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貧乏貴族令嬢は推しの恋を応援する  作者: MIRICO
今度は推しをお守りします!
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レアグッズ

(呪い関係でなければ、私は本当に役立たずだわ……)


 帰り際にもヴィヴィアンお師匠様からご教授をいただき、私はがっくりと肩を落とす。


「暗黒期なんて気にしていなかったけれど、暗黒の力について深く勉強すれば気にすべき時期なのだと分かるわ」

 お借りしている本を読みまくらなければならない。家にある本も読み直すべきだろうか。


 我が家は元々書庫に古い本が多い。呪いや暗黒についての本も置いてある。

 母と弟が死に、父親が双子の片割れの弟エミールのために奔走していた頃、私は一人放置された。その頃に引きこもって書庫の本を漁るように読んでいたため、呪いに関して特に知識が豊富になった。


 しかし、暗黒の力に関してはそれほどではない。


(暗黒の力を持つ者が少ないから、本も少ないのよね)


 とはいえ、精霊が暗黒の気に弱いことは知っていたのに、リュシアン様に辿り着かなかった。

 リュシアン様は精霊の血が入っているのだから、影響されて当然ではないか。


「私の頭がおバカすぎるのだわ……」

「お帰りなさいませ、レティシア様」


 馬車を降りるとすぐに扉が開き、メイドのケリーが私を迎えてくれる。

 いつも弟のエミールを見てくれているメイドだが、住み込みで働いているメイドは彼女だけなので、外から帰ってくる私を迎えてくれるのはいつも彼女だった。大切な家族の一員である。


「どうかされたんですか?」

「推しの弱点を知ってショックを受けているのよ。もっと勉強しなければ!」

「楽しそうで何よりですね」


 ショックを受けていると言っているのに、ケリーはにっこり笑顔でスルーして、私の荷物を持ちながら、それより、と会話を変えてくる。

 さすが長年我が家で働くベテランメイド。スルースキルがしっかりしている。


「エミール様の体調ですが」

「エミールに何かあったの!?」


 弟のエミールは体が弱く、いつもベッドで眠ってばかりだった。最近になってリュシアン様のご紹介で良いお医者様に診てもらうことができ、少しずつベッドから出られるようになっていた。

 しかし、また体調を悪くしたのだろうか。そう問うと、ケリーは少しだけ顔色を悪くした。


「実は、ここのところあまり体調が良くないようで。お医者様がもう一度検査をした方が良いと。お手紙がこちらに」

「検査だなんて、この前行ってもらったばかりなのに……」


 私は手紙を手にし、すぐにエミールの部屋に行く。もう眠っているか返事はなく、こっそりと部屋に入り込む。

 ランプの仄かな明るさのせいか顔色が少し青く、浅黒いように見えた。眉根を寄せており、寝息が浅い。


 そっと触れた先、ぱちっ。と小さい音と共に、指先に熱を感じた。静電気のようなものが私の指を弾いたのだ。


「私の指、乾燥しているのかしら?」

 今の衝撃でエミールが起きなかったか。ランプをかざすと、薄く青黒かった顔色は戻り、白に近い橙の色が見られた。


「これは……。お父様がまた呪いのグッズでも買ってきたのかしら……」


 体の弱いエミールのために怪しげなグッズを購入してばかりだったが、心の病を治すために父親もお医者様にかかり、それから呪いが掛かっていそうな物は購入していないはずだ。


(でも、今の感じは、呪いの類ではないと思うけれど……)


