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オレの嫁は、異世界育ち。  作者: 十草木 田
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アンナの不満(アンナの視点)

 わたくしは不満なのです。ようやくお兄様との婚約をお父様が認めてくれたのに、一緒に暮らせないなんて納得いきません。毎日通っているのですから、エーレンベルクの屋敷にわたくしが泊まれるように、部屋を用意して頂いた方が手間がなく良いと思うのですが、お兄様とサナエ様は許してくれません。少し頭が固いと思いますわ。


「姫様。馬車の準備が整いました。」

「ありがとう、マティルデ。行きましょう。」


 お兄様のところへ行くために、馬車の準備をしてくれていたマティルデが戻ってきました。マティルデと一緒に馬車へと向かいますが、いつも傍に居てくれたヘルミーナはもういません。お兄様が側近に取り立てて下さったので、今も会うことができますが、オーベルト家の者達に虐げられていたヘルミーナが、オーベルト家の罪を背負わなければ行けないのも、わたくしは不満です。仕方ない事とはいえ、納得いくものではありません。ヘルミーナが可哀そうです。





「ようこそいらっしゃいました、姫様。…と言いたいところですが、毎日イズミ様に会いに来られて、公務に支障はないですよね?」

「だ、大丈夫ですわよ。ヘルミーナが心配するようなことはありませんわ。」

「それならば良いのですが…。」


 お兄様の屋敷につくと、出迎えてくれたヘルミーナにいきなり釘を刺されました。サナエ様が公務に復帰されて、私の負担を少なくしてくれていることは内緒にしておきましょう。


「お兄様は、今日も魔導工房に籠っておられるのですか?」

「はい。リーブコットと一緒に魔導荷車の試作を進められております。わたくしも姫様をご案内してから参加させて頂きます。」


 お兄様はエーレーンベルクの屋敷に移られた翌日から、魔導工房に毎日籠っています。ヘルミーナの希望で、わたくしが収納魔法でお兄様の家から持ってきた軽トラを参考に、魔導で動く荷車をリーブコットとヘルミーナと共に試作されていて、ちっともわたくしを構ってくれないのです。わたくしも時々お手伝いはさせて頂いていますが、たまには一緒に出掛けたりしたいと思うのは、わたくしの我儘でしょうか?


 地下の魔導工房に入ると、お兄様が軽トラの動く仕組みについてリーブコットと確認していました。わたくしに直ぐには気付いてくれないので、話に割って入って声を掛けます。


「お兄様、ごきげんよう。」

「あぁっ…アンナか。ごきげんよう。…お姫様が毎日来て大丈夫なのか?忙しいんじゃないのか?」

「もうっ!お兄様もヘルミーナと同じようなことを言わないでくださいませ!大丈夫ですから!」


 お兄様は「ならいいんだけど。」と言ってすぐにリーブコットとの話に戻ってしまいます。わたくしは、むっと頬を膨らませて不満をアピールしますが、物づくりに集中したお兄様には暖簾に腕押しです。

 ヘルミーナがテーブルにお茶を用意してくれたので、そちらにマティルデと腰を下ろしてお茶を頂き、気分を落ち着かせます。お茶を淹れてくれたヘルミーナが、傍に控えてくれていますが、ソワソワとお兄様とリーブコットをチラリチラリと見ています。分かっていますわ、ヘルミーナも会話に参加したいのですよね。思わず、ふーっと溜め息を付いてしまいます。


「ヘルミーナ、あなたもお兄様の所に行って頂いて良いですわよ。わたくしはマティルデとしばらくお茶を頂いておりますので…。」

「ありがとうございます!…何か御用の際はお声がけくださいませ。」


 ヘルミーナは嬉しそうな顔をして、そそくさとお兄様とリーブコットの会話に参加してしまいました。そんな嬉しそうな顔をされたら、わたくしが不満を抱いていることが、なんだか浅ましく思え、マティルデに聞いてしまいます。


「あの、マティルデ。わたしくしはここに居て良いのでしょうか?」

「姫様は、ここに居たいから来ているのではないですか?」

「それはそうなのですが、お兄様ともっとお話したいといいますか、その…マティルデも退屈ではありませんか?」

「私の仕事は姫様を護衛することです。退屈という事はありませんよ。姫様は退屈なのですか?」

「退屈と言えば、退屈なのですが…。」

「では、王城に戻りますか?」


 うー、わたくしがマティルデに聞いてしまったのが間違いだったのでしょうか?少しは私に似た暇を持て余す気持ちを持っているかと思ったのですが、どうやら違うようです。魔導具研究にそこまで興味のないわたくしは、退屈ですが王城に戻りたいわけではないのです。お兄様に構って欲しいだけなのです。

