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オレの嫁は、異世界育ち。  作者: 十草木 田
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アンナの気持ち(アンナの視点)

 どうしてこんな事になっているのでしょうか…?

 闘技場の舞台に、お兄様が上がっています。戦う相手は近衛騎士団の部隊長ルドルフです。魔法を使えないお兄様が勝てるはずがありません。お兄様が死んでしまいます。

 わたくしもう見ていられません。


 顔を伏せて地面を見つめていると、会場が静まり返り、お父様が口上を述べ始めます。いよいよ始まってしまうのです。わたくしは俯いたまま、胸の前で指を組みお兄様の無事を祈ります。わたくしにはもう祈る事しかできません。そう思っていると横に座っているサナエ様がわたくしに声をかけてきました。


「アンナマリア。あなたの将来の夫となるものが戦うのですよ。目を離してはいけません。」


 わたくしはハッとして顔をあげます。今の言葉で数年前、わたくしが初めて戦場に立ったときにサナエ様に言われたことを思い出しました。


 わたくしが初めて戦場に立ったあの日、隣にはサナエ様がいました。派閥貴族の要望に答えたお父様の命で、若くして戦場に立つことになったわたくしを心配し、老いた体に鞭打って共に戦ってくれたのはサナエ様でした。

 初めての戦場で、わたくしを守って多くの味方が死ぬところを見ました。わたくしの魔法で多くの敵が死ぬところを見ました。わたしはそれを見続けることが出来ませんでした。

 そんなわたくしをサナエ様は叱咤しました。


『目を背けては行けません。今戦い死にゆく者たちは、この国の為に死んでいるのです。あなたはこの国の王家の一員です。どんなに辛くても、悲しくて涙が流れようと、あなたの為に戦う者から目を背けるのは、死にゆく彼らの思いに背く行為です。』


 わたくしはあの日、子供ながらに王族としての責任を強く感じました。目を背けては行けないと決心しました。どれだけ多くの人が死に心が辛くとも、涙が枯れるほど泣こうとも、戦いが終わるまで決して目を背けませんでした。それがわたくしの、王族としての義務だと思ったからです。


 そして今、大好きなお兄様がわたくしの為に命を掛けて戦おうとしてくれています。初めて戦場に立ったあの日よりも何倍も怖いです。お兄様が死んでしまったら、わたくしは正気を保てるか分かりません。でも、それでも、わたくしの為に戦うお兄様から目を背けるのは、お兄様を裏切る行為だと思います。ドレスのスカートを握りしめ、わたくしはお兄様の戦いから目を背けないと誓いました。


 お父様の口上が終わると共に、銅鑼が鳴り響き戦いが始まりました。歓声があがると同時に、ルドルフがお兄様に斬りかかりました。

 「危ない!」と声が出そうになった瞬間、お兄様の姿が右に数メートル動き、ルドルフの剣が空をきりました。


「今のは…身体強化の魔法。どうしてお兄様が?」

「伊澄は私の城に居たのですよ。アンナマリア。あなたの為に伊澄がどれだけの努力を積んできたか、しかと見届けなさい。」


 わたくしの言葉にサナエ様が、答えてくれました。お兄様の動きは一朝一夕で身に付けられるものではありません。いったいどれほどの鍛錬をつまれたのか…。


 距離をとったお兄様にルドルフが、火の魔力弾を数発打ち込みますが、お兄様はひらりひらりとそれを交わします。すごいですお兄様。わたくしはお兄様の動きを見て少し希望がわいてきました。


 火の魔力弾を躱されたルドルフが、剣に炎を纏わせて距離を詰めます。魔力弾はよけられるので近接戦に持ち込むつもりなのでしょう。先ほどは簡単によけられましたが今度はルドルフにも油断はないでしょう。わたくしは怖くなって指を組む手にギュッと力を入れます。

 お兄様に当たると思った剣が魔法壁で防がれました。すごいですお兄様。ルドルフも驚いた様で、立ち竦みます。それを見たお兄様がなんと魔力弾を放ちました。魔力弾はルドルフの剣で弾かれてしまいましたが、お兄様がルドルフを押し返したのです。


 近距離で放たれた魔力弾を剣で弾いたルドルフの技量もさすがですが、はじめて魔力戦闘を行っているはずのお兄様が、ここまで戦えるとは正直思いませんでした。相手は近衛騎士団の部隊長ルドルフなのですから。お兄様かっこいいです!


