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星屑ひとつ

それから何日か経って、エランシスは私の寝室で眠るようになった。


ここのところ、何かを思い出す時の頭痛が酷かったので、それを心配してくれているらしい。

夢の中で過去を渡ると、明朝締め付けられるような痛みで寝具の中丸まった。

そんな時は、冬の猫みたいな私をエランシスは無言で抱き寄せてくれる。


一つ分かったことは、過去のアイリスが人柱になったことでエランシスは人間を許せなくなったということ。

それまで彼は確かに人間の力となっていた。

「私があの地に零した加護は、人間が土に手入れを怠らなければ必ず大きな実りがある。欲張らず、驕らず淡々とこなす努力をしないだけだ。見せかけの美しさだけが残る土地ならば、人間の中身が伴っていないということだろう」

つまり、エランシスは人間を見放した訳ではないのだ。

見放した、だなんてまるで神様みたいな目線だけれど。

エランシスに言わせれば

「私が何かなど、どうでもいい」らしい。



夜の帳はいつも安らかな空気を連れてくる。

入浴を済ませて戻ると、式達が焚いた良い香りの香が部屋に充満している。


エランシスはソファが気に入ったようで、私の入浴が終わるのをそこで待つようになった。

声を掛けると眼鏡のようなものを外した。本を読んでいたのだろう。


眠る時、彼は決まって星屑を一つベッドに呼び寄せる。

薄暗い部屋の中で仄かに光る星は、あまり長くはない時間で消滅する。

その消滅までの間、私たちは沢山のことを話した。

時に見つめ合い、甘く苦しい感情にどうにもならなくなると唇を重ねた。


その日も、星屑がそろそろ消えるだろうという頃になってエランシスが私にくちづけした。

湯上がりの、まだ乾き切らない髪から花の香りがする。

お互いの香りが違う。私は柑橘のような香り、彼はすっきりとした花の香り。

胸の奥が疼いて、私はエランシスにさらに深いくちづけを返すと、魔物と呼ばれている彼の瞳を揺らせた。

くちづけをすれば、こんな表情を見せる彼はなぜ魔物と呼ばれるのだろう?異形だから?それは角があるから?


ぽつ、と微かな音と共に星が消滅する。


薄暗い部屋ではお互いの輪郭も境界線も曖昧だ。

どこからが私で、どこまでが貴方なのか。


「惜しいことだ。もう少し長く煌めいていれば、もっと良く見えるのに」

「星は一夜に一つまでと決めたのはエランシスでしょう?」


夜の空気は密やかだ。

声を押し殺しているのに、冗談みたいなやり取りだけは上擦った声音も気にせず口にするくせに。


(なのに、いつも意地悪なことばかりする)


長い指に絡め取られると、私の手などまるで子どものようだ。

エランシスはそれを遊ぶように組み替えると、私の手の甲にくちづけされる。


どうにかして、意地悪なエランシスに一矢報いたいのに、泣かされるのは


いつだって私だった。


余裕のない顔を見ることは当分叶いそうもない。


意地悪な笑みが覗き込んできて、耳元で秘密の言葉を囁かれる。

そんなことを言われたら--




お互いを腕に抱き抱えながら微睡む。

深い眠りにつく前、温かい体温が逃げてしまわないように。

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