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オレの嫁は、異世界育ち。  作者: 十草木 田
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アンナとイルメラ

「イズミ様。よろしいでしょうか?」


 読書に集中していた俺に、ヘルミーナが申し訳なさそうに声を掛けてきた。


「姫様からのご連絡がありまして、今からお会いしたいと申されているのですが、如何されますか?まだ、お加減がよろしくないと、一度お断りはさせて頂いたのですが、寝台に伏せたままでも構わないと申されておりまして…。」


 気分は良くなってきたが、まだ起き上がるのは厳しいので、どうしようかと思ったが、困った様子のヘルミーナが気の毒になり、ベッドに寝たままで良いならと了承した。アンナに会いたいと思っていたのが本音ではあるが…。




 しばらくすると、アンナが護衛と側仕えを連れて俺の部屋へとやってきた。連れてきた側仕えの中にヘルミーナがおらず、俺の側に控えているのが不思議な気分だ。ベッドの脇に小さなテーブルと椅子をヘルミーナとイルメラが用意してくれており、アンナは軽くお辞儀をして椅子に座る。


「お兄様。お加減は如何ですか?」

「まだ少し熱っぽいけど、だいぶ良くなったよ。こんな状態ですまないね。」


 俺は、本を読んでいた時と同じようにベッドにクッションを積み、背を持たれて座っている状態だ。


「とんでもございませんわ。わたくしの方こそ無理なお願いして申し訳ありません。」

「気にしなくて大丈夫だよ。」


 軽く挨拶を交わしたところで、イルメラがお茶を運んできてくれた。アンナが座るテーブルと、俺のベッドの枕元にお茶を置いてくれた。

 俺がお茶を一口、コクリと飲むと、続いてアンナも一口飲んだ。招待したものが先に飲むのが貴族の礼儀だ。おかしなものが入っていないと示す意味もある。


「それで、どうしたの?」


 アンナが脇に控えているヘルミーナに視線を向ける。


「昨日の話し合いでは、ヘルミーナを助けて頂きありがとうございました。わたくしにはどうする事も出来なかったので、こうしてまだヘルミーナに会うことができるのはお兄様のお陰ですわ。」


 目を潤ませてニコリと笑うアンナを見て、ヘルミーナを側仕えにして良かったと改めて思う。


「本当は昨日のうちにお礼を申し上げたかったのですが、お兄様がお倒れになってしまわれたので遅くなってしまいました。お兄様はご無理をし過ぎです。わたくしをどれだけ心配させるのですか。無理してお会い頂いているわたくしが、言うべき事ではありませんけどね。」


 アンナは眉間に皺を寄せて頬を膨らませる。

 お礼を言われていたはずなのに、いつのまにか俺は怒られていた。


「こちらに来てすぐに行方不明になられるし、婚約式の日に帰ってきたと思ったらルドルフと決闘して三日も寝込まれてしまうし、お目覚めになったと思ったら、また目の前で倒れられるし、わたくし何度心臓が止まる思いをしたか分かりません!」


 アンナは泣きそうな顔になりながら、俺をさらに責め立てる。随分心配をしてくれていたみたいだ。俺が婚約者になるための計画については、何も知らされていなかったのだから当然と言えば当然だ。ここは黙って責めを受けよう。


「その上、ランベルトからはお兄様とイルメラが駆け落ちしたと聞かされるし…。」


 むむっ?それについては誤解だ、ランベルトが悪いと思う。


「婚約式の前日に秘密の部屋に行ったら、名前が消された婚姻届が置いてあるし、わたくしお兄様に嫌われてしまったと思ったのですよ!お兄様はひどいです!」

「そ、そんなつもりじゃ!…ああ、ごめんなさい。」


 秘密の部屋に行ったというメッセージのつもりで置いていた婚姻届が、思わぬ誤解を生んでいたようだ。俺は必死で謝罪と説明をする。


「本当にそんなつもりじゃなかったんだよ。ただ、秘密の部屋に俺が行った事を分かってほしくて置いただけで…その、不安にさせてごめん。」


 アンナがギュッと目を瞑ると目に溜まっていた涙がこぼれた。俺は少し体を起して右腕を伸ばし、アンナの涙を指で拭う。


「ぐずっ…本当に本当に不安だったのですよ。…ルドルフと戦っているときは、何度もお兄様が死んでしまうと思ったのですよ。」

「うん。心配かけて悪かった。」


 アンナの涙を拭い、頬に添えていた俺の手をアンナが上から握りしめ微笑む。

 

「分かればよいのです。」

「うん。わかった。」


 しばらく甘い雰囲気が流れていたが、ヘルミーナがコホンと咳払いをする。俺とアンナは我に返ってササっと手を引っ込め目をそらす。


「あの…我々はお下がりした方がよろしいでしょうか?お二人とも正式なご婚約前に絆を深めたいご様子ですので。」


 ヘルミーナが頬に手を当てて楽しそうな表情を浮かべるので、アンナが耳まで真っ赤にしている。俺も必死で否定する。


「そ、そんなことしませんよ!」

「お、お兄様のいう通りです!そ、そんな破廉恥なことは、い、いたしません!」

「そうですか?残念ですわ。」

「婚約もまだなのですから、分別というものが・・・はっ!」


 何か思い出したように、アンナがイルミナを見て顔色を変える。


「イ、イルミナは、その…お兄様と…い、いたしたのですか?…その、と…伽を。」


 アンナが胸元で手を握り、不安そうにイルミナに尋ねる。

 ちょっと待てっ!アンナなんてことを聞いてるんだ!

 イルメラがアンナにニコリと微笑む。


「大丈夫ですよアンナマリア様。イズミ様は、紳士的でお優しい方でしたよ。」


 アンナは、目を見開いて顔を青くする。ちょっとイルメラさん!言い方!完全にアンナ誤解してるから!


「アンナ、ちょっと俺の話をー…。」


 誤解を解こうと喋りだした俺を、アンナが掌を突き出して止める。


「だ、大丈夫ですわ。…わ、わたくしも一国の王女です。…お、お兄様がお望みとあらば…愛妾の一人や二人…う、受け入れる覚悟は出来ております。」


 青い顔で目を泳がせてながら、アンナが必死に言葉を作った。

 いや!ほんとに誤解だから!イルメラとはそんな関係じゃ無いからね!


 笑いを必死にこらえる側近たちに見守られながら、俺は必死になってイルメラとは何もなかったとアンナに説明した。アンナは最後まで腑に落ちない顔をしていたが、一応納得してくれた。俺はまた熱が上がった気がした。




 帰り際にアンナが言った。


「お兄様。大事なことをお伝えし忘れておりました。」

「はぁー。まだ何かあるの?」


 俺は、疲れた様子を隠さず返事をする。


「そんな顔しないでくださいませ。本日お父様とサナエ様で話し合われて、オーベルト家への処分が完了する一月後を目途に、わたくしとお兄様の婚約式を行うことが決まりました。…これで、わたくしとお兄様は、正式に婚約者になれますわね。」


 アンナの報告に、傷によるものとは違う、別の熱でジンと胸が熱くなった。

アンナちゃんのイルメラに関する誤解が少し解けました。

ですが、まだ怪しまれているようです。

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