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オレの嫁は、異世界育ち。  作者: 十草木 田
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魔法の基本 前編

 昼食を終えてグレゴールに連れられ、訓練所に向かうと、サナエ様とランベルトが待っていた。二人は俺がどの程度の魔法が使えるか見学するらしい。俺がルドルフと戦う時の戦術を考えるそうだ。ランベルトは分析に優れた護衛騎士だし、サナエ様はかつて英雄と呼ばれた実戦経験豊富な魔法剣士だ、とても頼りになる。


「今日から実践的な訓練に入りますので、心してくだされ。」

「わかりました。よろしくお願い致します。」

「ではまず、基本となる魔力弾を覚えてもらいます。まずはこのように腕をー」


 魔力弾のやり方を説明するグレゴールに申し訳ないと思いつつ、俺は手を軽く上げる。


「すいません。」

「どうされました?まだ説明をはじめたばかりですぞ。」

「いえ、魔力弾は使えます。」

「はっ?今なんと?」


 グレゴールが目を丸くして聞き返してきたので、もう一度念を押す。


「魔力弾は使えます。その、魔力の基礎的なことは、祖父に教わっていたのを思い出しました。」


 俺は訓練場に予め用意してあった的に向かって手を向けると、掌に意識を集中させ魔力を溜める。ある程度魔力が溜まったのを感じて、弾き飛ばすイメージを魔力に伝える。

 掌から打ち出された白く光る拳ほどの大きさの魔力の玉が、的に当たりドガッっと大きな音を立ててはじけた。


「これで、どうでしょうか?」


 ぽかんと口を半開きに開いたグレゴールの後ろで、サナエ様も目を丸くして俺と的を交互に見ている。ランベルトだけは「イズミ様は本当に面白い。」と言って、くくくっと笑っている。何がおかしいのやら…。


