王家の家族会議 後編
ようやくアンナちゃんとの婚約が認められた伊澄くん。
ですが、また倒れてしまいました。
お茶を淹れ終わった側仕えたちが、部屋から出ていく。
イルメラが俺のお茶を淹れなおしてくれていたのだが、終始アンナがイルメラを睨んでいたので、イルメラはひきつった笑顔を浮かべていた。イルメラには申し訳ないがしばらく我慢してくれ、その内ちゃんとアンナには、説明して分かってもらうので…。
皆それぞれにお茶を飲み、お茶請けのお菓子を摘まんだところで、サナエ様が話を切り出した。
「王よ。話をもどしますが、オーベルト家を処罰した後の穴埋めは、わたくしが責任を持って行います。王の後ろ盾にもなりましょう。イズミも婚約者選定戦であれだけの力を示したのですから、アンナの婚約者に迎えてもよいのではないですか?」
「それは、そうなのだが……せめてもう少し王族がいてくれれば私も決断できるのだが、アンナマリアは現状唯一の王位継承者だからな…。」
国王様が、自分以外の四人を順番に見た後、目を瞑り溜め息を吐く。
国王バルディアスにとって一番の問題は、王族の人材不足なのだろう。政変により前王家の人々が殺され、新たに生まれた新しい王家の人間は俺を含めて五人だ。婚姻などで自家の派閥を作ることもなかなかできないのが今の王家だ。養子や幼女を迎えようとしても、そもそも王家の派閥がないのだ。それだけにアンナの存在が貴重で重要になっている。
サナエ様が神妙な顔になってゆっくりと語りだす。
「現状を招いてしまったのは、前王妃たるわたくしの責任です。日本で暮らしていくはずだったあなたたちに多くの負担を掛けていることも分かっています。」
「サナエ様、それはー…。」
何かを言おうとした王妃様を、サナエ様が軽く手を挙げて制す。
「わたくしは今までずっと後悔していました。あなたたちを呼び戻し、多くの民を失わせ、幼いアンナマリアを戦場に立たせてまで国を守る必要があったのかと…。しかし、今は違います。そこまで犠牲を払って勝ち取った平和と国を失うわけにいかぬと思う以上に、最大の功労であるアンナマリアをさらに犠牲にはできないと!娘のたった一つの願いすら叶えられず、何が王かと!」
国王バルディアスが、唇を噛みしめ握った拳でテーブルをゴンと叩く。
「私だって、私だってアンナの父親なのです!本当は娘の望みを叶えてやりたい!ですが、他におらぬのです!どうせよというのですか!」
これが、ほかならぬアンナの父親としての本音なのだろう。悔しそうにサナエ様を睨む父親の姿を見て、アンナが驚いた表情を浮かべている。父親の本音をはじめて聞いたのだろう。
父親の顔をした国王様に睨まれたサナエ様が、にっこりと微笑む。
「ふふっ、他のものならすぐに増えますよ。おらぬなら作れば良いのですよ。」
「はぁっ?」
サナエ様の発言に国王バルディアスが、唖然とした声をあげ、王妃様とアンナも意味が分からないといった顔をする。俺も同じ気持ちだ。
「アンナマリアとイズミは、これだけお互い好いているのですから、子供の一人や二人すぐに生まれますよ。」
「なななっ!ア、アンナマリアには早すぎます!私は許さんぞ!!」
「そ、そうですよ!サナエ様、何を言ってるんですか?アンナはまだ16ですよ!」
テーブルに手をつき立ち上がった国王様に、ものすごい形相で俺が睨まれる。俺も慌ててサナエ様に反論する。
「何を言ってるのですか二人とも。アンナマリアは成人しているのですから結婚して子を作っても問題ないでしょうが。王はもう少し子離れなさいませ。」
確かにビルゲンシュタットでは、15歳で成人として認められ、20歳になるころには女性は結婚して出産しているのが当たり前と聞いたが、日本で育った俺には十代での結婚出産は早すぎると感じてしまう。アンナも両手で頬を押さえ顔を真っ赤にしている。
「ふんっ!何を言われようが、アンナにはまだ早い!」
俺は、国王様に同意するようにコクコクと頷く。
「まったく、王族の男だというのに意気地のない。…アンナマリアはどう思いますか?」
「ふぇっ!」
自分に話題を振られると思っていなかったアンナが素っ頓狂な声をあげる。
「わ、わたくしは、…その、お、お兄様がお望みでしたら…こ、子供も欲しいですし…い、いつでも良いといいますか、…興味がなくはないと…いいますか…。」
「あらあら、アンナマリアは構わないようですよ。イズミ。」
サナエ様がニヤニヤした表情で、俺を見てくる。絶対面白がっている。
アンナは自分が言ってしまったことに驚き、口元を押さえ恥ずかしそうに俯く。国王様がその様子を見ながら泣きそうな顔になり、間に挟まれている王妃様は頬に手を当てて「あらあら。」と笑っている。
さすがに見かねたのか、サナエ様がコホンと咳払いをする。
「アンナに早いというのなら、王と王妃が頑張りなさい。あなたたちもまだ若いのですから。特に王はまだまだお元気なご様子ですからね。」
「ぐっ!」
「あらあら、サナエ様ったら。」
サナエ様の標的が自分に移り国王様が口ごもる。王妃様は、頬に手を当てて少し恥ずかしそうに笑っている。
「…ともかく、王族の義務というなら、子を成すことは一番の義務と言っても過言ではありません。あなたたちの頑張りで、状況は変えれるのですから頑張りなさい。アンナとイズミについては、まー急げとは言いませんが、何があっても良いように婚約だけはできるだけ早く場を設けて、王が宣言したほうが良いでしょう。」
「わ、わかりました。」
しぶしぶと言った感じではあったが、国王様も俺たちの婚約をようやく認めてくれたようだ。アンナは相変わらず頬を両手で押さえて赤くなったまま、何やらぶつぶつ言っている。俺は今日の話し合いで望んでいた事がすべて叶って安堵した。ふーっと気を抜くと急に左のわき腹が痛み出した。話し合いに興奮して痛みが飛んでいたようだ。
激痛に耐えられなくなった俺は、その場で目を回して椅子から崩れ落ちる。
次に気付いた時には自室のベットの上だった。




