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ハーブ水

「客人のお見送りご苦労」


その言葉にロータスは頭を垂れた。

弟を送ってくれたのだ。


「ローマンは何か言ってなかった?」

「アイリス様を宜しくと」

布は僅かも動かない。


言伝を噛み締める。少し目頭が熱くなった。

鼻の奥がツンとして、ぐっと堪える。



ローマンは、謂わば一番の犠牲者だ。

王子と姫であれば、後継者など悩むべくもない。

私はどこかへ嫁ぎ、ローマンはこの国を立派に再建してくれると幼心に思っていた。

だが、父はあくまでも玉座に強国の血を求めた。


この国の立場は微妙だ。

他国に手を伸ばせば、周りの国から反感を買って一気に世界戦争に発展するかも知れない。

例えば隣国の姫をこの国に嫁がせることは出来なかっただろう。

私が嫁ぐとなれば、手放すのはこちらである。

それによって齎されるもの-つまり二人以上の王子の誕生は不確かだからだ(父は強くそれを望むだろうけれど)

ローマンは死んだことになっている。つまり世継ぎが居ないのだから、いずれ王子が産まれれば、我が国の玉座に据える方便が成り立つ。


誰に何を言い含められたのか見当もつかないくらい、父の側近は汚れきっている。

或いは、父がもともとそうなのかも知れなかった。

父が一番憂慮しているのは、この国の未来であるのに

悲しいかな足元が見えていない。

今救わなければいけないのは、目の前の国民だと言うのに。


可哀想なローマン。

八歳であの子は王宮を去った。

可愛い私の弟だ。



そっと髪を撫でてくれたエランシスを見ることができない。

「泣いているのか?」

その言葉に感情が溢れてしまう。

「私は多くのことを知らなさすぎた。弟君の頼れる姉上を奪ってしまったのは他でもない私だ」

「エランシスがどうやって私を攫ったかは問題ではありません。父が…父が悪いのです」

伝う頬の雫を拭ってくれる彼は、ローマンが言うように、魔物と言うには優しすぎた。





『私はね、蓮の花が好きなの。アイリスじゃないの。可笑しいでしょう?』


彼は泣いていたけれど、私も泣いていた。


貴方と私は結ばれることが叶わないから。


貴方が永遠の愛を誓う決心をするまで、もがき苦しんだ二人は何度も涙を流した。

漸く結ばれるはずだった幸せの絶頂の最中、絶望に叩き落とされた。

貴方が涙を落とす傍らで、


私は






頭が痛い。

「うっ…」

「ロータス、水を持ってきてくれ」

蹲る私をエランシスが抱き抱えて寝室に運んでくれた。

用意された水を口に含むと少し落ち着く。

「すっとしたわ、ありがとう」

「ハーブ水です」

相変わらず表情は伺えないけれど、気遣いに感謝した。


エランシスは心配そうにベッドの脇に座って、私の髪を撫でている。


「ロータスはハーブにも詳しいの?」

「お茶や入浴にも用いますし、洗濯や怪我などにも使いますから。式は皆自然のものからここでの生活を賄っています」

ゆらっと、良い香りがする水を眺めた。


「このハーブ水にはどんなものが入っているの?」


顔の前で布がふわっと揺れた。

「それには、蓮の葉と花が使われております」


また


また蓮だ。


「うっ…」


酷い頭痛と眩暈がする。


「どうしたんだ、アイリス」


ああ

その名を呼ばないで。

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