小さな屋敷
短く切り揃えた白い髪に、その角はよく目立つ。
「主様のその角は、なぜあるのですか?」
「知らない。嫌か?」
「いえ、それが主様ですから。…その…」
もじもじしていると、顔が上がって目が合った。
ふ、と優しい笑みが漏れる。
「触りたいか?」
こくこくと頷くと、優しい笑みは悪戯の笑顔になる。
「ダメだ。なぜか分かるか?それじゃあつまらないからだ」
「ツマラナイ…?」
人差し指が立つ。
「賭けをしよう。そうだな、例えば--くちづけまで、先に目を閉じた方が負け、とか」
ぐんっと顔が近づいてきて、突然のことに私は目を瞑ってしまう。
ところがいつまで経っても何も起こらないので、恐る恐る目を開ける。
「私の勝ちだ」
ちゅ、とおでこに唇が触れた。
(また、おでこ)
最近主様は私に極力触られない。
くちづけも、おでこや頬。
(やはりアイリス様のことがあるから?…少し、寂しい)
ほのかに熱の灯った額を指で撫でた。
当たり前だ。考えれば分かるじゃないか。
愛した人はまたしても目の前で死んだのだ。
主様は少し小さな屋敷を作った。
その屋敷に所々面白い工夫を凝らしていく。
手を翳せば火が起こるキッチン、息を細く吹くと綺麗に掃除される部屋。
欲しい時に手を握れば豊かに湧く水。
それから気温によって付いたり消えたりする暖炉。
そういうものを一つ作っては一日が終わった。
私たちに間で、一つ失われた習慣がある。
それは、星屑を呼び寄せては、灯りが消えるまで語らうこと--
夜が更けて新しいベッドにもそもそと入る。
先に眠っていた主様は腰に腕を回してきた。
「主様、あったかいです」
「ん」
短い返事のあと、すぐに寝息が聞こえてきた。
短くなった髪を避けてから、そっと角に触れてみる。
きっと毎日の作業はとても骨の折れることで、すごく疲れているのだろう。けれど、やっぱり少しは寂しい。
「…満足か?」
「起こしてしまいましたか?申し訳ありません」
「もう、触るな」
「え?」
「もう触るなと言った」
「あ…申し訳…ありませ…」
声が震える。
急にすごく怖くなって、なんとかベッドから降りた。
「おい。違う!そうじゃなくて…」
「調子に乗りました。失礼します」
やはり、主様は傷ついておられるし、それは当たり前のことで…
『お前は私の妻だ』
今になってそう言ってくれたことを思い出す。
もつれる足をなんとか動かして小さな屋敷を出た。
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