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オレの嫁は、異世界育ち。  作者: 十草木 田
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反撃

 くそ、やばいな…。

 斬られた左腕が痺れて上がらない。思ったより傷が深いのかもしれない。結構な量の血が滴り落ちている。怖くて傷口が見れない。


 俺が魔法を使えないと侮ってくれていたのもあって、序盤は上手くこちらのペースで戦えていた。ランベルトの情報でルドルフが爆炎魔法が得意と聞いていたので、水属性魔法壁の二重張りで防ぐこともできた。

 予想外だったのは、怒り狂ったルドルフの魔法出力に任せた攻撃だった。魔法出力が弱いのは、俺の最大の弱点だ。さらに言えば、戦闘経験が皆無なので攻守の切り替えもお粗末だ。攻撃はほぼ捨てている状態なので、攻め続けられると追い詰められて当然だ。


 右手に炎の剣を持ち、左手に魔法壁を展開したルドルフが近づいてくる。

 「智慧の書」使って魔法攻撃してくれた方が対処が楽なのだが、さっき完全に防いでしまったせいで使ってくれる気配はない。失敗だったかもしれないが、下手をすれば焼け死んでいたのでしょうがない。

 近づいていたルドルフが、10メートル程の距離を開けて足を止める。


「くはははっ!手間を掛けさせてくれたなゴミ虫。卑怯者の貴様は何をするかわからん。だが、その状態ならばそう簡単に反撃もできまい。魔力弾でなぶり殺しにしてやろう。」


 くそっ、もっと近づいてくれれば戦いようがあるのに、油断はしてくれなさそうだ。

 ルドルフが剣を鞘にしまい、魔力弾を打ち込んでくる。俺はまだ動く右手で、魔法壁を張る。一方的に打ち込まれるが、左腕が動かないので仕方がない。魔力弾を数発打ち込まれるたびに魔法壁が砕けるので、魔法壁をつねに重ね続ける。魔力量が多いので何とかなっているが、果たしてこの状態が何時までもつか…。左腕の出血も止まらない。


「まったく忌々しい、その魔法壁は面倒だな。少し本気を出させてもらうぞ。」


 ルドルフがそう言った後に放った魔力弾が、一発で二枚の魔法壁を砕いた。冗談だろ、なんて威力をしてんだよ。直ぐに魔法壁を二重展開するが、また一撃で二枚の魔法壁が砕かれる。連続して撃たれる強力な魔力弾に、魔法壁の展開が追いつかなくなる。

 ついに魔法壁が間に合わず、一発の魔力弾が頭の右側を掠めた。なんとか直撃は避けたものの、頭から血が滴る。これは、本格的にやばくなってきた。

 膝をついていることも出来なくなり、尻もちをついて壁に寄りかかる。


「ゴミ虫も虫の息といったところだな。くはははっ!」

「うるせーよ。…くそ野郎が。」

「ほざくな!王族になる私に向かってなんという口の利き方だ!…まーいい、もういい加減飽きてきた。そろそろゴミ虫の息の根を止めてやろう。」


 ルドルフが、再び剣を手に取り近づいてくる。どうやら本気で止めを刺しに来るようだ。

 俺は、ランベルトに言われたことを思い出す。


『追い詰められた時こそチャンスです。必ず油断して隙ができます。必殺の一撃は確実に当てられる間合いで、一発で仕留めてください。』


 止めを刺そうと近づいてくる今が最後にして最大のチャンスだ。血を流しすぎてだんだん意識も朦朧としてきているので、あまり猶予もない。俺は太ももに置く右手の人差し指と中指を伸ばし、その先端に魔力を込め圧縮していく。この一撃は外せない。絶対に当てて見せる。

