


「見切った!」


 独学でマスターしたアミバ流北斗神拳を披露したもののあっさりとかわされ、逆に顔と胸にカウンターを叩き込まれてしまった。寿樹め、拳法習ってやがったのか⋯⋯痛ぁっ!!!!!


 タイルで頭打った⋯⋯痛⋯⋯痛⋯⋯やばい、めっちゃ身体触られてる⋯⋯いやそれより頭痛てぇ⋯⋯


「遥香姉ちゃんのカラダすっげーエロい!」


「ほんとだ! やわらけぇ!」


 嬉しそうな顔をしている2人。2人とも、心の優しい子だと思ってたのに⋯⋯こんな⋯⋯


「遥香姉ちゃんのカラダ、最高!」


「遥香姉ちゃん、可愛いよ!」


 可愛いだって? こんなことしておいて何言ってんだクソどもが⋯⋯


「可愛いならなんで彼氏出来ねーんだよ。なんでお家デートも出来ずにお前らなんかに犯されてるんだよ。説明しろよ」


「あれ? 彼氏いるんじゃなかったの?」


「嘘に決まってんだろ。お前らに彼女いるのが許せなかったんだよ。なんでお前らにいて私にいねーんだよクソが」


「それは遥香姉ちゃんが高嶺の花だからだよ。だからみんな近づけないでいるんだと思うよ。可愛いよ遥香姉ちゃん。な、雄也」


「そうそう、昔からずっと可愛いよ。ところでさ、遥香姉ちゃんって処女?」


「⋯⋯⋯⋯」


 張り手が飛んできた。


「さっさと答えろよ! いちいちめんどくせぇなぁ!」


「⋯⋯そうだよ」


「じゃあ僕がもらうね!」


「ずるいぞ雄也! 姉ちゃんの初めては俺がもらうんだ!」


 なに勝手に争ってんだろ。この部屋のすぐ隣にお隣の玄関があるから、私が叫んだらすぐ見つかるっていうのに。


「あ、ちなみになんだけど遥香姉ちゃん。騒いだら殺すから」


 寿樹は右手にナイフを持っていた。私の家のものではなかった。


「あんたそれ、最初からそのつもりで⋯⋯!」


「はいそうです」


 寿樹はニッコリ笑った。


「じゃあ、いただきまーす」


 えっ、ちょっと待っ――






















「開通〜」
































「とりあえず腕縛っとくか」
























「紐ないよ」


「じゃあ蛇口に髪でも縛っとくか」























「キスもまだなのに悪いねぇ」




















「おいしい?」

























「これ終わったらガムテープで口塞ぐわ。頭押さえんの疲れたわ」


「ちょっと待って、今吸ってるタバコも入れさせて」















「気持ちいい」



























「中出し最高〜!」
























「動画撮ろうぜ、動画」

















「気持ちいい? ねぇ、気持ちいい?」




















「気持ちいいよね? ね?」

































「気持ちいいって言えよ」






















「ピースしろ」




















「自分で腰動かせ」




















「スマホ電池切れそう」


































「あー気持ちいい〜」
































 今、何時なんだろ。パパ⋯⋯ママ⋯⋯


「よそ見すんじゃねぇぞコラ! また殴られたいのか! オラッ! オラッ!」







 2人とも私を姉ちゃん姉ちゃんって呼んでくれて、可愛かったなぁ。


「ガムテープやめて、接着剤でくっつけちまおうぜ」


 近所のドブで私がクソデカいヒルを捕まえた時、雄也がパニックになってたっけなぁ。


「耳にも入れてみようぜ」











 で、寿樹が強がってバケツに手入れて血吸われたんだよね。泣いてたなぁ。




「あー出した出した、もうすっからかんだ。なぁ雄也、接着剤で蓋しとこうぜ。そのほうが姉ちゃんも喜ぶもんな」






 雄也が同級生に太ってることをからかわれていじめられた時に私、小学校に怒鳴り込みに行ったんだよね。

「接着剤どっか行っちゃったよ」



 その時に相手の子を泣かせちゃったけど、「遥香姉ちゃんは悪くない!」って、寿樹が味方してくれたんだよね。










「ボンドあったぞ」
































 ママ、パパ⋯⋯











「ボンドで蓋してあげるね。姉ちゃん、嬉しいよね? 嬉しいよね?」





「⋯⋯うん」


「よかったあ」


 人の笑顔がこんなに怖いと思ったのは初めてだった。
































 パパ、ママ⋯⋯














「遥香姉ちゃん、俺たちそろそろ帰るね。ボンドが乾くまでそのままで⋯⋯って言っても無理だよね」


「ガムテープで縛っておこう」


 頭の上で両手を縛られ、膝と肘でそれぞれ縛られた。


「バイバイク、姉ちゃん」


「さよなランボルギーニ」






















 パパ⋯⋯ママ⋯⋯

























 帰って来ないで⋯⋯

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