魔法の基本 後編
「コホン、では次が最後の基本技術になりますが、武器への属性付与を行います。」
空気を変えるためにグレゴールが咳払いをして、次の課題の準備を始める。訓練場にある直剣を一本用意して俺に渡す。右手に持った剣はズシリと重い。
「やり方は身体強化とほとんど変わりません。武器を覆うように魔力を流して定着させます。ただし、風の魔力だけでなく付与する属性によって様々な効果が得られます。」
グレゴールが腰にぶら下げていた剣を抜くと、剣に属性を付与しながらそれぞれの効果を説明してくれた。
「まずは風の魔力。重さが軽減され、剣を振る速度が上がる。」
剣が緑色の光に包まれる。グレゴールが剣を重さが無いようなスピードで振り回す。
「次は水の魔力。剣が水を纏い、切れ味が増す効果をある。」
剣が緑から青色の光に変わる。グレゴールが水を纏った剣を一度振り下ろすと、キラキラと水滴が舞った。
「火の魔力は、剣が火炎を帯び、使い方によっては斬りつけた際、爆炎を起せる。」
剣が赤い光を帯び、炎を纏う。グレゴールが剣を振るう度、炎がボワッと上がる。
「闇の魔力、剣の強度が上がり、剣での防御力が増す。」
剣が紫色の光を帯びる。剣が魔法壁と同じ効果を得ているようだ。
「そして最後が光の魔力、斬りつけると雷撃の効果を発揮する。」
剣が黄色の光を帯びる。グレゴールが剣を振り下ろすと剣筋にバリバリッと稲妻が走った。
一通りの属性付与の見本を見せてくれたグレゴールが、剣から魔力を消して鞘に納め、ふーっと息を吐く。
「今回は剣での属性付与を行いましたが、他の武器、それから魔力弾にも属性を付与することで、概ね同じ効果が発揮されます。但し、戦闘中に属性を切り替えるのは、魔力制御に集中力が割かれるので、あまりお勧めはできません。ご注意くだされ。」
グレゴールから聞いた注意点はもっともだった。渡された剣で、属性付与を順番に行ってみたが、切り替えるのに思ったより時間が掛かる。グレゴールのようにスムーズにできない。
「ふむ。…属性付与もすべてできるのですな。」
「でも、グレゴールのように素早くは切り替えられないですね。」
「いやいや。今は属性付与が出来れば十分ですぞ。そうだ、ついでに属性を付与した魔力弾を打ってもらえますかな。」
「やってみますね。」
いつもは、右手で打つのだが、剣を右手で持っているので左手を的に向かって構える。
まずは火の魔力を打ち出してみる。赤く光る魔力弾が打ち出され、的に当たった瞬間爆炎が上がる。
次に水の魔力を打ち出してみる。青色に光る魔力弾が、的に当たると的が水で濡れた。
「魔力弾も問題なく属性付与できます。」
「そ、そのようですな。」
グレゴールは苦笑いを浮かべて頭をかいている。
「まさか、基礎魔法の習得が一日で終わってしまうとは。」
「くくっ。父上、イズミ様は規格外なのですよ。」
「まったくその通りだ。」
グレゴールの隣に並んだランベルトがくくくと笑うと、グレゴールも口を開けて笑う。
「ははははっ!さすが、リョウゼン様のお孫様だな。」
「ふふふっ、そうですね。」
サナエ様も口に手を当てて笑っている。あれ、俺、褒められてるんだよね。変なことしてないよね。少し不安になってきたところで、サナエ様に肩をポンポンと叩かれた。
「サナエ様?」
「ここまで、魔力制御ができるのなら、椋善の得意だった魔力弾が使えるかもしれませんね。」
「じ、じいちゃんが得意な魔力弾ですか?」
サナエは、コクリと頷くと、グレゴールに金属鎧を的のある場所に設置させた。
「残念ながら私には使えないので見本は見せれませんが、イズミならきっとできると思いますよ。技の名前は圧縮魔力弾です。」
「圧縮…魔力弾ですか?」
名前を聞いただけでは想像があまりつかない。サナエ様の説明を聞く。
「この技に必要なのは魔力制御と集中力です。わたくし達がこの世界に来た当初、イズミと同じように椋善は大きな魔力量がありましたが、魔力出力は低い状態でした。そこを補うために得意な魔力制御を駆使したのがこの技です。今のあなたに似ているでしょ。」
サナエ様の話を聞くと、俺とじいちゃんは似ているかもしれない。それ以上にじいちゃんが使えた技を自分の物にしたいと思った。
「やってみたいです。教えてください!」
サナエ様がふふっと優しく微笑む。
「ではまず、掌ではなく人差し指と中指を揃えて的に向けてください。」
俺は持っていた剣をグレゴールに渡し、言われた通り右手の人差し指と中指を揃えて的に置いた金属鎧に向ける。
「二本の指先の間に魔力をできるだけ小さくまとめるように集めてください。」
二本の指先の間に集中して魔力を溜めていく。
「まだまだです。より小さく圧縮するように魔力を込めて。」
言われた通り、より小さく圧縮するイメージで魔力を込めていく。
「魔力を小さくまとめたら、できるだけ強く打ち出してください。そうですね、向こうの世界でいうと、拳銃を打つような感じでしょうか。」
実際の拳銃を打ったことが無いので、映画やドラマの拳銃をイメージして指先から圧縮した魔力弾を強く打ち出す。
キーンッという甲高い金属音が訓練場に響き、金属の鎧が跳ねた。
鎧に当たった感触はあったので、魔力弾は出た気がするが、打ち出した感覚は小さかった。上手くいったのか良く分からない。
「ほうっ…。」
ランベルトが、目を薄く開いて金属鎧を見た後、口角を上げた。
「ふふふっ。やはり椋善の孫でしたね。グレゴール、鎧を持ってきて頂戴。」
「はっ!わかりました。」
グレゴールが駆け足で金属鎧を取りに行き、一瞬驚いた後、鎧を持って駆け寄ってきて口を開く。
「確かに、これなら魔力出力が低くとも相手に致命傷を負わせれますな!」
「お見事です。イズミ。」
グレゴールが持ってきた金属鎧の胸の部分には、直径1センチ程の穴が開いていた。穴は背中側にも開いており、俺が放った魔力弾は金属鎧を貫通していたようだ。
致命傷って、これ人に撃って大丈夫なのか?
これで伊澄くんの基礎訓練は完了ですが、
次回必殺技の開発をします。