別れたけど。
恋愛とは皆はどのような形を求め、理想として掲げるのだろうか。
そして、そのうち何人の人間がその理想を果たせたのだろうか。
多くの者は理想を果たせず、妥協に妥協を重ねて、自分が納得する所まで持っていくのだろう。
否、そもそも理想を掲げない人の方が多いのかもしれない。
実は俺も理想なんてモノを掲げた事などない。
常に流れに身を委ねてきた。恋愛に限らず殆どの事はその時の流れに沿って行く。高校の教頭に御前は良い奴だが、中身がないと言われる程だ。俺が良い奴かどうか定かではないが、中身が無いというのは心が苦しくなる程共感してしまう。
そんな中身の無い俺が色恋沙汰に挑戦する。手を出していく、そして納得が行く恋愛か出来るかどうかのお話。
「ねえ、まだ彼の事観ているの?……そろそろ辞めなよ、別れてるし、そもそもアンタには彼氏居るんでしょ」
暗めなココアブラウンのロングストレートの彼女は横に居るフットサルコートに居る男を眺めて居る、背が小さく、黒髪の編み込みのハーフアップの女に声を掛ける。
「はぁ……全くもう、瑠璃辞めてよ。全て知ってる癖してさ」
黒髪編み込みハーフアップの女は段々声が細くなり、発し終わると頬膨らませてしゃがみ込む。
「ごめんって……でもさ、結衣はもう少し自分に真っ直ぐになって良いんじゃないかなって思うよ、私は」
瑠璃はしゃがみ込んだ結衣に合わせ自身もしゃがみ込み肩をそっと慰めるように3回軽く叩く。
「そうは言っても、さ……そんな上手くいかないもん。付き合っても彼奴が何を考えているのか分からなくて……付き合い始めもノリだし、別れ方も流れで別れちゃったし」
「まあ、先輩は教頭にも言われてたけど、傍から見たら悪い言い方中身ない、と云うか……んー、何事も流れに身を任せてきた感じに思えちゃう程だもん。何考えているか分からないよね……でもさ、別れたのはちゃんとした原因あった訳でしょ、一応。お互いの夢を考えた時に一緒になれないんじゃないかって」
「そうなんだけどさ……私はすっごく、凄く悩んで決めて、勇気決めて話したんだけどさ。向こうは……こう……あっさり、と言うか……そのそうめん並のあっさりさなのよ」
「そうめんって……まあ、うん、高校生で重いよ結衣それはさ、話を聞いてたけどさ。先輩はあっさり過ぎだけど」
「重いってのは解ってるけど……彼奴の事考えると気持ちが強くなっちゃうもん」
「凄かったもんね……あの当時は本当にやばかった、否、今もやばいけど」
「うん、今も彼奴の頭の中を私だけに埋め尽くして、ずっと死ぬ迄私の事考えて欲しい、他の女に抱いている最中にも脳内に私が居て、抱いた後に私と別れたの後悔して自慰行為して欲しい程だよ」
結衣は立ち上がり、拳を作れば現在の思いの丈を熱を加えながらしゃがみ込んだ儘の瑠璃に伝える。
「アンタ……まじでやばいよ、もうこの子放っておいて帰ろ」
結衣の様子を見ては溜息を零して、自身の荷物を肩に掛けながら立ち上がり、構ってられないと玄関へと向かって歩き出す。
「あ、待って……ねえ!瑠璃待って!」
結衣も慌てて荷物を持って、瑠璃の後を追いかける。
「なあ、遥斗……なんか上が煩くなかったか?」
赤みを帯びたややモヒカンのようなスポーツ刈りの男が黒髪のマッシュウルフヘアの男に話し掛ける。
「大丈夫、御前のシュート打つ時の叫びより小さかったから何の障害は無い。悠平は煩いんだよ、もう少し声を抑えろ、てか、黙ってやれ」
「うっわ……俺の気合い入った、チームを鼓舞する雄叫びを、勇敢な雄叫びを煩いって言いやがった。これでチーム士気が下がっちゃったらどうするんのよキャップ。だからあんな可愛い子に見放されるんだよ」
悠平が遥斗の肩に手を添えながら話すと、遥斗は悠平の手を払い、睨みつける。
「結衣とは関係ねえだろ……まあ、あれは俺が情けなかったのが原因だけど」
遥斗は段々と声が小さくなり、最後は呟くように口を動かした。
数秒、間を開けて、誤魔化すように、何も無かったように皆に練習再開の号令を掛けると悠平も乗っかるように叫ぶ。
「遥斗キャップを怒らせるなよー、お前らー!」
「悠平が俺を怒らせてんだろ」
呆れるように溜息を吐くと、再びコートへと戻る。