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オレの嫁は、異世界育ち。  作者: 十草木 田
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イルメナへの王命

 夕食は、客間に用意されイルメラに給仕されながら食べた。なんだか自分が偉い人扱いされるのが落ち着かず、少し居心地の悪い時間だった。料理は豪華なコースになっていて「すごいですね。」と驚いたが、イルメラは首を傾げて「ごく普通の夕食ですよ。」と言われ、価値観の違いに驚いた。


 食事が終わると、湯あみの準備が出来たと言われ客間に備えつけられている浴場へ向かう。今日は、色々と常識の違いに驚いたり、アンナのおじさんとおばさんとの話し合いがあったり、その後アンナと話ができなくなったりで、疲労や鬱憤が溜まっていた。お風呂で気分転換ができるのはありがたかった。


 風呂場に付くと、自分で服を脱ぐことは許されず、イルメラに脱がされた。すごく恥ずかしいが、ここにいる限りはあきらめるしか無いと覚悟を決める。しかし、風呂の中までイルメラさんが付いてきたのには参った。


「なんで、イルメラも入ってくるんですが?」

「なんでと申されましても、中に入らなければお体をお流しすることができません。」

「いや、自分でできますから!」


 女の人に体を洗われるなんて、さすがに勘弁してほしい。俺も成人男性なので色々と困る。しかし、イルメラは「そういうわけには参りません。」と言って困惑する俺を無視して体を洗い始める。体を洗い終えると湯船につかり、浴槽の淵に仰向けで頭を載せ、髪を洗われる。恥ずかしさはあるものの、これは気持ちが良い。緊張がほぐれるのと共に、疲れていた心も癒されていく気がする。


「あの、お城の中の人は、皆さんこうやってお風呂に入るんですか?」

「そうですね。城の者というよりは、王族や貴族は、側仕えがお風呂のお世話させて頂いておりますよ。わたくしも貴族の端くれですので、城に務めているとき以外は、家の者が同じように世話をしてくれますよ。」


 なんと、イルメラも貴族だったとは、メイド服のイメージで城の下働きだと思っていたが違ったようだ。貴族の女性に頭を洗われている状況に恐縮してしまう。という事はヘルミーナやマティルデも貴族なのではと思い聞いてみる。


「あの、イルメラが貴族という事は、ヘルミーナやマティルデも貴族なんですか?」

「そうですよ。とは言いましても、わたくしは下級の貴族、ヘルミーナ様やマティルデ様は上位の貴族で、同じ貴族と申し上げるには身分違いで恐れ多いですが。」


 貴族の中でも身分差があるのかと考えると、日本の庶民である自分がこんな優雅な扱いを受けてよいのかと思ってしまう。そんな事を思っているうちに、イルメラが「お流ししますね。」と言って髪についた泡をお湯で流してくれた。




 お風呂から上がると、肌触りの良いゆったりとしたパンツとガウンを着せられ、部屋へと戻る。恥ずかしい思いはしたが気分転換になったと思いながらソファに座ると、イルメラが温めのお茶を淹れてくれた。お風呂に入り喉が渇いていたのでごくごくと飲み干す。


 落ち着いたところで、アンナの事を考えた。国の為に義務を果たし、政略結婚をするという。アンナは、すごい覚悟をもって俺に会いに来たはずだ。それこそ地位や家族すべてを捨てるつもりで俺との結婚を望んだに違いない。それなのに、俺はヘルミーナに諭されたとはいえ、結果的にこちらに連れて帰ってしまった。


 アンナは、どんな気持ちでこちらの世界に戻ってきたのか想像もつかないが、俺と一緒にいたいという自分の願いと、王女としての義務感の間で揺れていたに違いない。知らなかったとはいえ自分がアンナを追い詰めていたことに、胸がぎゅっと締め付けられた。

 明日の昼食会で何て声を掛けようかと考えていると、疲れが出たのか急な眠気に襲われる。


「すいません。疲れたみたいで…急に眠くなって…。」

「寝台は整えてありますので、いつでもお休みになれますよ。」


 イルミナに案内され、眠気と戦いながらベットの中に潜り込むと、俺はあっという間に眠りについた。

 



