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オレの嫁は、異世界育ち。  作者: 十草木 田
8/55

とりあえず保留

 アンナの秘密の部屋から帰ってきた俺とアンナは、工場の中に立っていた。


「お、うちの工場だ。」

「秘密の部屋から戻るときは、扉を開けた時に思い描いていた場所に出ます。」

「確かに考えてた。」

「ふふ、お兄様はこの場所がお好きなんですね。」

「まー、そうだな。じいちゃんとの思い出が一番あって…、それと、アンナと再会した場所だからな。」


 俺はポリポリと頬をかく。アンナも目を丸くした後、頬を赤くしてゆっくり顔をそらす。

 何とも言えない空気を切り替えるように「そ、そうですわ!」と言って、アンナがポンと手を叩き工場の奥を指さす。


「お、お兄様。ちょっとよろしいでしょうか?」

「あ、ああ、なんだ?」


 アンナは工場の奥へと歩いていき、俺もそれに続く。工場の一番奥まで行き、例の開かずの扉の前でアンナは立ち止まった。


「確かこの扉は、向こうからこちらに来れても、こちらから向こうに行くのができない状態なんだよな。」

「はい、今はそうなんですけど。お兄様、おじい様の鍵をお借りしてもよろしいですか?」

「ああ」


俺は腰にぶら下げている鍵束をアンナに渡す。

アンナは青白く光る鍵を持つと、扉の鍵穴に差し込みガチャリと回す。すると、扉に光る魔法陣が浮かび上がり、扉全体が光る。


「やっぱり、お兄様のおじい様の合鍵が、こちらから向こうに行くための鍵だったみたいですね。これで、この鍵と私の力があれば、いつでも向こうの世界に帰れますわ。」


 向こうに帰るという言葉に、俺の胸の奥がチクリと痛んだ。


「そうか、良かったな。まーでも、向こうに行くのかどうか、一旦置いておいて、ヘルミーナさんとマティルデさんのところへ戻ろう。すげー心配してるぞ。」

「そうですわね。」


 俺はアンナちゃんから、鍵束を受け取ると腰のベルト通しに戻す。アンナの手を握り手を引いて、工場の入口へと向かって歩いていく。


 自宅に戻るとヘルミーナさんとマティルデさんが、玄関まで飛び出してきた。アンナちゃんに続いて俺まで消えてしまったので、ものすごく心配してくれていたみたいだ。

 アンナの秘密の部屋で話したことは、じいちゃんが英雄様であることを臥せながら、かいつまんで説明した。あまり細かく話すと、俺も恥ずかしい。


 ヘルミーナさんとマティルデさんへの報告がひと段落したところで、アンナがじいちゃんにお礼を言いたいと言い出したので居間へと向かう。


 俺はまた仏壇のロウソクに火を灯す。アンナが仏壇の前に正座して線香を供える。ドレス姿の金髪美少女が仏壇に向かって手を合わせているのは違和感があるが、俺はアンナとじいちゃんの繋がりを感じて、ものすごく嬉しかった。

 俺は腰にぶら下げている鍵束を、ジャラリと握って、じいちゃんに報告する。

 じいちゃん、俺、もう大丈夫だよ。アンナがそばに居てくれるし、なにより俺はじいちゃんが育ててくれた跡継ぎなんだからと。


「お兄様、ありがとうございます。おじい様に色々ご報告ができましたわ。」


 何かを思い出していたのか、アンナは目に溜まった涙をハンカチで拭う。

 俺とアンナはスッと立ち上がって、ヘルミーナさんとマティルデさんが座る居間のテーブルの向かいに腰を下す。


「あの、お兄様。」


 横に座っているアンナが体をこちらに向け、改まった表情をしている。


「その、昨夜はおじいさまとの思い出の詰まった、大切なお家を壊してしまい申し訳ありませんでした。」


 アンナが俺に向かって深く頭を下げる。

 ヘルミーナさんとマティルデさんが、神妙な面持ちになる。

 頭をさげるアンナの方に俺も体を向ける。


「いや、俺の方こそ、今朝は色々とアンナを傷つけるような事を言ってしまって、ごめんな。」


 アンナに向かって深く頭を下げる。

 しばらくお互いに頭を下げた状態で止まっていたが、俺はチラリとアンナの様子を伺う。すると、アンナも同じタイミングで少し顔を上げて、俺の顔を伺っていた。パチリと目が合い、お互いにぷはっと吹き出してしまう。

 お互い体を起こして座りなおす。


「本当に一時はどうなるかと思いましたが、今のお二人のご様子を見て、胸をなでおろしました。」


 ヘルミーナさんが、頬に手を当てて、感慨深そうに笑みを浮かべる。


「色々と心配を掛けてしまいましたね。ヘルミーナ。」

「とんでもございません。お嬢様」

「マティルデも、ありがとう。」


 マティルデが、こくこくと頷く。

 ヘルミーナが、何かを思い出したような顔をして、一枚の紙を取り出す。


「あの、お嬢様。こちらは、どういたしましょうか?」


 ヘルミーナが俺とアンナの名前が書かれた婚姻届の用紙を、テーブルの上に広げて、スッと二人の間に差し出す。

 俺とアンナは顔を見合わせる。俺が、んーと考えていると、アンナがにやりと笑いながら、用紙を持ち上げ、ヒラヒラと振りながら俺を挑発する。


「こちらは、一旦保留にしたいと思います。わたくし、まだお兄様から約束のお言葉を頂けていませんので。」

「そうだな、覚悟して待ってろ!」


 さて、アンナにどんな言葉を送ろうか。

ようやく、異世界への道が見えてきました。


次回更新は、一週間後の予定です。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 全体的に読点の「、」が多すぎるので減らして欲しいと思いました。 [一言] これからどういう展開になっていくのか興味深いです。 嫁が1人だけのままでしたら 読み続けていきたいなと思いまし…
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