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オレの嫁は、異世界育ち。  作者: 十草木 田
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食後の実技

 皆がカレーに舌鼓を打ち、ヘルミーナとイルメラが淹れてくれた食後のお茶を楽しんでいると、リーブコットが俺におずおずとお願いをしてきた。


「イズミ様。その、お願いがあるのですが…。」

「な、なんですか?…内容によりますよ。」


 眼鏡の奥でキラッと目を光らせてすり寄ってくるリーブコットに、俺は何事かと警戒する。


「婚約者決定戦の最後でお使いになった、あの魔法を教えて頂けませんか!?あの魔法は絶対に魔導具研究に役立つと思うのですよ!」

「あー、あの剣の魔法ですか…。サナエ様、どう思います?」


 リーブコットが言っているのは、ルドルフとの戦いで使ったプラズマの剣だ。あの魔法についてはランベルトの助言で、サナエ様の許可を得たもの以外には、教えないことにしている。俺には教えていい人の判断が付かないからだ。

 サナエ様に視線を向けると、持っていたティーカップをソーサーに戻して目を伏せた。しばらく考えた後、サナエ様は頬に手を当てながら、口を開いた。


「まあ、エーレンベルク家に仕える者については、教えて問題ないでしょう。」

「やったああああ!ありがとうございます!サナエ様!イズミ様!」

「喜ぶのは早いですよリーブコット。そうでしょ、ランベルト。」


 サナエ様は、再びティーカップを持ち、お茶をコクリと飲んだ後、ランベルトに視線を送った。喜んでいたリーブコットも、ニコニコと笑うランベルトの不敵な雰囲気を察して静かになる。


「おそらく現状であの魔法を使える可能性があるのは、ビルゲンシュタットにほとんどいないでしょう。何せ魔力制御にそこそこ自信のあった私はおろか、サナエ様でも使えませんからね。」

「えっ!サナエ様も使えなかったんですか!?」

「残念ながら、わたくしには無理でした。」


 サナエ様も使えないというのは、俺も初耳で思わず声を上げてしまった。ランベルトが使えないのは、サナエ様の城で訓練している時に試して無理だったのを知っていたが、サナエ様もランベルトに使い方を聞いて試してみたそうだ。


「そんなぁ!やってみないとわからないじゃないですか!」


 なんとしても教えてほしいリーブコットが食い下がると、ランベルトがククっと笑った。


「そうですね、実際に試してもらった方が、この魔法の難しさが分かっていいかもしれませんね。ここでは手狭ですから、工房に場所を移しましょう。」




 ランベルトの提案で、プラズマの剣を試す為に食堂を出て、工房の開けた場所へと移動した。サナエ様の指示で教える人を絞り、サナエ様、アンナ、魔道具研究員としてリーブコットとヘルミーナ、護衛のランベルトとマティルデが、俺を取り囲むように並んでいる。


「それではイズミ様。お手本をと解説をお願いしてよろしいですか?」


 ランベルトの言葉で、皆の視線が俺に集中する。失敗したら恥ずかしいなと思いながら集中するため、俺は大きく息を吸って吐き出す。


「まずは、人差し指と中指を広げて、指の間に魔力弾を作るように水の魔力を込めて棒状に伸ばします。」


 俺の右手の指の間に、50センチほどの青く光る魔力棒が現れる。俺を囲む皆が俺の真似をして魔力の棒を作ろうとするが、この時点で魔力制御が苦手なマティルデが「私には難しいですね。」と脱落した。


「属性を付与した魔力を棒状に伸ばすだけでもかなりの難易度ですね…。やはりわたくしにはこの長さが限界ですね。」

「お兄様は簡単に作られていますが、相当な魔力制御能力が必要ですね。」


 サナエ様は魔力棒を30センチ伸ばしたところで止まっている。俺と同じ長さまで伸ばせたのはアンナとランベルトだけだった。

 