「コホン、…お見事です。問題ありません。」


 自失していたグレゴールが、我に返り咳払いをして合格をくれた。


「しかし、先日まで魔力の基礎もご存知なかったはずなのに、驚きましたぞ。」

「本当に祖父に教わっていたのを思い出しただけですよ。」

「あの、伊澄。基礎的な事と言っていましたが、椋善に他に教えられている事はあるのですか?」


 サナエ様が、近寄ってきて俺に質問した。


「えーっと、魔力弾の他は五つを属性を魔力に込めることですかね。あっ、あと完全に属性をのせない魔力の出力も教えてもらいました。」

「本当に基本的な事だけのようですね。椋善らしいといば椋善らしいですが、椋善の技や魔法を一つでも習得していれば、戦術の幅が広がったのですが…。」


 頬に手を当てたサナエ様が少し残念そうな顔をする。俺が知っていた事は、本当に基本的なことだったようで、俺は少しだけ肩を落とす。


「はっ!ご、ごめんなさい伊澄。そうじゃないのよ!わたくしがちょっと欲をかいてしまっただけなのですよ。」

「そうですぞ、イズミ様!魔力弾が使えて、五つの属性が扱えるだけでも十分休んでいた間を取り戻して余りある内容ですぞ!」


 サナエ様とグレゴールが必死でフォローするのが申し訳なくて、俺は気を取り直して頑張ることにする。


「魔力弾が今ので大丈夫でしたら、次は何をすればよいですか?」

「ふむ、次は魔法壁ですな。魔法壁は魔力で作る盾です。」


 魔力の盾は、あの時母さんが俺を守るのに使っていた魔法だ。


 グレゴールは、少し俺から距離を取ると、「ふんっ!」と言って薄紫に透けて光るドーム状の壁を自分を覆うように作る。


「これが、魔法壁の基本形です。イズミ様、魔力弾を幾つか撃ってみてくだされ。」


 掌をグレゴールに向けて魔力弾を打ち出す。魔力弾は魔法壁にはじかれてグレゴールには当たらない。続けて数発撃ちこむがすべてはじかれる。


「魔法壁は、出力している魔力の量によって硬度が変わります。さらに壁の範囲を小さくすれば、より強固なものにできますぞ。」


 そういってグレゴールはドーム状だった魔法壁を四角い盾の形に変える。さっきより少し紫の色が濃くなった。これが硬くなっているという事なのだろう。


「魔法壁を盾の形に形成できれば合格ですぞ。」


 魔法壁を消したグレゴールがそう言いながら近づいてきた。


「ではイズミ様、やってみてくだされ。闇の魔力を自分を覆うように何重にも巡らせる感じでぞ。」


 俺は一度体の力を抜いた後、まず両腕に紫色、闇の魔力を溜めるイメージをする。そして闇の魔力を自分を丸く囲むように放出していき、足元からぐるぐると螺旋のように繰り返し回すイメージで徐々に頭の上まで伸ばしていく。すると足元から薄紫の透明な壁が出来上がっていき、頭の上までドーム状に覆うことができた。


「ど、どうでしょうか?」

「ふむ。基本は大丈夫そうですな。ですがここからは少し難しいですぞ、盾の形に変えてくだされ。」


 盾か、グレゴールさんは四角い縦長の形に作っていたが、魔力をぐるぐると回すイメージでは少し作りづらい。少し考える。ぐるぐる回すのだから四角ではなく、丸い形ならどうだろうと思い付く。盾の形って言っていたので別に丸でもいいよね、と自分を納得させて、両手を前にのばし、丸い盾をつくるイメージで闇の魔力をぐるぐると回す。

 ドーム状だった魔法壁が、ドンドン小さくなり半径1メートルほどの丸い盾になる。


「ほう、丸い盾ですな。」

「だ、だめでしょうか?」

「いえ、合格です。見事というか、イズミ様は魔力量だけではなく魔力制御の才もありそうですな。」


 魔力制御は魔力を効率よく扱い、より早く魔法を発動させるための能力だ。才能があると言われ俺は嬉しくなる。


「一度目で、魔法壁の制御までしてしまうとは、さすが椋善の孫というか、驚かされるばかりですね。」


 目を丸くし頬に手を当てたサナエ様が俺の丸い魔法壁を見ながら半ば呆れている。

 俺って呆れられるほどすごいことしてるのかな?これって基本なんでしょ。

 グレゴールが「もう十分ですな。」というのを聞いて俺は展開していた魔法壁を消す。


「イズミ様。頭痛や疲労といった魔力が減っている時の感覚はありますかな?」

「いえ、大丈夫ですよ。魔力が減っている感覚はまったくないですね。」

「そ、そうですか。まー、あれだけの魔力量があれば、問題なくて当然なのでしょうな。普通、魔力を使いはじめた初期は、無駄に魔法出力して魔力を枯渇させがちなのですが…イズミ様には関係ないようですな。」


 グレゴールが苦笑いを浮かべているので、俺は首を傾げてみるが、サナエ様の隣でお腹を抱えて、くくくっ、と笑っているランベルトの方が気になってしまった。一体何が面白いというのか。もう無視だ、無視。




「本当は明日にしようと思っておりましたが、イズミ様が大丈夫そうなので、次は身体強化を習得して頂きますぞ。」

「身体強化…ですか?」

「そうです。魔力を扱う基礎技術ですが、魔力戦闘に置いてもっとも重要なものとも言えますな。」


 腕組みをして説明をしていたグレゴールが腕を解いて、ふんっ、と鼻息を吐き飛び上がる。70センチほど飛び上がっただろうか、年齢を考えるとなかなかの跳躍力だ。


「これが、身体強化なしの私の跳躍力です。そしてー」


 グレゴールの体が淡く緑の光を纏ったと思った瞬間、グレゴールの体が5メートルほどの高さまで飛び上がった。もう少しで天井まで届きそうだ。落ちてくるグレゴールの姿を唖然としながら見ていると、地面に着いた瞬間、その体が左右にものすごい速さで動き反復する。十回ほど反復飛びをしたところでピタッと体を止めた。