 エミールは先ほどと違い、すやすやと寝息を立てて気持ち良さそうに眠っている。

 私は少しだけ安堵して、柔らかな金髪をなでてやり、毛布から出ている肩に毛布を掛けてやる。


 同じ年の子に比べて体が細く小さいエミールは、今年十歳になる。普通ならアカデミーに行く年なのに、外出することもできない。

 前に比べてご飯を多く食べられるようになっていたが、それでも同年代の子供たちに比べれば少量だろう。


 私は小さく息を吐いて、お医者様からの手紙を開く。

 手紙に書かれていたのは、最近のエミールの状況だ。体調が崩れやすくなっていること、病が悪化しているわけではないのに体力の戻りが遅いこと。


 その原因が、暗黒期に関わる力が働いているせいでは。という内容だった。


「魔術師に一度診てもらった方がいい……?」


 暗黒期は子供や小さな動物が影響を受けやすいと言われている。エミールは病気で普通の子供より体力が少ない。

 今まで暗黒期など気にしていなかったが、ヴィヴィアンお師匠様の話を思い出して、私は手紙をぎゅっと握る。


「お師匠様に、診てもらえるかしら……」


 エミール。私の天使。働きに行けば推しに会えるが、家に戻れば天使がいる。

 私はこの天使のためにも、魔術師になるべく学ぶ必要があった。






「やあ、これはレティシアさん。お久し振りです。最近会えないから心配していました」

 呪いのグッズを売りに行っていたお店に久し振りに行くと、そこの店主に安堵した顔をされた。


 癖のある黒髪と黒目。少しだけ長い前髪をしており、あまり明るくないこのお店の中で前が見えるのか気になる。

 暗い中でいつも見ているせいか、何歳かはよく分からない。しかし、店の中にある雑多な物の価値をよく知っており、物知りなところから、二十台半ばくらいの年齢の貴族ではないかと推測している。


「……いや、会えない方が良かったですかね。呪いのグッズが手に入っていないということでしょうから」

「あはは。確かに呪いのグッズは売りに来ていないですね」


 店主の冗談に笑いつつ、私は本当に久し振りに訪れるお店を軽く見回した。

 前に預けていた呪いのグッズは、呪いを悪用する者を見付けるために店頭で保管してもらっていた。もう必要なくなったので売ってもらうことにしたのだが、さすがに呪いのグッズを買う者はおらず、置物と化している。

 呪いが発動しないように特別な箱に入っており、そこそこ不気味さがカバーされているだろうか。禍々しい気は感じない。


「今日はどうされたんですか?」

「珍しい魔法の本があったと思って、見に来たんです」

「レティシアさんは魔術師になるために勉強を始めたんですよね。その辺りに置いてありますよ」


 店主に指差されて私はそちらへ移動する。この店は高価な宝石からペンなどの小物、絵画や置物などガラクタのように雑多な物が売られている。そのため、店内を歩くにも袖などが引っ掛からないように気を付けなければならない。

 そしてそれらは大抵曰く付きのものなので、間違って壊しでもしたら何が起きるか分からないのだ。


 小物が置かれた棚の側に本棚が見える。そこには大小様々な本が置かれていた。いかにも怪しい、鎖がついた本まである。どんな本か読みたいが、呪いが掛かっていそうなのでやめておこう。

 私は触れる本を何冊か手にし、ぱらぱらと中身を見て、今自分に必要な情報が書かれている本を片手にした。


「聖騎士団はどうですか? 危険なところに行ったりは?」

「呪いがありそうな場所に行くのはほとんどないです。大抵物の呪いを祓ったりするだけで。今のところ危険はないですね」

「けれど、これから危険も増えるでしょう。気を付けてくださいね。聖騎士団は特別な騎士団なだけあって、危険なことも多いでしょうし」

「そうですよね。今私はのんびりやらせていただいてますけれど」


 本来の聖騎士団は魔法を使う犯罪者と対峙したり、凶暴な魔法を使う魔獣を倒しに行ったりする。城の中だけでなく遠くの森にも訪れるので、旅に出ることもあった。


「私も武器など持っていた方がいいのかしら……」

「レティシアさんに武器ですか? そうですね……、ちょっと待ってください」

 店主はそう言ってごそごそと何かを探してくると、小箱に入っていたバングルを出してきた。


「これはですね。こうやって着けて、こう……」

 店主は自分の腕にそれを着けると、部屋の奥に飾ってある的に向かって狙いをつけた。瞬間、ばちばち、と雷のような青銀の光が的に向けてほとばしった。光が当たった的は焼けることもなくその光を帯びて、しばらくするとその光は消えてしまった。


