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記憶戻り 1

『貴方に名前をつけてあげる。エランシスはどうかしら?』


靡く髪は誰のものだろう。


『人間嫌いっていう意味よ。貴方にぴったりだわ』


今よりずっと高い視線。

一面のシロツメクサの中、エランシスは、そっとくちづけた。

分かり合えた二人を引き裂くのは


人間だ。


『魔物と通じたって?何と愚かな』





熱っぽい呼吸が苦しくて、目を開く。

覗き込むような布が見えた。

「ロータス…?」

「お目覚めになりましたか。熱があるようです。主様は薬を調合しております。お水は飲まれますか?」

「頂ける?」


かろん、と音がしたのでゴブレットの中を覗くと、氷が浮かんでいた。


「氷…だわ…冷たい」

「主様が作りました」

「まあ!」


冷たい氷水を飲み干す。

(私、喉が渇いていたんだわ)


冷たくて、有難かった。


扉が音もなく、そっと開く。

「む、なんだ起きたのか」

「氷水を頂きました。お気遣い感謝します」

「ん。…そうだ、薬を持ってきた。飲めばすぐに良くなる」


そう言って手渡された、何かを煎じた液体。

なにやら独特の香りがする。


逡巡の末、えいと一気に飲み干した。

「それはよく効くぞ。慣れない記憶戻りに身体がついていかんのだろう、ゆっくり休め。食事もここで摂るといい」

言って、袋からごそごそと林檎を出して小さなナイフで剥き始めた。


「主様、私が」

「いや、良いのだ。やらせて欲しい」


ロータスは伸べた手をゆっくり戻すと、頭を垂れて一歩下がった。


しょりしょりと心地よい音と甘い香りが気持ちを温かにさせる。


「ほら」


綺麗に剥かれた林檎と、それに混じって幾つかの兎がいた。

まず差し出されたのは兎の方だった。

「じ、自分で食べられます」

「なぜだ。剥いたのは私なのに」

「お手を煩わせて申し訳ありません」

「違う、そうじゃない」


そういえば、意地を張って食べなかったら、三日目でお腹が鳴って、エランシスが食べさせてくれたのだった。


今、エランシスは私のことを心配そうに見つめている。

角が生えている魔物なのに、何故優しいのだろう。

そんなことを思う。


「嫌なら口移しで食べるか?」

「普通に食べます。口に放ってくださいませ」

「なんだ、残念だな。ほら」


しゃく、と噛む。

当たり前にりんごの味がする。

魔物が剥いてくれたりんご。


「甘い…美味しい、です」


心配が解けたような顔になってエランシスは微笑む。

果汁が滴る口を、今度は素手で拭ってくれた。


白くて細い指を伝う果汁を舐めている。

喉仏が上下した。


それだけのことなのに、私は肺一杯に空気を吸い込まなければ、胸が押しつぶされてしまいそうな気持ちになった。


「まだ顔が赤い。熱が下がりきらないな」

大きな手で額に触れられて、私はついエランシスの頬を両手で包み込んだ。


「ほう、積極的じゃないか。褒めてやる」


熱っぽい視線が注がれた。

(熱があるのはエランシスの方じゃないの?)

唇が触れるほどの距離まで近づいてくる。

(ほら、また唇に触れないのだわ)

でも、エランシスは

「嫌がるんじゃないぞ」


それは、りんごの味がした。

いつからか欲しくなっていたそれは、私に記憶の波が押し寄せるには充分すぎる理由となる。



「私は、またアイリスという名前で生まれ変わるから、エランシスが私を見つけて」

「アイリス…?」

「ずっと靄がかかっていたけれど、私がそう約束したのね」

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