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オレの嫁は、異世界育ち。  作者: 十草木 田
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甘やかして欲しい

 魔導荷車の試作車が完成した。屋敷の庭で行った試験走行の結果も上々だ。

 軽トラを参考に作っているが形としては馬や牛が引かない馬車に近い作りの魔導荷車は、むき出しの御者台の下に魔導エンジンを設置してあり前輪駆動式になっている。

 運転操作については、前輪に繋がるハンドルで方向を操作し、ハンドルに付いている魔石に、火の魔力を流すことで出力を制御できる。制動については足元のペダルを踏むとワイヤーでつながった前後輪のブレーキが掛かるようになっている。

 御者台の後ろは荷台になっており、人や者を沢山詰めるような作りになっている。足回りについては既存の馬車をベースにしているので少し心許ないが、車輪幅を太くし耐久性を上げ、板ばね式のサスペンションで車体を支える構造にしているので、今までの馬車に比べると速度も出て安定感も増している。

 現段階の出来栄えでも、ヘルミーナ曰く、「この魔導荷車が量産できれば、王国内の物流が劇的に変わると思いますわ!」との評価だ。

 ただ、量産性という点では、細かな金属加工にプラズマの剣が必須なのが障害になっている。その問題を解決しようと、ヘルミーナとリーブコットと一緒に議論をはじめたところで…アンナの不満が爆発した。


「ひどいですっ!ひどいですっ!お兄様は、わたくしと魔導具研究、どちらが大事なのですか?少しは、わたくしとの時間を作ってくれても良いではないですかっ!お兄様のバカーッ!」


 怒ったアンナは、そう言って秘密の部屋に籠ってしまった。魔導荷車の研究に着手してから一週間以上、毎日アンナは俺に会いに来てくれていたのに、研究に夢中になって蔑ろにしてしまっていたのでかなり我慢をさせてしまっていたようだ、気付けなくて情けない。

 それどころか、都合良く手伝いまでさせてしまい、俺はかなり身勝手な事をしてしまっている。ヘルミーナと大反省会中だ。


「申し訳ありません。イズミ様。わたくしも研究に夢中になってしまい、姫様のへの気遣いが出来ておりませんでした。」

「ヘルミーナのせいではないですよ、私が少しでもアンナとの時間を作っていれば良かったのですから…何も言わないアンナに完全に甘えてしまっていました。」


 ヘルミーナと顔を見合わせて溜め息をつくと、リーブコットが申し訳なさそうに手を上げる。


「あ、あのぉー。量産に向けた問題解決についてはー、どうしますかぁ?」

「しばらくは保留ですかね。アンナの事もそうですが、他の事もエグモントに任せきりでしたから…。」

「そうですかぁー。残念ですぅー。」


 リーブコットが本当に残念そうに肩を落とした。

 俺は少し魔導荷車の研究から距離を置く必要がありそうだが、研究自体を止める必要はないので、肩を落としたリーブコットに語りかける。


「私は研究に参加出来ませんが、リーブコットとヘルミーナで問題解決の検討を進めてもらって大丈夫ですよ。」

「イズミ様。わたくしも、しばらくは側仕えの仕事を優先させて頂きますわ。」

「私は助かりますが、いいのですか?」

「はい。この一週間楽しく魔導研究をさせて頂きましたので十分でございます。それに、リーブコットは優秀な研究者ですから、一人でも進めてくれますよ。」


 肩を落としていたリーブコットが胸を張る。


「もちろんですぅ!一人でも研究は進めておきますよぉ!」

「ああでも、時々は工房を散らかしていないか、確認には来ますからね。」


 調子に乗りそうなリーブコットにヘルミーナが釘をさすと、リーブコットが再び肩を落とした。


「では、私はアンナを迎えに行ってきますね。」

「よろしくお願いします。イズミ様。」


 俺は、腰にぶら下げている鍵束から秘密の部屋の鍵を取り出すと、魔力を込めてアンナのもとへと向かった。




 アンナの秘密の部屋の扉を開けると、アンナは半べそでクマのぬいぐるみを抱えてベッドに座っていた。


「ぐずっ…来るのが遅いです!お兄様!」

「ご、ごめん…。」


 どんな顔をしたらよいかわからず、俺は頭を掻きながらアンナの隣に腰掛けたが、アンナは口を尖らせてプイっとそっぽを向く。完全に拗ねていらっしゃいます。


「その、研究に夢中になり過ぎてごめん。」

「お兄様は、大事な研究を好きなだけされればいいですよ!わたくしが勝手に怒っているだけですからっ!」


 アンナはそっぽを向いたまま、全然目を合わせてくれない。恋愛経験がほぼない俺はどうしたらいいかわからない。小さい頃のアンナだったら頭を撫でて宥めてあげればすぐに機嫌を治してくれていたのだが、そういう訳にはいかないだろう。


「俺のやりたいことにアンナが付き合ってくれたからさ、今度はアンナのやりたいことを一緒にしたいんだけど…。」

「…ぐすっ…わたくしの、やりたいことですか?」

「そう。アンナが今やりたいことを教えて欲しいな。」


 そっぽを向いていたアンナが、チラリと俺を伺いみる。


「…ぐすっ…一緒にご飯食べたいし、その後はお茶しながらゆっくりお話したいし、…たまには街に出掛けて買物とかしたいし…手とかつないで歩きたいし、…い、一緒に寝るのはまだ…は、恥ずかしいけど…とにかく、少しでもお兄様と一緒に居たいんですっ!…ぐずっ、今だって…本当は、頭もなでなでして慰めて欲しいんですからねっ!」


 アンナは、クマのぬいぐるみをぎゅっと握りしめて、俺に思いをぶつけてくれた。頭を撫でて欲しいとは、アンナの甘えん坊なところは変わっていないようだ。


「色々と我慢させててごめんな。…じゃー、まずは今できることから…。」


 アンナの頭にそっと手をのせて、ゆっくりと撫でるとアンナがへにゃっと笑う。


「…お兄様は、もっとわたくしを甘やかしていいと思いますわ。10年分貯まっているのですからね!」


 ぽてっとアンナが俺に寄りかかる。寄りかかられた肩からアンナの温もりが伝わってくる。


「そうだな。」

「ひゃっ…お、お兄様…。」


 俺に持たれかかっていたアンナの頭をギュっと抱きしめると、アンナが小さく悲鳴を上げ顔を赤らめた。


「10年分をしっかり甘やかさないとな。」

魔導荷車の試作車が完成しましたが、

アンナちゃんが拗ねてしまったようです。


伊澄くんは、ご機嫌取りを頑張らないといけませんね。

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