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ローマンが訪ねてきた(後半、エランシス視点)

その日、池のほとりでくちづけを交わした。

私が躓いて転びそうなところをエランシスが抱き寄せて、どちらからともなく、まるでそうすることが自然かのようにお互いの吐息が混じった。

熱った唇が首筋を滑っていく。

言葉もいらない。

濡れたまつ毛が綺麗だと思った。

ただそれだけのことが、こんなにも胸を切なくさせる。


いつからだろう。

ずっと昔から知っている。

甘くて苦しくて


「…アイリス」

私は名前を呼ばれて我に帰る。

肩に触れるエランシスのおでこの重みが、これは現実であることを私に教える。

細身だと思っていたのに厚いその胸板を押し返した。

「あっ…あの、ごめんなさい…」

「なぜ謝る?…すまない、こんなところで。シロツメクサに埋もれた君があんまり美しいから…」

手を引かれて起こされる。

その手の甲に触れた唇。

魔物はそれから愛おしそうに私の手に頬擦りした。


「失礼します。アイリス様の弟君が祠の前で、アイリス様にお会いしたいと仰っています」

「ローマンが?」

エランシスを見ると、「行っておいで。必要があれば、ここに招くと良い」と囁いた。




私は光の道を進んで、再び生まれた土地の土を踏んだ。

「ローマン…!?どうしたの?」

「お姉様。良かった、無事なのですね。父上より奪還が失敗したと聞きました」

「お父様は、おかしなことを言うのだわ」

「どうやら、随分と隣国に借りを作ってしまったそうで首が回らないみたいです」

その言葉に、私は眉根を寄せる。

「…ローマン、貴方ここへ何しにきたの?」

「…お姉様と少しお話がしたいのです。叶いませんか?」


うーんと考えて

(エランシスも屋敷に招いて良いと言っていたし…)


ローマンと共に光の道を戻った。





応接間のような場所へ行くと、式達がお茶を用意してくれた。


「あれは、布が目の前に垂れていても見えるんですか?」

「皆、なんでも滞りなくこなしてくださるわ」


共にソファに座ると、そこへエランシスが入室してきた。

「この屋敷の主だ。ゆっくりしていかれると良い」

「ローマンと申します。以後お見知り置きを」

淑女がそうするように、ローマンはスカートの裾を広げて挨拶した。

「ローマン殿は私を怖がらないのだな」

「姉がこの通り、無傷でしょう。それに、姉を攫った時の状況を察するに姉とは何か因縁めいたものがありそうだ」


エランシスとローマンはお互い見合って笑った。

ローマンは頭を垂れる。

「父と隣国の王子による突然の武力行使、大変申し訳ありませんでした。父に代わりお詫び申し上げます」

「君が謝ることか?」

「…あれでも一応父ですから」

ローマンは目線だけを上げてニッと笑った。

「魔物殿も、男の私が女のドレスを着ているのは不思議に思うでしょう。我が国の長患いは、このように一国の王子すら自らをも欺かなければ生きられません」

「…私が知っている二百年前のそなたの国は豊かだったがな」

「ほう、教えていただけませんか。貴方が見た、この国の過去の姿を」





✳︎ ✳︎ ✳︎





私はいつから存在していたのか覚えていない。

千年も前からいた気もするし、瞬きの、瞼を開いたこの瞬間に生を受けたのかもしれなかった。


風が心地よく、金色の稲穂が揺れるのを、ただ見ていた。

それがあんまり眩しいから、もっと美しくあるべきだと思った。


それから、人々は生まれてどんどん増えた。

人々は忙しなく働く。

その労働の姿を見ると人間に興味が湧いてくる。


私はほんの少しだけこの地の手助けをした。

そこに人間がきちんと手入れをすれば、豊かな実りをもたらす。

あまりにも完璧だった。


ある時、気の向くままに歩いてみることにした。

私の姿は異形だ。

人に見られればどんなに騒ぎになることだろう。

だから、ひっそりと、誰にも知られぬように月の下を歩いたのだ。



『美しい角を持っているのね。こんな月夜には、魔物も歩いてくるのだわ』

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