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オレの嫁は、異世界育ち。  作者: 十草木 田
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訓練の毎日

 天蓋付きベッドの天井をぼんやりと見つめる。サナエ様の城で7回目の朝を迎えた。ここに来てから毎日続いている訓練に向かうため、ゆっくりと体を起こす。しっかり寝たはずなのに疲労で重い。そしてー


「痛たたたっ…。」


 筋肉痛で今日も体が痛い。天蓋のカーテンを開けていくハイデマリーが、心配そうな顔で「大丈夫ですか?」と聞くので、笑顔を作って「大丈夫です。」と答えておく。

 本来ハイデマリーは、サナエ様の側仕えだが、今は俺に貴族の作法を教えるために、俺の身の回りの世話をしてくれている。


 痛む体を軽くほぐしてベッドから這い出ると、ハイデマリーが手際よく寝間着を脱がし訓練用の服に着替えさせてくれる。


「朝食はどうされますか?」

「いつもと同じように朝の訓練が終わった後でお願いします。」

「かしこまりました。それでは、お戻りに合わせてお風呂と朝食の準備を整えさせて頂きますね。」


 着替えが終わると、グレゴールに連れられて城の外へと向かう。城の正面に出ると周囲10キロほどの湖が広がり、湖面が朝日に照らされてキラキラと輝いている。俺の一日はこの湖を一周走ることから始まる。


「では参りますぞ。」

「はい!」


 グレゴールの言葉に返事を返して走り始める。湖の周りを走る、簡単に言ってしまったが舗装された道などなく、草や木に覆われた森の中を走るので、ジョギングというよりはアスレチックコースを走っているのに近いと思う。かなりハードな内容だ。朝食を摂らないのも、初日に朝食を食べて走ったら途中で吐いてしまったからだ。

 俺の体力と走力では、一周するのに軽く二時間はかかるのだが、三十分もしないうちに息が上がり、グレゴールに発破をかけられる。


「イズミ様!遅いですぞ!もっと急いでくださらねば、昼食を食いそびれますぞ。」


 昼食どころか朝食もまだなんだがと言いたいが、息が上がって碌に返事も返せない。グレゴールが余裕な様子で、木々の間をすり抜けていくのを必死で追いかける。

 グレゴール曰く、魔法を使った戦いには、体力と体幹、集中力が必要らしく基礎訓練としてこの走り込みが最適らしい。

 二時間かけてボロボロになりながらようやく城の前まで戻ってくる。俺は芝生の上に倒れ込んで息を整えるが、余裕の表情で仁王立ちするグレゴールは、まったく息が上がっていない。


「昨日よりも少しはやく戻ってこれましたな。順調順調、大変結構ですぞ。」

「はぁはぁ…。そ、そうですか、順調で…よかったです…。」


 俺の息が整ったところで、グレゴールが俺の部屋まで送ってくれる。


「それでは、イズミ様。また午後の訓練で。」

「はい。また午後からお願いします。」


 グレゴールを見送って部屋に入るとハイデマリーが笑顔で出迎えてくれる。


「お疲れ様です、イズミ様。お風呂のご準備が整っておりますのでこちらへ。」


 準備を整えてくれていたお風呂に入り、泥と汗を流す。湯船につかると花のような匂いがした。


「今日のお湯は、何かいい香りがしますね。」

「訓練で随分お疲れのご様子なので、回復効果を高める薬湯を用意させて頂きました。」

「薬湯ですか、これはいいですね。はぁーーっ、…気持ちいいー。」

「ふふふっ。イズミ様。お喜び頂けたのは嬉しいのですが、お言葉が乱れておりますよ。」


 俺は、ハッとして苦笑いを浮かべ「申し訳ありません。」と、謝る。

 ハイデマリーには、普段の生活で出てしまう貴族として相応しくない言葉や行動を注意してもらうようにしている。それに加え、朝食後と夕食前に貴族として必要な知識や常識を集中的に教えてもらっている。高校を卒業してから勉強などしていなかったので、勉強するのに慣れておらず訓練以上に苦戦している。


