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王宮へ

「許してくれ…頼む、頼む…」

地を這う王の手がぶるぶると震えながら伸ばされた。

高いヒールの靴はその手を踏みつけると、くぐもった声が聞こえた。

「情けない。隣国に作った借りを貴方一人で贖えるなら安いものだと思った方がいい。逃げられるなど、思わないことだ」

「離してくれ…ローマン…!」





✳︎ ✳︎ ✳︎





今日は夢も見ないで熟睡した。

うんと思い切り伸びをして、朝の空気を肺に吸い込む。


「おはよう」

もぞもぞと寝具から腕が伸びてきて、目を瞑ったままのエランシスが私の腰に抱きついた。


「おはようございます。良い夢は見れましたか?」

「うん?見たような気もするな。だが忘れた」


寝起きの魔物は、なんだか子供みたいで笑ってしまう。


突然ノックがする。

それはロータスだった。

以前はノックもせずに部屋の中にいきなり現れていたけれど、私が来てから少しずつ配慮してもらえるようになってきた。


「お目覚めですか。アイリス様の弟君がいらしています。なにやらただならぬご様子。通しますか?」


私はエランシスと目を見合わせた。





身支度を整えて、弟を迎えた。

見ると、その顔面は蒼白だ。


「ローマン、突然どうしたの?」

「父が…」

はあ、と呼吸が乱れて胸を押さえている。

その様子を見て、私たちはただローマンが落ち着くのを待った。

やがて、弟はその重い口を開く。

「実は…お姉様の奪還が叶わなかった父上は、隣国との約束を反故にした事実を変えられず、囚われてしまったのです」

「…そんなの、勝手だわ。自業自得よ。貴方が一番そう思うでしょう?」


ローマンは俯いた。

「自分でも驚くのですがね、私の目の前で捕えられて引き摺られていく父を見ると…」


目の前で父親が連れ去られる状況に居合わせれば、その心中は穏やかではないだろう。

気持ちはわからないでもなかった。

「私にどうしろというの?」

「無理を承知でお願いです。一度、こちらに戻ってきていただけませんでしょうか?勿論、魔物殿もご一緒に」


エランシスが眉間に皺を寄せた。

「私たちが行ってどうするのだ」

「父を、魔物殿の力で取り戻していただきたい」

「断る」

「断られるだろうことは重々承知の上でのお願いなのです。奪還が叶えば、父の口から必ず二人の結婚を認めさせて祝福の下、送り出すよう私から約束します。そして、二度とお二人の世界に干渉しないことも」


私は困惑していた。

あれでも父だ。

父なのだ。


「お姉様、父上はもう姉上のことは諦めたと言っていました。こんな終わり方で良いのですか…?」

その表情は何かを堪えているようだ。

ローマンは尚も訴える。

「私は右も左も分からぬ子供のうちに養子に出されたからこそ分かるのです。別れというのは後悔がないようにしなければなりません。お姉様」


揺れ動く心をどうすることもできずに、ただエランシスをじっと見つめた。






私たちは結局、またしてもこの国の土地を踏んだ。


「魔物殿は、一足毎に花びらが舞うのですね。まるでここだけ春みたいだ」


エランシスは颯爽と歩いていく。

「こんなに沢山人間の土地を歩くのは二百年ぶりだな」

時折煩わしそうに、舞う花びらを手で払った。

その様子を見て、私の口から勝手に言葉が滑り落ちる。

「…私は美しいと思うのです。この薄紅の花びらと、抜けるように白い貴方が、あまりにも。思えば、今世で貴方をひと目見た時に私は目が離せなくなってしまった。この大地を歩く貴方が好きです」

「こんな呪いが?」

「そういえば、なぜ二つの呪いの内、一つが解けたのでしょう」

「ん、祠が経年劣化していたが、ある日ぶっ壊しにきた奴がいたぞ。知らなかったのか?そうか、私はてっきりアイリスが生まれ変わり、それを伝えに来たのだと思ったが…そうか、その時はまだアイリスに過去の記憶がなかったのだよな…」

「…え?」


困惑していると、ローマンが振り返る。


「さあ、王宮に着きました。歓迎しましょう、お姉様、魔物殿」

言うと、衛兵がザッと周りを取り囲んだ。

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