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クソ野郎(前半エランシス視点)

「ちっ…ああ!もう!」

クソ野郎(カーターとかいう馬みたいな顔の奴)が鎧についた血や汚れを嫌って、こちらを見もせず一生懸命にハンカチで拭いている。

私は、つかつかとその馬鹿面の元へと歩んだ。

「おい、お前」

「あ?…うわっ!!」

私の顔を見て大層驚き、四つ足をかきながら逃げていく。

負け犬とはこのことだろう。滑稽だ。

「待て待て、ローマンが死んだぞ」

言って首根っこを掴むと、「ひっ」と小さい声が聞こえた。

「ろ、ローマン?…ああ、あのオカマ王子…」

ひいひい言いながら、じたじたともがいている。


「……周りを見ろ。もう皆死んでしまった。屍の山だ」


きょろきょろと今更ながらに周りを見回して、自分が一人だけ生きていることに気づいたらしい。

目を溢れんばかりに見開いた。

「おい!起きろ!役立たずども!!死んでないで起きてなんとかしろ!!」

指を指してわあわあと叫んだ。

それがあんまり喧しいので、首を掴んだままクソ野郎の鼻先まで顔を近づける。

甘味の甘い匂いがした。争いの前に甘味など、随分とお気楽なものだ。

「お前、弱いな」

「なんだと!?僕はなあ、剣術で国一の負け知らず…」

「お膳立てしてもらったんだろ、オージサマ」

手を離す。

どさりと尻餅をついたクソ野郎は酷く息切れをしている。

「おい!マリア…ローマン!!」


しゃがんで目線を同じにすると、その男は蛇に睨まれたカエルのよう。

口をぱくぱくさせるばかりだ。


「なんだ、失禁しているぞ。ダメじゃないか。お仕置きが必要だな…」

ぶるぶると震えるそいつは、もはや王子様とは言い難い風貌だ。

「そうだ、お前が一番嫌なことをしてやろう」

「え…?」

どこからかたくさんのネズミや、蛇や、虫が集って王子を包み込んだ。

「うわ、うわあああああ!!!」

ばりばりと音を立てている。次第に悲鳴も聞こえなくなり


やがてネズミや虫は棲家へ帰る。

後には、傷一つない綺麗な武具が落ちていた。






✳︎ ✳︎ ✳︎





「マリアンナ・チェリーウェル侯爵令嬢、君がこんなに積極的だとは…」

ベッドの脇で目を伏せるマリアンナは恐ろしく妖艶だ。

艶やかな唇は果実のよう。


「私の誠意です」

そう言って、その重たそうなドレスを脱ぎ捨てる。

だが、それはカーターの期待を一変させた。

「…え?」


マリアンナは上半身が裸のまま、その場に傅く。

「私の本当の名は、ローマン・ウィンストンと申します」

「う、ウィンストン…まさか…」


美しい淑女の彼は頷く。顕になる頸は女性そのものだ。

そして、信じられないことを告げる。

「私は死んだことになっておりました」

その事実はカーターの期待を裏切られたことを意味し、ただその事実だけに愕然とする。

ローマンは続けた。

「…父は、国王は愚王として処断、その命を我が手で終わらせました」

「な、なんと…!」

ローマンの本気に漸く気づいて、カーターは政治脳を巡らせようとした。

「我が国を乗っ取るおつもりですか?だが、今一度考え直して頂きたい。その為の、精一杯の誠意です」


カーターはふむ、とわざとらしくニヤついた。

「男を抱く趣味はありませんが…暇つぶしくらい付き合ってくれるんでしょう?」

「…慣れておりますとも」


ノーマンの頭の中で、姉の声が反響する。

頭の中で何度も繰り返して、擦り切れてしまった姉の声は掠れているけれど。

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