 客席の貴族たちや横にいるお父様の驚いた表情をみれば、わたくしと同じ衝撃を感じているのは明らかです。しかし、その中でサナエ様とグレゴールにランベルト、このお三方はこの程度は当たり前という表情を浮かべています。本当にお兄様はいったいどれほど厳しい鍛錬を積まれたのでしょうか…。


 再び距離を取ったルドルフが、お兄様に何か喚き散らしています。そしてルドルフが本型の「智慧の書」を展開しました。


「あら、ルドルフが本気になったようですね。これは少し危ないかしら?」


 サナエ様!そんなこと言わないで下さいませ!

 ルドルフは「智慧の書」のページをめくり魔法陣を展開させました。あれは、爆炎系の高等火魔法です。

 思わず立ち上がり、サナエ様にわたくしは問います。


「お兄様は、「智慧の書」を使えないのですか!?」

「さすがにこの短期間では無理ですよ。イズミが使えるのは基本魔法のみです。」

「そんな!ルドルフが得意としている爆炎魔法ですよ。基本魔法だけで防げるはずがありません!」

「アンナマリア、座りなさい。そして見届けるのです。」


 わたくしは、サナエ様に睨まれ席に座ります。どうしてサナエ様は、そんなに冷静で居られるのですか。あの魔法を受ければお兄様がどんなことになるか分かっているはずなのに…。

 そう思った瞬間、ルドルフの魔法陣から大きな火炎の玉が飛び出し、お兄様が大きな火柱に飲み込まれました。わたくしは思わず目を瞑ってしまいます。

 会場からどよめきがあがりました。


「ふふっ。さすが椋善の孫ですね。」


 サナエ様の声を聞いて、わたくしは目を開けお兄様を確認します。お兄様は健在でした。体の数カ所が、少し焦げて煙が上がっていますが、ご無事のようです。


「いったいどうやってあの魔法を…。」

「伊澄は椋善に似て、魔力制御が得意ですからね、二枚の魔法壁を同時展開できるのですよ。しかもルドルフが火魔法を得意としていると教えたら、器用に水属性を付与した魔法壁をつくるのですから驚きましたよ。」


 サナエ様の説明にわたくしも驚きました。そんな器用な基本魔法の使い方は聞いたことがありません。お兄様はやっぱりすごいです。


 しかし、そう思ったのも束の間でした。自信のあった爆炎魔法を防がれ、怒り狂ったルドルフが、魔法出力に任せて、魔力弾と炎の剣でお兄様を責め立てます。防戦一方になったお兄様は、魔法壁と闇の剣でなんとか攻撃を防いでいる状態です。


「こうなってしまうと伊澄の分が悪いですね。」

「そんな、何か対策はしてないのですか?何とかならないのですか!?」

「魔力出力の無さは、今の伊澄の最大の弱点ですからね。そこを攻められると厳しいですわね。」


 サナエ様の表情から今までの余裕が見えなくなります。お兄様は本当に危ないのだと思います。お兄様頑張ってくださいませ!わたくしは指を組んだ手をギュッと胸の前で握りしめ祈ります。

 しかし、私の願いは虚しく打ち砕かれてしまいます。ルドルフの渾身の一撃が魔法壁を打ち破り、炎の剣の一撃がお兄様の左肩を掠めました。斬られた肩口を押さえてお兄様が壁際まで後退し膝をつきます。力なくだらりとたらしたお兄様の左手から血がぽたぽたと落ち、苦悶の表情を浮かべています。


 もう良いです…お兄様…降参してください。アンナはお兄様に死んでほしくありません。

伊澄くんの戦いをアンナちゃん視点で書いてみました。

伊澄くんのピンチにアンナちゃんは心が折れそうです。

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