王主催の昼食会
翌朝、イルメラの声で目を覚ます。夜中に起きてランベルトと話をしていたせいで少し寝不足だ。眠い目を擦りながら起きると、客間に朝食が準備されていた。朝食を食べ終わると王主催の昼食会に参加する為、お風呂に入らされた。昨夜、ランベルトに釘を刺されたこともあり、恥ずかしいと思いつつ、抵抗せずにイルメラに世話をされる。
お風呂が終わると、昨日と同じ紺色に銀の刺繍で縁取りされた軍服を着せられ、髪型をオールバックにセットされる。準備が整った時には、昼食会が始まる時間になっていた。
ランベルトとイルメラに案内されて、俺は城内にある王族用の食堂へと案内される。
「イズミ様。昨夜忠告したことをお忘れなきように、アンナ様とも会話をされたいと思いますが、本日は自重してください。」
食堂に付く寸前、ランベルトから念を押される。アンナと会話したかったが、下手な事を言えばアンナにも悪い影響があり、下手をすれば俺の命も危ういらしい。我慢することを決め、パンツのポケットに忍ばせている鍵束をポンと一度叩く。
ランベルトが扉を叩いて、俺が到着したことを中にいる人に伝える。ゆっくりと扉が開かれた部屋の中に入る。
既におじさんとおばさん…いや、王様と王妃様、そしてアンナが席に付いていた。壁沿いにはそれぞれの側仕えや護衛など側近が控えていた。ヘルミーナとマティルデの姿もある。
「イズミ殿。よくぞ参られた。さあ、席に着かれよ。今日は気楽に楽しんでくれ。」
「国王陛下、お招き頂きありがとうございます。本日は料理を堪能させて頂きたいと存じます。」
ついさっきまで準備をしながらランベルトとイルメラに叩きこまれた最低限のマナーと挨拶を思い出しながら、俺が王様に挨拶をすると王様が目を丸くした。
イルメラに椅子を引いてもらい、指定された席に座る。
王様と王妃様が、大きなテーブルの短辺部分、最上座に座り、アンナがそれに続く上座に座っている。俺の席は下座側、アンナの正面だ。
すぐに食事が始まるのかと思ったが、もう一人参加者がいるらしくしばらく待たされる。嫌な予感しかしない。場つなぎのつもりなのか、王様が予想していた質問を投げてくる。
「あー、イズミ殿。昨夜はよく眠れましたかな?世話役にはできるだけ器量の良い者を付けさせて頂いたのだが、満足頂いているかな?」
王様は、にやりと笑って俺を見るが、俺は内心でアンナのおじさんが意外と下種だなと思いつつ、できるだけ平静を装った笑顔を浮かべ、ランベルトと決めていた回答を述べていく。
「不慣れな場所で少々寝不足ではありますが、陛下の過分なご配慮でとても良い夜を過ごせました。お礼申し上げます。」
「そうかそうか、喜んで貰えたようで何よりだ。」
王様から視線をはずしチラリとアンナの様子を伺うと、頬を膨らませて口を尖らせている。これは、明らかに会話の内容を理解して怒っている感じだ。どこかで誤解を解けるだろうか考えていると、入口が開きアンナと同じ年頃の少年が入ってきて王様に挨拶をする。少年はアンナの隣の席に座り、少し茶色みのあるおかっぱの金髪をかきあげて、優越感に満ちた顔を俺に向ける。
ああ、この少年がそうなのかと察する。
「イズミ殿に紹介しよう。オーベルト公爵家の長子、ルドルフだ。アンナマリアの婚約者候補だ。二十日後には、婚約式を行う予定なのでもう婚約者と言ってもよいかも知れんがな。」
王様が俺の反応を伺っているので、俺は笑顔を浮かべたまま「そうですか、それはめでたいですね。」と答える。
「ようやくですね、アンナマリア姫。姫様と婚約式を迎えることが出来て嬉しく存じます。」
ルドルフが横に座るアンナの手を取り、手の甲にキスをする。このクソガキ、俺のアンナに何しやがると思いつつ、口の端を上げて笑顔を作る。アンナは作り笑いを浮かべて「そうですね。」と答えた。
「ああ、そうです。よろしければイズミ様も、婚約式にご参加頂けませんか?私達を祝福して頂けると嬉しく存じます。」
「それは良い考えだな。イズミ殿も是非参加してくだされ。」
俺はにやにやと笑うルドルフに、作り笑いを向けながら、膝に置いた拳をギュッと握りしめ、込み上げる怒りと悔しさをひたすら押し殺す。
王様が「食事を始めよう。」と言って料理が運ばれてくる。イルメラに給仕をされながら王様がルドルフの会話に相槌を打つ。会話の内容は、主にルドルフの自慢話だ。成人してすぐに近衛騎士団の部隊長になったとか、オーベルト家がどれだけ王家に近い存在かなど、ルドルフが語る度に、王様が褒めたたえる。食事など楽しめるはずもなく苦痛でしかない。
アンナも同じなのだろう、相槌を打つだけでほとんど会話をしていない。
俺とアンナは、会話どころか視線すらほとんど合わさず食事を終えた。何もできない事に歯がゆさだけが募っていく。
俺は早くこの場から立ち去りたくて、食後のお茶を数口飲んだところで離席の挨拶をする。
「本日は、ご招待頂きありがとうございました。」
「いや、実に楽しい食事会であった。次にお会いするのは婚約式になりそうだが、王城にてゆっくりと過ごされるのがよかろう。」
「過分なご配慮ありがとうございます。」
王様の言葉を「婚約式までアンナとは会わせない」という意味だと受け取る。俺は拳を握り悔しさを押し殺して席を立ち、ランベルトとイルメラを引き連れて部屋を出る。
客間に戻っていると、後ろからルドルフに呼び止められる。
「イズミ殿。貴公どこの国の者か知らんが、調子にのるなよ。アンナマリア様の婚約者は私だ。貴公のような魔力もない下賤のものが、王族に近づくなど許されぬと心得よ。」
この少年は、完全に俺を見下しているようだ。腹立たしさを通り越していっそ清々しい。俺は、心の中で敵認定をする。
それよりも、俺がどこから来たかは知らないようだ。だが、魔力が使えないことはバレているようだ。ランベルトが言っていた、分かる人には分かるというのはこういう事なのかと感心する。
「ルドルフ様。イズミ様は下賤なものではありませんよ、王が認めた国賓です。」
「ふん。中級貴族風情が、貴様には何も聞いておらん。」
「申し訳ありません。出過ぎたことを申しました。」
言いたいことを言って気が済んだのか、優越感に浸る笑みを浮かべながら、ルドルフは去っていった。
客間に戻るとランベルトが、「よく我慢されましたね。」と褒めてくれた。イルメラには「何もご助力できず、申し訳ありません。」とひたすら謝られた。
最後まで腹立たしいことばかりだったが、二人が俺の為に動いてくれている事がわかり少し気持ちが楽になった。俺は心の中で、ランベルトとイルメラを味方認定する。
アンナちゃんの婚約者候補ルドルフの登場でした。




