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オレの嫁は、異世界育ち。  作者: 十草木 田
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引っ越し

 ヘルミーナとランベルトの結婚式翌日、引っ越しの為に馬車に揺られていた。引っ越しと言っても新婚した二人の為のものではなく、今まで王城に住んでいた俺がエーレンベルク家の屋敷に移るためのものだ。

 馬車には、エーレンベルク家の当主であるサナエ様とムスッと膨れっ面をしたアンナが同乗している。


「納得いきませんわ!どうしてお兄様が王城を出ていかなければならないのですか。」

「王家に連なる者であっても、伊澄はエーレンベルク家の人間です。まだ正式な婚約者となっていない現状を考えれば、同じ城でアンナマリアと共に暮らしているのは外聞が良くないと何度も言っているでしょう。」

「一か月後には婚約しているのですよ。構わないと思いますわ。」

「たった一か月ではないですか、我慢なさい。」

「一か月もお兄様と離れ離れになるなんて絶対に嫌です!お兄様もなんとか言ってください。」

「なんとかと言われてもなぁ…。」


 アンナの気持ちも分からなくもないが、こちらの常識では婚約前の男女が同じ屋根の下で暮らすのは外聞が悪いのは事実だ。日本では彼氏彼女が同棲なんてことは割と当たり前であるが、こちらの世界では通用しない。なので俺としてはサナエ様の意見に従うしかない。


「一か月我慢すればまた一緒に暮らせるんだから、聞き分けたほうがいいんじゃないか?」

「もうっ!なんでお兄様は、サナエ様の味方をするんですの!わたくしの味方をしてくださいませ!」


 アンナが隣に座る俺の左肩をペシペシと叩く。そこまだ、怪我が治りきってなくて地味に痛いんだよなと思いつつ顔に出さないように我慢する。


「お兄様も、サナエ様もひどいです。もっとわたくしに優しくしてくださいませ!」


 ぷいっとそっぽを向くアンナに、サナエ様が肩を落として呟く。


「アンナマリアの伊澄くん好きにも困ったものね…。」




 王城からそう遠くない貴族街の一角で馬車が止められる。王城とは比べ物にならないが、それでも十分に広い庭と大きな建物を持つエーレンベルク家の屋敷が馬車の窓に広がる。白い壁に囲まれた屋敷の門が開けられ馬車は広い庭を抜けて屋敷の正面入口に止まる。馬車から降りると、執事服を来た細身の壮年男性が出迎えてくれた。


「サナエ様、イズミ様、お帰りなさいませ。アンナマリア様もいらっしゃいませ。」

「久しぶりですねエグモント。また世話になります。」

「い、伊澄です。お世話になります。」


 はじめて会う人なので、少し緊張しながら挨拶するとエグモントが「存じ上げておりますよ。」と言ってニコリと笑ってくれた。

 それぞれの側近たちが馬車から降りたのを見計らって、エグモントが屋敷の中へと案内してくれた。

 来客用の部屋に通されると、屋敷の側仕えにヘルミーナとイルメラが混ざってお茶の準備をしてくれた。ソファーに腰掛けて俺とサナエ様とアンナは、三人でお茶を飲んで人心地つくと、サナエ様が部屋を見回しながら呟いた。


「ここに来ると昔を思い出しますね。」

「リョウゼン様やアンジェラ様がいらした頃と何一つ変えておりませんからね。」

「じい…祖父はここに居たことがあるんですか?」


 祖父の名に思わず反応して聞き返した俺に、サナエ様が答えてくれた。


「そうね。伊澄にはまだ話していなかったわね。この屋敷はね、エーレンベルク家の持ち物になる前はアハトフルース家、リョウゼンとアンジェラが暮らしていた屋敷なのよ。アンジェラが生きていたころは、こちらと日本を行き来しながらこの屋敷の地下工房で魔導具の研究をしていたのよ。」

「そうだったのですね。わたくしも知りませんでしたわ。」

「懐かしいですね。リョウゼン様もアンジェラ様も研究に没頭すると食事も取って頂けなかったので気が気ではなかったのですが、今となっては懐かしい思い出です。」

「ここで…じいちゃんが…。」


 俺は腰にぶら下げている鍵束をジャラッと触りながら、部屋の中をぐるりと眺める。綺麗に掃除されているが、家具や調度品に新しいものはなく、使い込まれて年季の入ってそうな物が多かった。


「部屋の案内をしようと思っていましたが…先に地下の工房を覗いてみますか?」

「はい。見たい…です。」




 エグモントに案内されて地下工房の入口までやってきたところで、エグモントが入口の扉を叩く。中から「はいはーい。」と間延びした声が聞こえ、扉が開かれ茶色いボサボサ頭に丸眼鏡を掛けた青年が顔を出した。


「どうしたんですかー?エグモント様…って、サナエ様に姫様!」

「リーブコット。皆様に中を案内して頂けますか?」

「えっと…あの今は、ちょっと…ま、不味いと言いますか……あははははっ。」

「まさか…」


 リーブコットがそっと閉めようとした扉を、エグモントが靴先をねじ込んで止める。


「ちょっ!エグモント様、ちょっ!何にしてるんですか!?」

「それはこちらの台詞です!抵抗せずに開けなさい!」

「い、いやです!絶対エグモント様、怒るでしょ!」

「怒らないから、あ、け、な、さ、い。」


 エグモントとリーブコットが扉を挟んで押し問答を続けていると、見兼ねたサナエ様が窘める。


「リーブコット、扉を開けてくれるかしら。エグモントには、怒らぬようにわたくしが命じますから、ね。」

「ぐぅ…。サナエ様…。」

「サナエ様!あ、ありがとうございます!」


 サナエ様の言葉に、エグモントは苦々しい表情を浮かべ、リーブコットは救いの女神を得たようにサナエ様を見る。


「どうぞ、どうぞご覧ください。」


 リーブコットが開け放った扉の向こうは、書類や本、魔導具が散乱し、広い工房を埋め尽くしていた。


「な!?なんですのこれはっ!」


 部屋の中を見て皆が呆然とする中、エグモントは怒らなかったが、ヘルミーナが激高した。

イズミくんは、エーレンベルク家の屋敷に引っ越しました。

アンナちゃんはご機嫌斜めな様子です。

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