 俺は、揺れを感じて目を覚ます。目を開けると薄暗い知らない天井がみえる。徐々に意識がはっきりとしてきて、ここが自宅ではなく異世界の城の中だと思い出す。

 意識がはっきりしたことで、ベットの上に誰かが座っている事に気付いた。髪を下しているので一瞬誰か分からなかったが、座っていたのはイルメラさんだった。


「イルメラさん?」

「申し訳ありません。…起こしてしまいましたね。」


 イルメラが枕元に手をつき、髪をかきあげながら俺の顔を覗き込む。俺はイルメラを見てドキッとした。肌が透けて見えるほど白く薄いワンピースの胸元は大きく開いている。前かがみになったイルメラの豊かな胸が、俺の顔の前で存在感を主張している。なんて破廉恥な!

 俺は慌てて体をイルメラの反対側に捻って目をそらす。


「な、なんて格好してるんですか!」

「殿方にお喜び頂ける格好をと思ったのですが、イズミ様のお好みには合わなかったでしょうか?」

「俺の好みとかじゃなくて、何でそんなあられもない格好をしてるんですか?」

「それは…イズミ様の伽を仰せつかっているからですが…。」


 俺は寝起きに起きた事態に混乱していたが、徐々に冷静になっていく。いくら世話係とはいえ、ここまでするのはやりすぎだ、これじゃどこかのエロ漫画じゃないかと。そしてイルメラのセリフを思い返す。


「イルメラは、誰に仰せつかって俺の相手をしようとしてるんですか?」

「王命に従い伽の相手をさせてください。イズミ様は、その…わたくしではご満足頂けないでしょうか?」


 申し訳なさそうな、懇願するような顔をするイルメラの姿に、胸の中に怒りが沸々と込み上げてくる。

俺は体を起こし、布団から出ると足元に広げてあった羽織を手に取り、イルメラさんの背中にふわりと羽織を掛ける。


「王命ということは、おじ…王様に言われたって事ですよね。」

「はい、その通りです。…王の命令は絶対です。ですから…その…。」


 俺は「くそっ」っと言って布団を殴ると、イルメラが小さく悲鳴をあげた。

 王様の命令ってことは、おじさんがイルメラに俺の伽をさせようとしたってことだ。アンナの代わりにイルメラを宛がったつもりなのか?こちらの世界のやり方なのか知らないが、俺にとっては馬鹿にされているとしか思えない。何よりイルメラが不憫すぎる。


「も、申し訳ありません。…わたしのような見苦しい者が、イズミ様のお目汚しをしてしまい。」

「そうじゃないですよ。俺が怒っているのは、こんな事を命令する王様にです。それに、その…イルメラは十分魅力的だと思いますよ。」

「そ、そのような恐れ多いことをおっしゃられては…。」


 俺が王様に怒りを向けたせいか、イルメラが慌てた顔をして俺を窘めようとしたところで、天蓋のカーテンの向こうから笑い声が聞こえた。


「くくくっ、イズミ様は本当に面白いですね。イルメラの誘いに素直にのってくれていれば私の仕事も楽だったのですが、そうもいかないみたいですね。」


 部屋の中が薄暗い上にカーテンで姿は見えないが、声からするとランベルトのようだ。俺はランベルトの言葉に警戒して体を強張らせる。


「イルメラ。イズミ様はあなたを抱いてはくれないようですよ。下がって着替えてきなさい。」

「で、ですが、それでは私は王命に背いたことに…。」

「大丈夫ですよ。イズミ様が、悪いようにはしないですよ。」

「それは、どういう事ですか?」


 問い詰めようとしたところで、ランベルトからここから先は顔を見ながら話しましょうと言われ、俺も裸同然のイルメラを側に置いて、話を続けるのは気が引けたので、その誘いに乗らせてもらった。

王様はイルメラにひどい命令をしていました。

イルメラはちょっと不憫な子です。


今日は、あと一回更新します。

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