王家の家族会議 中編
今後の王政をどうやって立て直すか方針が固まったところで俺は手を軽くあげる。
「なんですか?伊澄?」
国王バルディアス様ではなくサナエ様に問われる。俺はランベルトと昼食会前に話した懸念の一つを議題に上げる。
「オーベルト家には具体的にどのような処分が下されるのでしょうか?」
「当主ヴァルターと選定戦に乱入した者たちの処刑は免れません。親族も要職からは罷免し、必要なら蟄居させます。それから爵位の降爵も必須ですね。わたくしは奪爵しても良いと考えておりますが、…王はどのようにお考えなのですか?」
「それについては概ね同意するが、爵位については奪爵ではなく子爵への降爵で十分だろう。ただでさえ減っていた貴族を、これ以上減らすわけにもいかぬ。」
「まあ、それでよいでしょう。下手に奪爵して監視ができなくなるのも困りますからね。」
アンナも俺と同じくヘルミーナがどうなるのか心配していたのだろう、顔色を青くしている。
サナエ様が言った通りの処分が下されれば、アンナが姉のように慕っていたヘルミーナは、オーベルトの親族の一人として罷免され、場合によっては蟄居となりアンナとヘルミーナは会う事すら叶わなくなる。
これは今回の話し合いにおける俺の重要事項の一つだ。なんとかアンナの側に居られるようにしてあげたいと思っている。
「あの、今の話ですとアンナの側仕えをしているヘルミーナも処分の対象となり罷免されるということでしょうか?なんとか避けることはできないのですか?」
「ヘルミーナも罷免の対象だ。処分は免れぬ。」
俯き唇を噛むアンナに、皆が視線を向ける。アンナの思いを察してはくれているみたいだ。それならばー。
「罷免が避けられないならば、罷免した後で私の側仕えに採用しても構いませんか?」
「それは構わぬが…。」
「伊澄。傷持ちの貴族を抱え込むのはあまりお勧めしませんよ。」
「懸念はわかりますが、ヘルミーナは優秀です。私にはまだ側近と呼べる人が居ませんから優秀で信頼できる人を側におけるメリットは大きいです。」
「伊澄がそこまで言うのでしたら、まあ良いでしょう。ランベルトの婚約者という立場を使えば、他の貴族にも説明は付くでしょうから。」
よし!今まで通りとはいかないが、ある程度アンナとヘルミーナが関係を持ち続ける事ができるだろう。アンナも少し安堵したような顔を見せてくれた。
この流れのまま、俺はここでランベルトからのお願いも話しておく。
「それから私に付く他の側近についてですが、私が信頼している者としてランベルトとイルメラを採用したいと思います。」
「ランベルトは構わぬがイルメラは下級貴族。上級貴族となったそなたには相応しくないのではないか?」
国王バルディアスは自分の事を棚に上げて、下級貴族などやめておけと言っている。まだイルメラを囲っておきたいと思っているのだろうか?
「ですが、国王様もイルメラを側仕えにしておられましたよね?」
「むっ…それはっ…だな。」
ばつの悪そうな顔をした国王バルディアスが、一瞬王妃様を見た後、顔を背ける。
「王族に仕えていた者なのですから問題ないですよね?それにイルメラは、私とのあらぬ噂のせいで立場が悪くなり、身を置く場所が無いと聞きました。私は彼女を路頭に迷わせるのを望みません。責任の一端は自分にありますので、その義務を果たしたいと思います。」
「だが、イルメラは…。」
「王よ。イズミ様が責任を取ると言っておられるのですから、お任せすれば良いのでは?」
王妃様が国王様の言葉を遮りニコリと微笑む。王妃様、目だけ笑ってなくて怖いです。
「ぐっ…ま、まあよかろう。ランベルトもイルメラもそなたの側近にするが良い。」
王妃様に気圧された国王バルディアスが、言い捨てるように了承してくれた。アンナが頬を膨らませてジロリと俺を睨んでいる。イルメラに関しては、当然色々と思うところがあるのだろう。
だが、俺としてはイルメラは放って置くことは出来ないし、側仕えとして仕事をしてもらうだけなので、アンナには納得してもらうしかない。頭が痛い問題は残るが、側近に関する要望が通ったので俺はふーっと息を吐く。
王妃様の視線に耐えかねたのだろう、国王バルディアスが、側仕えを部屋の中に入れお茶を淹れなおさせる。
ヘルミーナとランベルト、イルメラが伊澄の側近に決まりました。
後一話、会議です。