 右手をゆっくりと上げ、伸ばした指先をルドルフの頭に向け狙いを定める。アンナの為に絶対に当てて見せる。


「往生際の悪いやつだ。また魔力弾か」


 俺から5メートルほどの距離で、ルドルフが足を止め左手に展開している魔法壁を体の前に向ける。この距離なら外さない、魔力壁も無駄だ。


「ああ、ただの魔力弾だよ。」


 俺は目一杯の力を込めて、じいちゃんの技、圧縮魔力弾をルドルフに向かって打ち込んだ。キンッと甲高い音が鳴り響き、ルドルフの魔法壁が砕け散る。

 会場が静まり返りかえり、俺は勝ったと思ったが、なぜかルドルフの声が聞こえた。


「なんだ今のは…私の魔法壁が砕かれた…だと。」


 ルドルフが、左の頬を触って、その手を見る。


「血だ、私の血だ!…おのれゴミ虫が!私の顔に傷を付けただと!」


 俺はそこで自分の視界が赤く滲んでいることに気付く。頭から流れた血が目に入っていたようだ。ランベルトの言葉が頭をよぎる。


『一発で仕留めてください。』


 やばい、外しちゃったよ。

 クソッと思いながら圧縮魔力弾を続けて三発撃つが、身体強化しているルドルフに簡単に避けられ距離を取られる。これでは、まぐれでもなければ当たらない。


「なんだそれは!…なんなのだその魔力弾は!魔法壁で防げぬ魔力弾などありえん!」

「へへっ!俺のじいちゃん…椋善様のとっておきの魔力弾だよ。」


 俺は当たらないと分かっていつつ、ルドルフの動きに合わせて腕を動かし圧縮魔力弾を何度も放つ。だが、やはり当たらない。


「ふんっ!小賢しい技に驚いたが、当たらなければどれだけ威力があろうと意味は無い!」

「くそっ…あたれ…あたれっ!」


 願いを込めて何度も圧縮魔力弾を撃つが当たらない。悔しさと焦燥感が募る。


「当たらなければ意味がないとー!いっているだろーがぁー!」


 圧縮魔力弾にイラついたルドルフが、身体強化を最大発揮して一気に俺との距離を詰め、俺の左わき腹を思いっきり蹴り上げた。


「ぐはっ!」


 バキッと嫌な音がして、俺の体が地面を転がる。あばらに強烈な痛みを感じ蹲る。息が詰まって呼吸ができない。なんとか呼吸をしようとしているところに、ルドルフが近づいてきて腹のあたりをまた蹴とばされた。地面を転がり壁に体が打ち付けられて一瞬意識が飛ぶ。


 気付くと俺は、ルドルフの左手に胸倉を掴まれ壁に押し付けるように立たされていた。怒りに満ちた醜い顔でルドルフが俺を睨みつけている。俺は、痛みを堪えてニヤリと笑う。


「ぐぼっ…おえ…。」


 ルドルフの膝蹴りが俺のみぞおちに入った。うめき声と共に胃液なのか血なのかわからない熱いものが口からこぼれる。それでも俺はルドルフを軽蔑する笑いを浮かべる。全身痛くて体が動かないが、少しでも抵抗してやりたかった。


「下卑た笑いを浮かべおって、汚らわしい!だがこれでもう終わりだ!」


 ルドルフが右手に持った剣を振り上げた。俺はここで終わりだと思って目を瞑る。


「もうやめてっ!お兄様を殺さないでっ!」


 遠くの方でアンナの声が聞こえた。一度閉じた目を開けて、目を凝らす。アンナが壁にしがみ付いている姿が見えた。こちらに来ようとしているのを誰かに取り押さえられている。

 泣きながら何度も「お兄様!」と叫んでいる。

 朦朧とする意識の中で、誰がアンナを泣かせているのかと沸々と怒りが込み上げる。


「くっ!姫様は後でしっかり私が教育しないといけないな。…誰のものか、分からせてやらねばっ!」


 ルドルフの下衆な笑みを浮かべた顔とイラつく声で、さらに怒りがこみ上げる。こいつがアンナを泣かせているのか?いや違う、こいつは俺の邪魔をしているだけだ。じゃあ、誰がアンナを泣かせているんだ?…本当は分かっている。アンナが泣くのはいつも俺のためだ。俺がアンナを泣かせているんだ。早く抱きしめて慰めてやりたい。そんなことすら俺は出来ないのかと怒りが限界を超える。


「アンナマリアの前に、貴様の首を転がしてくれよう!」


 怒りに溢れた俺は、目の前の男が邪魔で耐えられなくなり、右手の人差し指と中指に力を込めて振り上げた。


『ああ…鬱陶しい…。』


 ボトリと足元に何かが落ちて、壁に押し付けられていた体が解放される。


「ぎゃああああああああっ!腕が…私の腕がーっ!なんだそれは!なんなのだーっ!」


 目の前で何かを振り回して騒ぐ男が鬱陶しいので、振り回している物をめがけてもう一度俺は右手を振り上げる。今度はシュバッと音がした後、金属が転がる音がした。目の前に男が倒れ込む。


「やめろ!やめてくれ!…頼む、やめてくれ!」


 まだ男が喚いて煩いので頭を蹴り飛ばした。やっと男が動かなくなったので、俺は右手に入れていた力を抜いてアンナに向かって歩き出す。


 白いドレスを着たアンナが駆け寄ってくるのが見える。やっと泣いてるアンナを慰めることができる。そう思い、抱きついてきたアンナを受け止める。俺の胸に顔を埋めて「お兄様!」と叫び泣くアンナを抱きしめようとしたが、左腕が動かない。仕方ないので右手でアンナの頭を抱えて撫でてあげる。


「ごめんなアンナ。お兄ちゃん、またアンナを泣かせて…。」


 胸に抱くアンナの温かさが気持ちよくて眠くなり、俺は目を閉じた。

伊澄くんがルドルフを倒しました。

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