「うわあ。何ですか、それ」

「特別な魔法陣が描かれたバングルで、矢のように光を飛ばすことができるんです。その光が当たったものは、雷に打たれたように痺れてしまうんですよ。魔力の量によっては、気を失わせることもできます」


 腕から外したバングルを見せてもらうが、一見ただのバングルだ。細い銀色の金属のバングルで中心に向かって少しだけ広くなっており、その広くなっている部分に魔法陣のような模様が刻まれている。

 店主は私の腕を出すように言うと着けてくれて、的に向かってバングルを合わせるようにさせた。


「レティシアさんなら見えると思います。バングルの上に光が見えませんか?」

「……見えます。青色の光が、ばちばちと」


 店主が着けていた時には見えなかったが、自分が着けると青白い光がバングルの中心に集まるようにばちばちと光るのが見えた。


「それを的の方に向けて放出するように念じてください。レティシアさんなら少し光が届くように念じるだけで大丈夫でしょう。光を放出するようなイメージです」


 私は言われた通り、光が的へ届くようなイメージを頭の中に浮かべた。途端、バングルから光がほとばしり、一気に的に向かい中心に直撃した。


「わあっ」

 その光はしばらく的にとどまって、先ほど店主が行ったより長く光っていると、ふっと消えた。


「いいでしょう。手加減すれば相手を止めることができます。魔獣などであれば思いっきり放出するイメージで倒せると思いますよ。レティシアさんは能力がありますからね。魔法を使わなくても簡単に行える、レアグッズです」

「お、お高いのではないでしょうか……」


 こちらは貧乏貴族。メイドとして働いた時のお給金を少しずつ貯めてはいたが、そこまでではない。これはどう見てもお高いレアグッズである。

 本も買わなければならないし、予算内では絶対に収まらない。


「このバングルは使えなければただの地味な装飾品ですからね、そこまで高くないんです。なにせ売れないんで……」

「でも、レアグッズなんじゃないんですか?」

「レアグッズでも、高価な宝石が付いているわけではないので、貴族の方は好まないですし、かといって普通の人にこんな危険な物は売れません。それに、魔力のある人でないと扱えないですから、レティシアさんは丁度良いんですよ」


 店主は顔を綻ばせながら、値段を紙に書いてみせた。


「うぐ。本を買って、ぎり。いえ、ちょっと予算が……」

「あはは。そうですね。本を買いに来たのに装飾品を買えと言われるとは思わなかったでしょう。ですから、これはお貸しするということでどうですか? 長く使っていないので、そろそろ使ってやらないと、錆びてしまうかもしれませんし」


 店主は私の家の貧乏ぶりを知っているので、私のことを気遣ってくれているのだ。錆びるわけがないだろうから、そんな風に提案してくれるが、壊してしまうかもしれないと思うと借りるにも担保が必要だ。しかし、私にはそんな物はない。


 聖騎士団は危険が伴うことが多い。私が魔獣と対峙することはないだろうが、聖騎士団を狙う不届き者もいる。リュシアン様を狙った愚か者もいた。

 自身を守る物は持っていた方が良いのは間違いないが。


「では、利子はなしで分割払いはいかがですか?」

「そ、それはありがたい。ですが、」

「そちらの本と合わせて、この金額はどうでしょう?」

「うぐぐ。くっ。か、買います! 申し訳ありません。ありがとうございます!!」

「お金はいつでも大丈夫ですよ。余裕のある時に払っていただければ。これはいわゆる、出世払いですからね」


 店主はぱちりとウインクしてくる。

 私は店主に足を向けて眠れない。毎回助けてもらっている礼をしなければならないと心に誓う。


(自分の身は自分で守らなければならないのだから、とても助かるわ。何かあって足手まといになるのは嫌だもの)


 店主からは魔力の使い方は練習した方が良いと注意を受け、私は頭を下げながら本とバングルを手に帰宅した。

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