深夜の茶会
深夜2時、ランプに照らされただけの薄暗い客間の中、寝間着のままソファに座る。俺の向かいには、ニコニコと笑顔を浮かべたランベルトが座っていた。
艶めかしい姿から、もとのメイド服姿に戻ったイルメラは、二人分のお茶の準備をしてくれている。
「しかし、イズミ様も勿体ないことを。下級貴族ですが、イルメラは城内の男達の間では人気が高いのですよ。ああ、それとも、イズミ様は姫様のような少し幼さが残る女性の方がお好みですかね?」
イルメラがテーブルにお茶を置こうとしてカチャカチャと音を立ててしまい、「申し訳ありません。」と言いながら恥ずかしそうな顔をする。それを見ても、ニコニコとした表情を変えないランベルトを見て、いけ好かない男だと思った。
「俺の好みを聞いて、まだ何か企むつもりですか?」
「いえいえ、そんなつもりは無いですよ。ただ…お茶に薬まで入れて準備して差し上げたのに、本当に勿体ないと思いまして。」
「なっ…!」
俺は、お茶を飲もうとした手を止め、ティーカップを確認した後、ランベルトを睨みつける。道理であの時、急に眠くなったわけだ。油断できない奴だと改めて警戒感を強める。
ランベルトは、俺が睨みつけても意に介さず、ニコニコした表情のまま、お茶をコクコクと飲む。
「安心してください。この通り、このお茶には何も入れてませんよ。ああ、ちなみにお茶に薬を入れたのは私ですから、イルメラを怒らないでくださいね。」
イルメラに目を向けると、申し訳なさそうな顔をして頭を下げられた。手は下していないが、ランベルトが薬を入れたのは知っていたのだろう。
「それと、イルメラとの伽については、否定も肯定も、それから王への抗議もしないでください。」
「何故ですか?それでは、イルメラが誤解されて可哀そうじゃないですか?」
「逆ですよ、イズミ様。あなたと伽をできなかった事が分かれば、イルメラは王命に背いたことになります。これは、不名誉どころかへたをすれば反逆です。」
「そんなバカな、それぐらいの事で反逆なんておかしいですよ。」
「イルメラは、下級貴族で上の者からすれば取るに足らない存在です。失敗すればどのように扱われても仕方ないのですよ、この世界では。あなたのいた世界と違ってね。」
ニコニコ笑っていたランベルトが僅かに目を開けて俺を見据える。俺はぐっと息飲んだ。
「俺が向こうの世界から来ている事は、口外禁止だったはずです。どうしてそれを…。」
「ふふっ、イズミ様は正直すぎますね。そして優しすぎます。」
しまったと思ったがもう手遅れだ。どうやら俺はランベルトにまんまと嵌められてしまったらしい。本当に嫌な男だ。
「まー、ほとんど確信していましたけどね。一週間行方をくらませ、どこを探しても手がかりさえ見つからなかった姫様が突然帰ってきた。そして、迎えに行った先は、転移門のある地下の魔導工房。イズミ様は、見たこともない服装で、こちらの常識もご存知ない。」
「…なるほど、確かに気付く人がいるかもしれませんね。」
「だからこそ、気を付けて頂きたい!」
急に語気を強められ俺はビクッと驚く。一瞬ランベルトに鋭い視線を向けられた気がしたが、すぐにニコニコとした表情に戻っている。
「幸いにして私以外に確信を持っているものはさほどいないでしょう。ですが、イズミ様の行動如何によっては、命に関わることを肝に銘じてください。」
命に関わると言われ、俺はゴクリと唾を飲む。
「貴族にとって身分の無いものなど虫けら同然です。思惑にそぐわない者は、簡単に排除されてしまいます。誰が味方で誰が敵なのか見極め、迂闊な行動は避けてください。」
俺は、目の前でニコニコと笑う男の顔を見つめる。正直言ってあまり好きになれないし、嫌な男だと思うが、イルメラの事も含めて色々と忠告もしてくれた。だが、まだ信用していいのかは分からない。
「ランベルト。あなたは俺の敵ですか、それとも味方ですか?」
ランベルトが俺の質問にくくっと笑う。
「いい傾向ですね。敵か味方かどっちだと思いますか?」
またはぐらかされた。本当に嫌な男だ。
「私が今何か言っても、あなたの信用を得るのは難しいでしょう。二日、いや一日だけ時間をください。イズミ様の信用を得て見せますよ。」
「ランベルトは、どうして俺の信用を得ようとしているんですか?何が目的なんですか?」
ニコニコと笑ったままだったランベルトの表情が崩れ、少しだけ眉に皺が寄る。
「目的ですか。そうですね…私は、ただ、敬愛する姫様が作り笑いをするのをお止めしたいだけかもしれません。」
好きになれないし嫌な男だと思っているが、それでも少しは信用していいのかもしれないと、少しだけ見せてくれた寂しそうな表情を見て、そう思った。
ランベルトは敵なのか味方なのか?
今後の展開をお楽しみに。
次回は、明日更新予定です。