「これが、身体強化した跳躍力と動きです。」


 俺はグレゴールの動きのすごさに感心して思わず拍手していた。


「グレゴールはすごいですね。」

「感心している場合ではないですぞ。これぐらいはイズミ様もできなければ話になりませんぞ。」


 そうだった。感心している場合ではなかった。戦わなくてはならないのは俺だった。

 グレゴールが俺の前までやってきて、身体強化のやり方を説明してくれる。


「まずは、魔石に魔力を込める感じで、全身に風の魔力を巡らせてくだされ。」


 俺は目を閉じて全身に風の魔力を巡らせる。


「全身に風の魔力が巡ったら、今度はそれを体の表面に流すように動かすのです。」


 足元から徐々に風の魔力を体の表面に這わせるように流していく。足、腰、胸、腕、首、頭と順にぐるぐると体にテープを巻きつけるイメージで魔力を流す。


「体の表面を風の魔力で覆えたら、服を着る感覚で魔力を定着させます。それが出来れば合格ですぞ。」


 服を着る感覚で定着させるか…。今はテープでぐるぐる巻きにしている感じなので、このまま肌にピタっと定着させたい。服というよりは、肌着、いや全身タイツみたいなものがいいかなと思い、着たことは無いが伸縮性のある全身タイツをイメージして風の魔力を定着させる。

 目を開けて定着できているか確認する。グレゴールのように体が淡く緑に光ってなかったので一瞬失敗したかと思ったが、掌を見ると分かりにくいが薄っすらと風の魔力を纏って緑に光っていた。


「グレゴールに比べると、全然光ってないですね。失敗ですかね?」

「い、いえ、先程は私も見本だったので、分かりやすいようにやっておりましたが、本来はイズミ様がやっておられるように極力体表に密着させ使っているのが分かりにくくて良いです。…といいますか、ほとんど理想的な形で身体強化できておられるかと…。」


 おお!意図していなかったが、全身タイツのイメージはかなり良かったようだ。


「試しに、飛んでみてもいいですか?」

「ど…どうぞ。」


 グレゴールからの許可が出たので試しに軽くジャンプしてみると、一瞬で天井まで飛び上がったり、天井にぶつかりそうになって慌てて手で天井を抑える。危うく天井に体を打ち付けるところだったと気を抜いた瞬間、身体強化が解けてしまう。

 やばい、と思った時には頭から地面に落ち始めていた。地面が近づき体を強張らせて目を瞑る。

 しかし、体を打ち付ける衝撃はいつまでも来なかった。代わりにふわりと体が受け止められる感触がして目を開ける。

 目の前にキリリとしたサナエ様の顔があり、俺はサナエ様に横抱きにされている事に気付く。あれ、俺、サナエ様にお姫様抱っこされてるんですけど!状況を理解して顔が熱くなる。


「さすが、剣姫とよばれた英雄サナエ様ですな。お見事です。」

「お見事ではありません!危うく伊澄が大けがをするところだったのですよ。こういうことが無いようにグレゴールが居るのでしょ。」

「め、面目次第もありません。」

「す、すいません。サナエ様…降ろして頂けませんか。」


 老婆とは思えないほどがっちりと俺を抱えるサナエ様に俺は懇願するように訴える。


「そうですわね。でも…大きくなった伊澄くんをこうして抱っこしているのも悪くないですわね。」

「か、勘弁してくださいよ。」


 顔を覆って恥ずかしがる俺を、名残惜しそうにサナエ様は降ろしてくれた。

 その様子を見ていたランベルトが腹を抱えて、必死に笑うのを堪えているので俺は、ギリリと睨みつける。


「くはははっ。いやー、イズミ様は最高ですね。」


 くそっ。何も言えない。


「サナエ様もまだまだ現役で行けるんじゃないですか?剣姫の身体強化は衰えていないように見えますが。」

「馬鹿なことを言わないで。こんな老婆を働かせるものではありませんよ。」

「くく、冗談です。ご容赦ください。」


 ランベルトの発言に顔をすこし赤らめて、口を尖らせるサナエ様がちょっと可愛い。アンナの仕草に少し似ていると思った。

魔法の基礎訓練のお話でした。

次回、後半に続きます。

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