 お風呂が終わると、ハイデマリーさんが直ぐに朝食を準備してくれる。毎日ハードな訓練を行っているので、しっかりと朝食を食べる。

 食事が終わり、お茶を飲んで少し休息をとった後、ハイデマリーの授業が始まる。今日の授業は貴族の階級についてだった。


 貴族階級は、上級、中級、下級の三つに分類され、さらに細かく爵位が分けられている。

 まず上級貴族で一番上が公爵だ。あの生意気なルドルフがいるオーベルト家が公爵家だ、王家以外に上の者が居ないので、あんなに偉そうな態度がとれるのかと納得する。

 次が侯爵、じいちゃんはこの爵位を持っていたらしいが昔に返上しているらしい。もし返上していなければ、俺も侯爵家の一員だったらしい。

 ここからは中級貴族、伯爵だ。グレゴールが当主のエーブナー家がこの爵位だ。そして次が子爵。

 最後が下級貴族の男爵だ。イルメラの家がこの爵位らしい。確かに一番下なので、上の人に逆らえないのが理解できた。


 午前の授業が終わると昼食だ。昼食もハイデマリーが部屋に用意して給仕をしてくれる。昼食後には午後の訓練があるので食べ過ぎないように注意する。

 ゆっくりと昼食を摂って、食後のお茶を飲みながらまったりしていると、グレゴールが迎えに来て、城内にある訓練場に案内される。訓練場はテニスコートほどの広さがあり、剣や槍など武器や武具が揃えられている。その中からグレゴールが直剣を二本取り、一本を俺に渡してくる。真剣なのでずしりと重い。


「まずは素振りから行きますぞ。」


 グレゴールと横並びになり、掛け声に合わせて剣を上下に振る。最初のうちは大丈夫だが途中から、徐々に付いていけなくなり終わるころには、息があがり腕もなかなか上げられなくなる。


 少し休憩をとり、次は型の練習を行う。グレゴールと向き合い実際に剣を交わしながら練習するので結構緊張感がある。グレゴールの動きに合わせて剣を振る。剣と剣がぶつかると火花が散り、思わず目を瞑りたくなるが、瞑ると危険が増すので我慢する。真剣を使った型の練習は、武器を使う恐怖を克服する意味もあるらしい。


「剣の練習はここまでにしましょう。」


 俺は、ふーっと息を吐き緊張をほぐす。剣を片付けたグレゴールが、子供の頭ほどの大きさがある灰色の丸い石を持ってくる。これは、魔力の訓練を行うための魔石だ。

 魔石は魔力を溜める性質を持っており、灰色は一切の魔力が無くなっている状態だ。これを魔力が満ちて光り輝くまで魔力を込めるのが魔力訓練だ。

 初日は、小指の先程度の大きさだったが、今は訓練場にある一番大きな魔石を使っている。


 魔石を受け取り床に座る。両手で魔石を持ち、目を閉じて魔石に集中する。魔石に触れている掌から熱を送り込むようなイメージをすると、体の中をめぐっている何かが腕を通り、手から魔石に流れ込む感覚を得る。ゆっくりと目を開けると、淡く手が白く光り、その光が魔石に吸収されていく。

 俺は、自宅の工場で金属加工をしていた時のように、魔石に集中して魔力を送り込む。集中していたので、どれだけ時間が経ったのかわからないが、グレゴールの「そこまでです!」と言う声で我に返る。両手で持つ大きな魔石が、魔力を帯びて白く輝いていた。


「イズミ様の集中力はすごいですね。小一時間ほど魔力を込めておられましたが、体調に変化は無いですか?」

「特に問題ないですよ。」


 俺は、グレゴールに魔石を渡し、立ち上がって問題ないと両手を広げる。

 グレゴールは、光る魔石を見つめながらうーんと唸る。


「魔力の出力が弱いので時間はかかっておられますが、このサイズの魔石を満たそうとすると、私でも苦労するのですが、イズミ様は余裕の様子で驚きますね。相当な魔力量をお持ちのようだ。」


 これも訓練で習った話だが、魔力の扱いには三つの要素がある。

 一つ目が魔力出力、簡単に言うと電圧のようなもので、出力できる魔力が大きいと威力や効果範囲も高くなるということだ。

 二つ目が魔力総量、これは魔力をどれだけ体に溜めておけるかというタンクの容量のようなものだ、魔力出力が大きくても総量が少なければ直ぐに枯渇して役に立たないらしい。俺は出力は弱いが、総量は大きいみたいだ。

 そして三つ目が魔力制御、出力した魔力をどれだけ効率よく使えるかというもので、魔法の発動速度に影響するらしいが、魔法を使ったことのない俺にはまだわからない。


「今日はここまでと致しましょう。…しかし満たした魔石が白いとは珍しいですな。普通は何かの属性の色に多少なりとも染まるのですが。」

「えっ。それって…魔力を使うのに何か問題がありますか?」

「そのようなことはありませんぞ。魔力の属性変換は次の段階ですからな。魔力量は私の想像を超えておりましたので胸を張ってよいですぞ。さすがはリョウゼン様のお孫様ですな

。」


 何か問題があるのかと思い心配したが、褒めてもらえて安心した。まだ魔力は上手く扱えないが少し自信になった。

 午後の訓練のあとは、再びハイデマリーさんとのお勉強だ。前日に教えられていた貴族のマナーについて復習を行ったが合格点は貰えなかった。もう少し頑張らないといけないらしい。少し落ち込んだが、気を取り直してハイデマリーと共に食堂へと向かう。


 夕食は、毎日サナエ様と摂ることになっており、日々の報告を行う場になっている。

イズミくんの訓練やお勉強の話でした。

次回は報告会です。

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