 

「王城に戻りたいわけではないのです。ただ、もう少しお兄様とお話をしたりしたいのですよ。」

「お話すれば良いのではないですか?」


 マティルデの当たり前すぎる提案に私は首を横に振ります。


「わたくしは、そこまで魔導具の研究には興味はありませんから…。お兄様たちのお話に加わることは出来ません。せめて何かお手伝いできることでもあればいいのですが…。」

「なるほど、わかりました。」


 なにが分かったのか不明だがマティルデは、合点がいったという顔で立ち上がるとスタスタとお兄様のところへ行って何やら話をした後、お兄様を連れてきた。


「えーっと。アンナも何か手伝いがしたいってことで良いのかな?」

「姫様が魔導具には興味がないけど、退屈なのでお手伝いをしたいという話をイズミ様にさせて頂きました。」


 マティルデは仕事をしてきました、という満足そうな笑みを浮かべている。ちょっと!マティルデ、なんて余計なことを言っているのですか!ものすごくお兄様に気を使わせているではないですか!わたくしは羞恥で顔が熱くなるのを感じて、両頬に手を当てて俯きます。


「あの、これからプラズマの剣で金属加工をするんだけどアンナも手伝ってくれないかな?ほら、俺以外で使えるのはアンナだけだし…。」


 マティルデの馬鹿!こんなことをお兄様に言われたら断れないじゃないですか。


「はい。…お手伝いさせてくださいませ。」




「姫様。次はこの線に沿って切断をお願い致します。」

「わ、わかりました。」


 わたくしはヘルミーナの指示にしたがって、お兄様に教えて頂いたプラズマの剣で金属の板や棒を切断して魔導荷車のパーツを作り上げていきます。今までこちらの世界では、金属を切断加工する事はとても難しい事だったので、とても革命的な魔法だとは思うのですが、ものすごく集中力と魔力を必要とします。プラズマの剣を立て続けに使っていると、わたくしは、あっという間に魔力が枯渇しかけてしまいました。


「わたくしの魔力量ではそろそろ限界ですね。」

「ありがとうアンナ、助かったよ。少し休んでて。」


 笑顔でお兄様はわたくしを労ってくださいましたが、余裕な顔で金属を加工を続けるお兄様は、本当にとんでもない魔力量を持っているのではないでしょうか。わたくしもそこそこ魔力量には自信があったのですが、自信をなくしてしまいそうです。


 わたくしが休憩しているうちに、金属の加工が完了し、魔導荷車の組み立てが始まりました。ビルゲンシュタットで使われている荷車は、ほとんどが木製で軸受けなど強度が必要な部分にだけ金属が使われていますが、今組み上げられている魔導荷車は、軸受けだけでなく車軸や車輪、それに荷台の強度を上げるために多量の金属が使われています。

 動力に馬や牛を使うのではなく、火の魔石を使った魔導エンジンを動力に使うため強度を上げる必要があるそうです。


「できましたね…。試作一号車。」

「やりましたよおおおっ、これは革命ですよおおおっ!」

「新しい魔導具…感激ですわ!」


 半日ほどかけて、魔導荷車の試作車が完成しました。お兄様は満足そうに笑っています。その笑顔でわたくしも嬉しくなります。これが完成すれば、お兄様に沢山構ってもらえますから、わたくし随分と我慢してきましたもの!


 しかし、わたくしの希望は打ち砕かれました。始動させた魔導荷車の魔導エンジンから、もくもくと煙が上がっています。お兄様はブツブツと原因を検討し、ヘルミーナは項垂れ、リーブコットは悔しがっています。


「失敗ですわね…。」

「魔導エンジンは、まだまだ改良が必要ですね。負荷がかかった時の熱量を押さえる方法を考えないと…。」

「残念ですぅー!でもまだまだこれからですよおおおっ!」

「そうですね。リーブコットの言う通りです。明日は水の魔石を使った魔導エンジンの冷却方法を検討しましょう。」

「それは名案ですわ!わたくしも明日までに機構を考えてみますわ!」


 三人とも完成させるまで、まだまだ研究を続けるつもりのようです。わたくしがお兄様に甘えられるのは一体何時になるのでしょうか…。


 わたくしは不満なのです。


アンナちゃんは色々と不満が溜まっているようです。

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