「さらに水の魔力を込めて魔力を圧縮していきます。三倍ほどに圧縮できれば大丈夫です。」

「さ、三倍ですか…わたくしには難しそうですね。」


 ヘルミーナは、魔力の圧縮を試みたがボロボロと魔力棒が崩れた。アンナはなんとか長さを維持して魔力棒の圧縮に成功したが、ランベルトとリーブコットは魔力棒の長さが短くなった。


「最後に圧縮した水の魔力棒の芯に光の魔力を流し込んでいきます。」


 水の魔力棒にゆっくりと光の魔力を流し込んでいくと、魔力棒から青い光を放ちプラズマが噴出する。プラズマの剣ができた俺の右手を見て皆が感嘆の声を上げる。


「くううううぅ…ダメだ!」

「以前と同じく、私もここまでですね。」

「わたくしも無理ですわね。」


 サナエ様、リーブコットとランベルトは光の魔力を込めようとしたが、魔力棒を維持できず水の魔力が霧散した。残るアンナも額に汗を浮かべて頑張っているが、なかなか難しいようだ。


「そもそも、魔法陣も呪文も無しに二つの属性を合わせて使うなんて、イズミ様の魔力制御は並外れているようですわね。」

「ヘルミーナの言う通りですよおおおっ!本当に一体どのように制御されているのか、謎過ぎますうううっ!」


 リーブコットとヘルミーナに俺の特異性を指摘されるが、魔力出力的にはギリギリなのだが、そんなに難しい魔力制御をしている感覚は俺には無いので、ピンとこない。


「で、できた…できましたわ!お兄様っ!」


 声をあげたアンナの右手には、長さは半分ほどだがプラズマの剣が青い光を放っていた。


「おおっ!さすがは姫様!」

「すごいです!姫様!」

「やりましたね、アンナマリア。しかし、これだけの者が試して成功できたのがアンナマリアだけとは、…この魔法を使える者はほぼいないという事でしょうね。」

「ええっ!そんなに難しいことをやってるつもりはないのですが…。」


 皆が唖然とした顔で俺を見る。サナエ様がコホンと咳払いをして説明してくれた。


「わたくしも、それなりの使い手の自負はありますが、アンナマリアはビルゲンシュタットで一二を争う魔法の使い手です。そのアンナしか再現できず、半分ほどの長さしか維持出来ないのですよ、難しいどころの話ではありませんよ。」

「そうですわよ、お兄様。この魔法はとんでもなく魔力制御が難しい上に、維持するために常に魔力を消費するので、相応の魔力量が無いとすぐに魔力が枯渇してしまいますわ。わたくしでも、この長さを維持するのが精一杯なのですよ。お兄様は、とんでもない魔法を使っていることを自覚してくださいませ。」


 アンナが少し短いプラズマの剣をブンブンと振り回しながら、俺を常識外れだと怒る。危ないからとりあえずプラズマの剣を一回消そうね。




 その後もリーブコットやヘルミーナが、何とかプラズマの剣を形にできないか俺に質問しながら色々と試していたが、結局形にできたのはアンナだけだった。

 地下の工房にいたせいで分からなかったが気が付けば、日が落ちる時間となっていた。


「いやです!わたくしもお兄様と一緒にいたいです!」

「聞き分けてくださいませ、姫様。」

「そのように見苦しく側近たちを困らせる者ではありませんよ。アンナマリア。」

「サナエ様~。」


 王城に戻る馬車に乗せられるのを嫌がるアンナは、頬を膨らませて今にも泣き出しそうな顔をしている。皆の説得に応じるつもりは無いといった感じだ。


「いつでも、来ていいから今日のところはいう事を聞いて帰りなさい。いい子だから。」

「子ども扱いしないでくださいませ。」


 アンナの頭を俺が撫でると、口を尖らせながらも「わかりました。」と、しぶしぶ馬車に乗り込む。俺は手を振って見送ると隣にいたヘルミーナが呟いた。


「あの様子なら、明日もいらっしゃいますね。」

伊澄の魔力制御は、すでにアンナちゃんを超えているようです。

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