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ローマンの死

「はははは!!実に迂闊ですね、魔物というのは」

聞き覚えのある声が高らかに響いたかと思うと、突如光の道が私たちの前に出現した。

そこから、傷ひとつない武具に身を包み歩いてくる人がいる。

「カーター殿下…」

私は思わず後ずさる。


「アイリス殿下、お迎えに上がった時、素直に帰って来れば良かったのですよ。魔物との夢の時間はお仕舞い。愛した男は魔物だなんて、良いご趣味のお姫様ですね」


私の前に白い髪がふわっと揺れる。庇うように立ってくれるエランシスは努めて冷静に低い声で問うた。

「なぜ人間が私の世界に干渉できるのだ」

「うん?お姫様の周りは裏切り者だらけということさ。どうです、アイリス殿下。戻って僕の妻に治る気になりましたか?」

彼のその目尻に軽蔑を見た。

「ここまでして私に執着する理由がわかりません」


そして、ククッと笑う口元は歪だ。

「一度欲しいと思ったものが、この手をすり抜けたら、捕えて我がものにするまで気が収まらない性分なのです」

「狂ってるわ」


沢山の兵士がぞろぞろと光の道から侵入してくる。

その中に--

「お姉様も魔物殿も覚悟していただきたい。これは国を上げた魔物狩りだ」

ローマンが颯爽と男装姿で現れた。それでも、彼はもう男装のご令嬢にしか見えない。


「こんなことはやめて!何になるというの!?」

「もう後に引けないからだ。分かるだろう?」


隣国の武力を集結してもなお倒せなかった魔物を放置するなど、この国にとっても隣国にとっても面子が保てないのだろうとそこまでは予測がついたが、ではどうやってこの場でエランシスと対峙することを叶えたのか。


私は目を見張る。

軍勢の中、弟と共に歩んでくる式。

ロータスだった。


エランシスは式の裏切りに気付いても、飄々とした様子で言う。

「なるほど、お前の仕業か。やってくれるな」

「どうして…どうしてロータスが…?」


その式は、顔の前に垂れ下がった布をゆっくり取り払う。誰もがその指先を見つめた。

布の下は、なぜか見覚えのある顔。

思い出す。あれは--

あれは、前世の私の

過去のアイリスの顔だ。


私は戸惑い、その場から呪縛のように動けなくなってしまう。

だが、エランシスだけは動じていない。

僅かに口元が動いて、にっと笑うだけだった。


エランシスが着ている柔らかい布が美しく風に煽られた。

彼は突然ものすごい速さで印を切ると、私の周りにシャボン玉の様な膜を張る。

息つく暇もなく呪文を唱えて炎を繰り出した。

炎の紅と真っ白な髪が、まるで演舞を舞っているかのように揺れ動く。

一切無駄がない動きで口の前に指を持ってきたかと思うと、そこから強風が吹き出され、煽られた業火は勢いを増してカーター群を焼き尽くしていく。

悲鳴を上げる間もなく倒れ込む兵士たち。


「ろ、ローマン…!ローマン!!」

絶叫するように弟を呼ぶ私をエランシスは横目に見た。

「悪いが容赦はしない。これだけの軍勢に手加減していたらこちらがやられる」

分かっている、分かっているけれど…。


後方から大砲が発射され、わあわあとサーベル片手に大群が迫ってきた。

それをも真っ白い大きな手を翳すと大砲は飛ぶことを止め、その場に落ち沢山の人々が爆風に散る。

そして、その大きな手で手刀を切ると、風を集め空気の刃となって更に沢山の人々を切りつけた。


何という圧倒的な差。

エランシスは汗をかくどころか、呼吸が乱れることすらない。

血飛沫が、土埃が、こちらに飛んでくるのを嫌って手で払い除ければ、たちまち風が立ち起こりその場で滅した。

それほどまでにこの魔物には余裕があるのだ。


が、そこにローマンが後ろからエランシスの首元に刃を突き立てた。

「魔物殿、貴方とはこれからたくさんの有意義な会話を楽しみたかったな」

エランシスは微笑んで言う。

「私は君が嫌いじゃない。友と呼べる仲になりたかった。残念だ」

「さようなら、魔物殿」

その言葉に一層微笑んだエランシスは、次の瞬間には手でローマンを突き刺していた。

「さらばだ、ローマン」

白い手が血に染まる。

「あ”っ……」

「人間の動きなど、埃が地に落ちるが如く緩やかなもの」

「うっ…ぐうっ…」

「許せ、ローマン」


今まで聴いたことがない音で地に落ちるローマンを私はただ見つめていた。

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