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オレの嫁は、異世界育ち。  作者: 十草木 田
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竜の気配

「ここ最近、西部山脈の国境警備部隊から、竜の目撃情報が続いています。先程、婚約式までと言いましたが、婚約式が終わったらアンナマリア、あなたの力が必要になるかもしれません。」

「…それは、竜害が起こる…ということでしょうか?」

「可能性は高いでしょう。」


 サナエ様の真剣な表情に、アンナに加えランベルトをはじめとした側近たちにも緊張が走った。竜害という聞きなれない言葉の意味が俺には分からず、置いてきぼりにされている感じなので、俺はサナエ様に向かて軽く手をあげる。


「すいません。…竜害とはなんですか?」

「そうですね。伊澄は知らなくて当然ですね。竜害とはその名の通り、竜による災害です。ビルゲンシュタットの西側の国境には、火竜と呼ばれる翼竜が多く生息する地域があります。ここ数年は、目撃情報も少なく被害は無かったのですが、今年は違うようです。」

「火竜は村を焼き人を襲いますからね。サナエ様は、討伐が必要になるとお考えなのですね。」


 ランベルトが、顎に手を当てながら火竜の危険性を指摘しつつ、サナエ様に対応を確認する。。


「そうなるでしょうね。目撃情報からすると大規模な群れによる竜害に備える必要があります。近衛騎士団も動かさねばならないと考えていますが、再編中の騎士団だけでは力不足は否めません。なので……。」


 少し申し訳なさそうな顔でサナエ様が、アンナを見る。


「わたくしの力が必要という事ですね。」

「申し訳ありませんね。アンナマリア、あなたにはもっと自由を与えてあげたいのですが、今の王政には余裕がありません。」

「サナエ様が謝らないでくださいませ!…国と民を守るのも王族の務めですから。」


 アンナがニコリと微笑むと、サナエ様はホッとした表情で息を吐いた。


「先程、婚約式まではと言いましたが、婚約式の後は竜害への対応で慌ただしくなると思っていてください。」

「承知いたしましたわ。サナエ様。」




 竜害については、準備を整えつつ続報を待つことになった。

 竜害に関して俺に協力できることは無さそうだと思っていたが、ヘルミーナとリーブコットと進めていた魔導荷車の研究が意外な展開を迎える。

 量産に向けた研究を行っていたリーブコットを地下工房から呼び出し、屋敷の庭でサナエ様に魔導荷車の走る姿を見せることとなった。

 屋敷の広い庭を、リーブコットが運転する魔導荷車が自由に走る様を見たサナエ様は目を丸くした。


「エグモントから報告を受けたときは驚きましたが、まさか車をこちらの世界で再現してしまうとは…さすが椋善の孫と言いますか、伊澄の才能には驚かされますね。」

「私一人で作った訳ではありませんよ。ヘルミーナとリーブコットが居なければ完成していませんよ。」

「何を言っているのですか!イズミ様がいなければ、完成どころか原理すら理解できていませわ。イズミ様はもっとご自分の才覚を自覚してくださいませ。」

「その通りですよー!イズミ様のプラズマの剣がなければ、部品を作る事すらできないのですよー!」


 完成にはヘルミーナとリーブコットの協力が必要だったことを伝えたかっただけなのだが、何故か二人に軽く怒られてしまった。

 リーブコットが魔導荷車を止めるとサナエ様は、魔導荷車の周りを一回りしながらランベルトと相談をはじめた。


「ランベルト、これがあれば討伐隊の展開が、今までの数倍の速さで行えるのではありませんか?」

「そうですね。それに住民の避難にも使えますから、被害の減少にもなるのではないでしょうか。」

「これをあと数台用意することはできませんかね?…全部で五台もあれば十分なのですが…。」

「ヘルミーナ、どう思いますか?」


 ランベルトが走行後の点検を行っていたヘルミーナに尋ねると、点検する手を止めたヘルミーナが申し訳なさそうな顔で答える。


「量産方法につては現在研究中ですが…現状ですとプラズマの剣が使えるイズミ様とアンナマリア様にご協力いただいて、一週間に一台用意できるかどうか…。」

「…そうですか、婚約式までに用意できればと思ったのですが、難しそうですね。」


 俺とアンナの婚約式の予定は、二週間後を予定していた。俺とアンナは婚約式の準備もしなければならないので、試作した一台を加えても竜害対策用に魔導荷車を必要数用意するのは難しそうだ。サナエ様も諦めかけていたところで、魔導荷車の運転席に座っていたリーブコットが声をあげた。


「なーんとかなるかもしれませんよぉー。」

「どういうことですか?リーブコット。」

「こーいうことですよぉー。…クフェイン。」


 運転席から降りたリーブコットが無造作に智慧の書を展開してページを捲ると、ヘルミーナが目を丸くする。


「リーブコット、まさか…できたのですか?」

「えっへへーん。まあ、見ていてくださいよぉー。…ローギック、インスタラシオン。」


 リーブコットが、人差し指と中指を開いて胸の前に構えると、そこに魔法陣を出現させる。


「アンラオフ!」


 リーブコットの指の間に、ナイフほどの大きさのプラズマの剣が出現する。


「これはっ!この短期間で魔法理論化に成功したのですか!」

「どうですぅー。すごーいでしょー。寝る間を惜しんで構築したのですよぉー!」


 驚きの声を上げるヘルミーナ、サナエ様やアンナが唖然としている中、ニコニコと笑うランベルトが冷静に分析する。


「新しい魔法を理論化して術式と魔法陣として構築するには、数か月どころか数年掛かるというのに、リーブコットの研究意欲は常識外れですね。」

「流石は、リョウゼン様の工房を預かっている研究者ですわね。…これなら姫様の婚約式までにサナエ様の希望された台数を用意することも可能かもしれません。」


 困った顔をしたサナエ様が、頬に手を当てて首を傾げる。


「量産が可能になるのは嬉しいのですが…伊澄の技が簡単に広がってしまうのは避けたいところですね。」

「サナエ様の言う通りですね。出力は押さえてあるようですが、現段階でこの魔法術式を広めてしまうのは得策とは言えませんね。良からぬことを考える者も増えそうですから。」


 サナエ様の懸念にランベルトが同意する。


「リーブコット。」

「はっ!はいぃ。な、なんでしょうか、サナエ様。」

「この魔法術式を教えるのは、エーレンベルク家に属するものだけにして、量産を進めてください。伊澄とヘルミーナも協力してもらえると助かります。」

「きょ、協力したいとは思いますが、その…。」


 俺とヘルミーナは顔を見合わせた後、アンナの顔を覗き見る。プラズマの剣が使える者が増えるとはいえ、魔導荷車を婚約式までに量産しようとするれば、またアンナとの時間が削られて機嫌を悪くしてしまうかもしれない。アンナがキョトンとした顔で首を傾げる。


「その、アンナは私との時間が減ってもかまいませんか?」


 状況を理解したアンナが顔を赤くして頬を膨らませる。


「な、何を言っているのですかお兄様は!わ、わたくしだって竜害の危機が迫っている中でお兄様を独占しようとは思っておりませんわ!」

「そ、そうか、それならまたしばらく工房に籠ることになるので、アンナはしばらく王城で…。」


 アンナが俺の言葉を遮る。


「いいえ!わたくしもお兄様のお手伝いをさせて頂きますわ。」

波乱の予感がしています。

アンナちゃんの活躍もありそうですね。

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